ばけもの子供の物語 温
人肌の温もりが伝わってくる。
その少女とつないだ手を決して離さないようにしよう。
何があっても。
そう思った。
僕はとある村から逃げ出している最中だ。
その村は、ばけものを飼い殺しにする掟のある村だった。
だから僕は、生かさず殺さず、ずっと利用されている飼い殺し状態だった。
それはとてもおかしな事だった。
だから、そのままいたら僕はおかしくなっていたかもしれない。
だって僕は、ばものだから。
その飼い殺しというのにされて、少しずつおかしくされて、大切なものが何かも分からなくなっていくなんて嫌だった。
だから。
逃げ出したのだ。
でも、一人では逃げ出せたか分からない。
僕が普段いる小屋には、閉じ込められていた小屋には、鍵がかかっていたから。
そこに少女がやってきて、鍵をあけてくれなかったら、外に出る事もできなかった。
僕は、その少女と手をつないで走り続ける。
あそこは、小さな村だった。
手に持った地図にはいくつもの村や町がある。
けれどその地図に目をこらしてみると、僕がいた村なんてただの点でしかなかった。
世界は広くて大きいんだって事、今まで知らなかった。
「おまえみたいなばけもの。どこにも受けいれてくれるところなんてない」
そう言われて育ってきたから、その通りだと思っていた。
逃げ出したいけれど、居場所なんてないと思って、挑戦もせずに、諦める事が多かった。
けれど、世界がこんなに広いなら、きっと僕を受け入れてくれる場所もあるはずだ。
走っても走っても村から離れられないのが証拠だ。
これだけ走ってもまだ次の村へたどり着けないのが証拠だ
抗いがたい壁の高さは、裏を返せば希望になる。
それだけ世界は広い。
だから、頑張ろうと思った。
僕を助けてくれた少女の、この手を離さないようにしなから。