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巽日記、  作者: 庚午澪
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飛び石

 ため息混じりの呟きが零れ落ちた。

「所詮褒められても、ガワで、アバターで、絵なんだもんな……」

 どうもメガネ男子のバーチャル配信者のことを言っているようで、その熱が冷めたらしいことが声色と口調から察して余りある。

 無軌道配信から繰り出されるエンタメ力に優れていながらも、メタいこと発言連発するバーチャル配信者だったと記憶するが、それで悟ってしまったのだろう。

 企業勢で同期コラボの遅刻をデフォルトとし、外とのコラボでは同期の介護で遅刻せずに出席するも、人見知りを発症して魅力が一割も発揮されず。

 ミーティングに遅刻する姿に、同期からお叱りの呼び出しを受けるも、寝坊に加えて寝ぼけ声で逆ギレをした後へそを曲げる。

 かなり好き嫌い分かれる存在だけれど、確実に配信者としてのファン数が万単位で付いていた。

 何がリスナーを引き付けるのかと言えば、アバターのデザインと中の人のキャラクター性に尽きるのだとか。

 同期生からはクビだけれど、一部の熱狂的リスナーにより、温情として事務所の新人オーディションからやり直すことを許された経歴がある。

 そもそも中毒性があると、同期がファンになってしまうほどの強個性。

 首を回避するも先輩なのに新人の六期生目指してオーディション中らしく、オーディションの段階なのに姿があり3D化されてるの笑うとか、設定画面を配信してしまうので新人に間違いないとか、イジられていて楽しいとメガネ男子が以前語っている。

「危うくファンを続けていたら、リスナーの証に破けたパンティの穴から片目を出す形で被らなければならないところだった」

「どういうこと? 洗脳されるの? 怖いんだけど」

 正気とは思えない習わしに恐怖を覚えるが、メガネ男子は疑問に答えず、嘆いてみせた。

「中の人はかわいいらしいけど実写でも結局、胸に触れることは出来ないんだよな。画面をタッチしても虚しいだけ……」

「いや、リアルでも無理だろ。強制わいせつで捕まるって」

 聞いてあげてるだけでも感謝して欲しいと思ってる朝月は、クラスメイトの犯罪を未然に阻止する。

「分からないだろ! もしかしたら、声をかけてそういう関係になるかもしれないだろ」

「100パーセント無いに決まってるじゃん。現実にラッキースケベで胸を触られて許す女子は居ないんだから、男子に都合のいい少年マンガの読み過ぎだよ。絶対やったらダメだからね」

 本当にこのクラスメイトは欲望を隠そうともしないから困る。

 だから一部の女子から警戒されてもいるというのに。

 聞こえてしまった以上、注意しておかないと不安にさせられる。

「だが、女子と仲良くなるチャンスだと思ったら声をかけないと損だろ。絶対後々まであの時声をかけていればってーー」

「じゃあ、練習だと思ってクラスでカースト一位と思う子に話しかけて来なよ」

「ーー鬼か。チャンスが訪れる前に死ぬぞ」

「いつもしていることでしょ? 女子を前にしても素直であり続けるメンタルなら、何ら問題ないんじゃない?」

「問題だ。これでも人を見てさらけ出してるんだからな。大丈夫そうな相手にしか言ってないだろ。ガチのマジでクラスの一軍なんかをナンパしたら、キモがられて辛辣な言葉を返されるに決まってるだろ。最悪全女子から無視されたらどうする?」

「声をかけたくらいでそんなことになるわけないでしょ」

「なるんだよ。巽だから知らないだけで」

 一応この会話から、いつもの変態発言は大丈夫そうな相手を選んでいるのと、自覚があることの確認にはなった。

「それより、放課後川に行かないか?」

「は?」

 脈絡無く誘われ、ポカンと相手の顔を見返す。

 いつも通りメガネ男子は勝手に喋り出した。

 何でも神社の前を流れる川に対岸へ渡れる飛び石が新たに出来たので行こうという話をされた。

 絶対エモさ目的で女子が集まるから、声をかけて仲良くなるチャンスがあると下心を隠さず目的を教えてくれる。

 今日はどこの部活からも遊びに誘われてないが、放課後はバドミントン部に遊びに行きたい気分でいる。

 連れて行けば女子から声をかけてくるから、そこから話を繋げようという魂胆に違いない。

 相変わらず朝月にはどうでもいい話に、適当な返事をして、朝月はお昼に新作のバタークリーム味噌パンサンドを食べる。

「んっ、おいしいかも」

 パサついて飲み物必須な味噌パンが、微量ながらクリームで軽減され、味噌の風味とバタークリーム風の甘さが合わさって悪くない。

 人を選ぶという意味ではスタンダードな味噌パンと変わらないし、サンドした厚みでかじりつきにくさあるけれど、味の面でいえば親しみやすくなっている気がする。

 パサパサした感じの味噌パンには、元から牛乳をお供にしていたので、朝月的に無しではなかった。

「女子に囲まれた学校生活を送ることが夢なんだ。頼む、協力してくれ!」

 無視していたのに勝手に拝みたすメガネ男子。

 どう話をそこに繋げたのか分からないけれど、相手にありえそうな言葉を雑に返す。

「女子たちの怒りを買って囲まれる未来なら、ありそうだね」

 また一口バタークリーム味噌パンサンドにかじり付く。

「うまうま」


 涼火は放課後、学校を出てクラスの女子数人と神社近くの川へ来ていた。

 本当はちょっと部活で運動してから帰りたかったが、女子がまとまった上で誘われては、断るよりも首を縦に振った方が面倒でないと判断した。

 断ったところで大した問題もないが、いつもの友達やオタク女子以外のクラスメイトとたまには交流しておいても良いかとも思った。

 人を遠ざければぼっちにはなれるが、放課後に誘われるのは、努力しても叶わない人も居る。

 それに女子数人と遊ぶのはとっても青春ぽく、今を逃せば二度と青春が来ないなら、参加しておかない理由は無い。

 祝のようにある日突然という前例もあるし、兄という要素があるから、普通の青春が体験出来る時に体験しとかないとという気になる。

 一緒に居たクラスメイトと、カツッ、カツッっと石段から土手に下りる。

 川の左右は護岸に囲まれ、両側二メートルほどの土手があり、水の流れる川幅は八メートルかそこらだ。

「あった、あった!」

 スムージーを手に上からも見えた飛び石の方へ、短い距離を遡上するロングヘアの彼女。

 水の流れのように揺れる髪の後を、もともと興味の無い涼火はのんびりとついて行く。

 追って目を向けた先には、水面から三十センチの高さまである十基の飛び石があった。

 足場の部分は直径七十センチらしい。

 今日の目的はそこで写真を撮ること。

 確かに川の流れと飛び石、撮り方によっては背景に赤い橋や川の上には遮るものが何も無いので空が写るし、女子が集まってフレームに収まるだけでフォトジェニック的な魅力を感じるのは理解出来る。

 けれど周りの女子よりも、イベントごとや何かある度にスマホで撮る習慣の無い涼火的には、どうでも良かった。

 せいぜい皆が嬉しいなら、自分の許容範囲内で付き合うだけだ。

 もっとも嬉しいか嬉しくないかで言ったら、誘われて嬉しくないわけがなかった。

 特定の人とつるむことが多いので、たまに他とも交流を持ちたいと思っても、どうしても面倒くさくて後回しにしがちだからだ。

「まだ、誰も戻ってきてないね」

どうやら二人が一番乗りらしい。

 クラスの女子と一度は川にやって来たが、どうせなら近くのクレープやチュロス、可愛い物を片手に撮りたくない? と自然と生まれた提案に、秒で賛同の声が上がり、各々調達に一時解散していた。

 すると上の方から声がかかり、反応して身体を回しながら振り仰ぐ。

「早いじゃーん! なぁに買ったのー!」

 視線の先には三つの人影。

 元から仲良し組の中から一人、涼火たち二人を見て抜け、土手に下りる階段を軽やかに下りて来る。

「スムージー!」

 ロングヘアの友達は手を軽く振りながら、相手の質問に答えた。

 抜け出して先行する女子は、ドーナツを手に持ち、土手を小走りにやって来る。

 土手は歩けるようになっていても、石や土の凹凸があり、心配になった涼火は注意を飛ばす。

「急がない! 走ると危ないぞ」

「大丈夫だって!」

 たった数メートルの距離を急いだところで仕方ないのに、彼女の足取りに合わせて肩から下げたバッグが揺れる。

「あっ!?」

 危惧通り足元を滑らせ、踏み出した足が前へ滑り、身体が後ろに傾いだ。

「っ……!」

 涼火はとっさに前に踏み出し、相手の腕を掴んで引き寄せる。

 とっさで力加減などしていないため、今度は涼火の胸に飛び込んでくる身体を、膝を折って勢いを吸収するように受け止めた。

「っぶな……!」

「?!?!??????」

 彼女は状況が理解出来ておらず、地面に片膝をついた涼火の腕の中で固まっていた。

「お、おぉ……転ぶかと思った」

 呑気な声と共に、丸く目を開いた顔で、涼火を見上げる。

「転んだと言っていいんじゃないかな。危ないって言ったよね?」

 内心ホッとしながら真剣な顔で見下ろすと、腕の中のクラスメイトはゆっくり頷いた。

「うん、ごめん。けど今の涼火ちゃん、めっちゃカッコいい!」

 反省の色が見えたのは一瞬、大きな瞳が見つめてきた。

 叱ったばかりと繰り返しても、女子の切り換えの早さから無駄だと諦める。

「ありがと」

 胸の中の彼女が、落とさなかったドーナツを花束かのように差し出してきた。

「付き合って。彼氏と別れるから」

「……付き合わないし、この前別れたって言ってませんでした? もう別れてるでしょ」

 教室で友達に愚痴混じりに報告していたはずだ。

「バレてたか」

 もし交際中でも交渉の材料になり得ないが、向けられる視線にため息が出そうになる。

 「良いから早く下りてくれないかな?」

 片膝をついて受け止める姿勢にも限界はある。

「じゃあ、下りたら付き合ってくれる?」

 何でそうなるのか、彼女の身体を押し上げた。

「早く下りなさい」

 やかましいクラスメイトには、これ以上取り合わずに残りを待つことにした。

 各々食べたい物を周囲で調達した結果、ドーナツ、鯛焼き、スムージー、クレープ、プリン、米粉チュロス、牛乳パンと映えそうな物に混じり好きな物を手に集合するクラスメイトたち。

「ジェラートすぐ溶けそうだから諦めたー」

「けど、あそこのジェラートカップ可愛くない? カップだけでも良かったと思う?」

「溶けるの早いから早く食べると、頭キーンなるじゃん。治るまで待つと溶けるし、今じゃ無いかなって」

 涼火は巻き込まれた形での参加。

 そのため適当に通学バッグに入っていた棒付きキャンディーを取り出す。

 橋の上から見下ろす画角、縦に並んで前の人の影から顔を出して繋がる画、そして飛び石の上に立った一人一人がポーズを取ったシーンをスマホで撮影したいとプランを聞かされた。

「そういえば弟の小学校の運動会でさ。創作ダンスの発表が、ミームダンスのメドレーだったんだ。しかもーー」

 当然と言えば当然なのかもしれないが、運動会後に保護者からクレームが入ったらしいと、クラスメイトの女子が笑う。

「えー、私ならミームダンスの方が良いな。ホントはダンスがK-POPだと嬉しいんだけどね」

「あるある。アニメとか特撮の知りもしない曲やちょっと旬じゃない曲で、変な振り付けで踊らされるやつ」

「全校で踊る場合は、一年生も踊れるように手振りと足踏み、ターンで構成されてさ。バリエーションに欠けるから単調で、ダルくて適当になっちゃうよね」

「小さい子が一生懸命なのは見ててかわいいよね~」

「分かる! もう男子の隣で踊ってないで、そっち行っちゃいたかったな~」

「そ? 私は運動得意じゃないから、簡単なダンスは助かるまであったんだけど」

 各々喋り出して撮影に進まず、このままもうしばらく続く気配を感じさせた。

 すると不意に聞き慣れすぎて聞き飽きた声が耳に入る。

「あれ? 涼火ちゃん?」

「兄貴……」

 振り向く前から分かっていたが、思い浮かべた通りの朝月がそこに居た。

「鯛焼きじゃん」

 意外そうな顔を貼り付ける手に鯛焼きがあり、食べ物選びの時に目にしていたこともあって、無意識に呟いていた。

「食べる?」

「食べる」

 兄貴の手を取り、顔を近づけて鯛焼きを食べる。

 物欲しそうに見た覚えはないが、据え膳食べぬはということで齧り付く。

「ごちそうさま」

 中身も思った通りのスタンダードな粒あんで、口の中に広がる甘味を咀嚼しながら身体を起こす。

「お兄ちゃんじゃん! やっほー」

「うおっ?! 危なっ」

 しかかるように背後から狙われ、それでも女子の突進だから涼火は受け止められた。

 すると肩越しにクラスメイトから、兄貴を誘うように耳打ちされる。

 別に兄と一緒が嫌でない妹なので構わないが、問題点を提示して返す。

「兄貴入れたら十一人、一人あぶれるぞ?」

 渡るための飛び石は十、人数が合わなくなるが、ほぼノータイムで答えが出された。

「お兄ちゃん小さいから二人乗れるでしょ?」

「まぁ、相手の身体小さければな」

 一つの飛び石に二人は、小学生くらいでないと厳しいのは一目瞭然。

 抱き合うならそれ以上でも可能だろうけれど……

「それに皆で撮れないかと思ったけど、誘えばカメラ役も調達出来るし、ちょうど良くない?」

 そう言ってクラスメイトが、兄貴の隣に立つメガネ男子を見やる。

 いつものメガネ男子で、隣に比較対象があるせいで兄が小さく感じた。

 彼なら女子から頼めば二つ返事で引き受けるだろうし、都合よく使われるのだとしても、本人は喜ぶに違いないから問題なさそうだった。

 もっとも以前、小動物的な兄には女子が寄ってくるから、それを期待して一緒に居ると自分自身で口にしている。

 朝月をダシにする方針を隠そうとしない辺り潔いが、言っていることは女子からしたらクズにしか聞こえず、図鑑で知ったサメとコバンザメとかカメとフジツボのような片利共生(へんりきょうせい)のようだと思った記憶がある。

 ちょうど朝月が飛び石の方に歩き出し、入れ替わりに女子がついていこうとするメガネ男子の前に割り込んだ。

「ちょっと良いかな? お願いしたいことがあるんだけど……良い?」

「あ、あぁ、任せろ!」

 せめて何を頼まれるか聞いてから、了承の返事をしろと思うが、涼火は兄の後について行く。

「あのね、頼みたいのはーー」

 説明をする声を背に、声をかけられただけで嬉しそうにしていたし、交渉は成立するだろうと離れた。

「何か雨降って増水した時、ちゃんと入らないように出来るのかな?」

 涼火は階段の前で足を止めた朝月が漏らしたその疑問に付き合う。

 飛び石までは土手に階段があるだけで、柵とか無いためコーンを立てて封鎖しても、飛び石の上に立ってしまう人が出そうではある。

「難しそうだね」

 上流下流含めて土手に繋がる階段があるので、その護岸の入り口を閉鎖しないといけなそうだ。

「あと台風とか来たら増水して、翌日には傾いてそう」

「分かる。だいたい台風くると飛び石の足場くらいまで水増えるもんな。意外とゴミが流れてくるし、たぶんそれも踏まえて工事してるんだろうけど、今年の冬前に撤去されそう」

 せっかく地域の憩いの場や観光客のフォトスポットとして設置したのだろうけど、正直な感想としては必要なのか疑問ではある。

 残って存続したとしても、冬場も封鎖しなければ、足場に溶けた雪が凍って危険極まりない。

 浅い分溺れたり流されたりはないだろうが、逆に飛び石を踏み外した時、川底に頭を打ち付ける可能性は否定出来なかった。

飛び石(こういうの)って他の支流から流れ込まない、雨降っても余り増水しない川に作るもんじゃないの?」

「でも、皆は気にしないようだし良いんじゃない。今は」

 付き合って色々考えたけれど、朝月もそこまで真剣に話してはいないので、隣で再び鯛焼きに齧り付いていた。

 そして皆土手の大きな岩の上にカバンを列べて置き、飛び石の前に集まった。


「大丈夫ー?」

 女子がそう問いかけた。

 靴と靴下を脱ぎ、スラックスの裾を膝まで捲り上げ、川の流れの中に立つメガネ男子が返事をする。

「我慢出来るくらい……かな。心配してくれてありがと……」

 やせ我慢にしか見えないけれど無理やり笑顔を作る姿は、女子に飢えている男子は可哀想の一言しかない。

 この変わり者なメガネ男子に限る話かもしれないけれど。

「皆でポーズ取るやつも、まだ水が冷たいと思ってたからちょうど良かったよ」

「そうだな」

 そっと視線を彼に投げたまま囁かれ、女子は恐ろしいと聞き流す。

 飛び石に並んだ状態を縦ではなく、横並び全員を収めようとすると、川に入ってスマホを構える他なかった。

 メガネ男子が居なければ、誰かがやっていた役割かも知れず、こと女子グループによっては気を付けないと内紛の火種になりかねない。

 別に川へ入ることが構わなくて自発的でも、今後そういう場面で係になってしまう可能性があり、自主的でも可哀想と善意で味方されてしまえば押し付け合いが始まってしまう恐れがある。

 そんな時は言い出しっぺが候補で上がるも、何しろそれをしたい筆頭なので話がまとまるわけも無く、では誰にするかの探り合いになって雰囲気が悪くなること必須だ。

 涼火の考え過ぎかもしれないが、女子グループとはそういう可能性も孕んでいると思って、集まりには加わることにしていた。

 幸い今まで涼火が関わらせてもらったグループは、居心地が悪いことも崩壊してしまうことも未経験だった。

 水位は深くてもくるぶしの上までなため、夏場に川に入る人を見かける。

 しかし、この時期に男子に入らす女子の非情さと無感情に改めて恐ろしさを確認した。

「良いのか? 兄貴。アイツ、明らかに都合のいいパシり扱いだけど」

「別に。死んでもあの性格は直らないし、嬉しそうじゃん」

 言われてメガネ男子を見やると、スマホで顔が半分隠れているが納得するしかない。

「それもそうだな」

 女子がとる興味ない男子への対応なんて、こんな物かと考えを切り換える。

 撮影会を終えるとドンじゃんけんをして遊ぼうという声が上がった。

 大抵は幼稚園、保育園時代に一台の平均台の左右数人に分かれ、渡ってった先で相手とじゃんけんして、負けたら下がり勝ったら進むという遊びだ。

『ドン』は相手と当たる擬音を表したものなのだろうか? ともかく先に相手陣地に到着した方の勝利となるゲーム。

 けれどステージが飛び石である上に川なので、そこは一番手だけスピード勝負で、その後は勝った側が一マス進めるルールに話し合って決めた。

「よ~うい、スタート!」

 お互いチーム分けした一番手が飛び出し、利き手を振り上げる。

「「じゃんけん! ポンッ!」」

 勝敗がついて負けた方が飛び石を戻る。

 飛び石の足場は狭く、二人乗るには余裕が無い。

 なので上ですれ違う時に、後ろに控えた女子とぶつかりそうになる。

「きゃぁっ! ごめん」

「あはは、大丈夫。仇とってくるよ!」

「うん、お願いね!」

 入れ違った女子が、一つ進んだ相手チームとじゃんけんをする。

「最初はーー!」

「えっ!? ちょちょっ、まっ!」

 先ほどは『じゃんけん、ポン』のかけ声のみだったため、急な『最初はグー』始まりで、タイミングがズレてしまう。

「ごめんごめん! もう一度もう一度」

 仕切り直して行った勝負は、お互いに相手とのタイミングを計ろうとタイミングを失った動きになってしまって、三度目のじゃんけんに持ち込まれた。

 それで険呑になるどころか、微妙な状況が逆におかしく、きゃっきゃっと笑い声が二人から上がる。

 ある女子は逆さに組み合わせた手を身体の前で一度捻り、手の穴から向こうを覗いてから手を出し、他の女子は何を出すのか宣言をしてから挑み、中々に盛り上がった。

 絶えず女子たちの楽しそうな高い声が、水量の無い流れの音をかき消して護岸に反響する。

「また負けたー!」

 朝月も楽しそうに混ざり遊んでいた。

「お兄ちゃん、初手パーかチョキしか出さないんだもん。だから二回目までなら、チョキ出してあいこならパーで対応出来ちゃうんだよ」

 笑いながら女子が種明かしする。

 しかし、それを踏まえた次の順番でも悔しがる姿が見られた。

「くうぅ……何で勝てないんだよ!」

 今度はグーを出しがちになり、遊ばれてまたも負けを重ねてしまう。

 他校の生徒がやって来たので一旦場所を譲ることにし、撮った画像をチェックしながらお喋りに興じる。

「うん、イメージ通りだ。ありがとう」

「良いじゃん良いじゃん! なんかすっごく青春て感じ」

「私にもデータ送って」

「ごめん、スマホの容量ヤバいんだ。小さく欲しいから、グループに上げてくれる? これとこれ」

「了解ー」

「うわ、ちょうどスマホ構えてて顔隠れちゃってる。誰かこの時の写真ある?」

「あるよー。じゃんけん時でしょ? 写ってるかは知らんけど」

 妹と一緒に立っていた朝月がここら辺で十分かと、皆から抜けて帰ろうと考えていたところ。

「距離が縮まったと思わないか? これはチャンスだろ。ここぞって時が来た気しかしないんだが!」

 メガネ男子が朝月に耳打ちしてきた。

 何の話か涼火は分からないが、兄が相当微妙な表情をするので、何となく察しはついてしまう。

 勘違いだと顔が語っているも、気づかないのかメガネを直して一人の女子の元へ。

 とりあえず二人とも目で追ったが、案の定メガネ男子は肩を落として戻ってくる。

「ふっ、所詮女子は男子に気があるかもと思わせる生物だ。しかしどうだ? ここぞって時が来れば、話したことも無い女子にだって告白出来ることを証明してみせたぞ」

 メガネ男子は平然を装って、失敗を強がって見せた。

 女子に声をかけて肩を落として帰って来るまで、一部始終を見ていたので無駄な努力なのだけど。

 すると兄が傷心の傷口に塩を塗り込む。

「他校の生徒にも言える? ナンパ出来るの?」

 飛び石の上でスマホを構える制服の違う女子に視線を移した。

「……」

「おにーちゃん! お願いしたいことがあるんだけどさ? って、どうしたの?」

 何やら頼みに来た女子が、敗北を突きつけられて固まるメガネ男子をチラ見する。

 先ほどまでの浮かれた姿が、きれいさっぱり失せているのだから気にもなるだろう。

「気にしないで。いつものことだから」

「そお? じゃあ、お兄ちゃんもう一度一緒に動画撮らない? この中だとお兄ちゃんが適任なの。頼めないかな?」

 視線を合わすように前屈みに、顔の前で手を合わせて片目をつむる女子。

 漫画以外、現実でこんな仕草する人居るんだと内心呟く。

 メガネ男子が何の反論も出来ないのを見て取り、女子にオッケーを返す。

 しかし、朝月は頼みの内容を確認せずオッケーしたことをすぐに後悔することに。

 最後にやりたいと提案されたのはインドネシアの伝統のボート競技、そのミームだった。

 進むボートの先端で男の子が踊るものなのだが、明白に背が小さいから声がかかった役割で違いなかった。

 けれど不満を持ちつつ一緒にスマホで曲をかけて動画を撮影した。

 すると背後の漕ぎ手や見ていた他校の女子からも声が上がる。

「かわいいー!」「ワンモア! ワンモア!」「少し腰低く、良いよ! 完璧かわいい」「誰か~、サングラス持ってない?」「サイズ感ピッタリじゃん」

「うっ、うるさい!」

 土手でスマホを構える涼火に半笑いでバカにされ、かわいいとか恥ずかしくて身体を震わす朝月だった。

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