短い月
「ねぇ、何で二月は一月と三月から一日ずつもらわないんだろ?」
いつものように突然それは始まった。
姉が置いていったヨガマットの上で、涼火がストレッチしているところに、映画を観ていた朝月が疑問を漏らした。
「は?」
その疑問は観ていた映画とは一切関係なく、兄から不意に零れた物だと、ながら見していた彼女にも分かる。
膝を抱えて前後に揺れる朝月が話を続けた。
「二月って短いじゃん」
映画は良いのだろうかと、話していたら頭に入ってこないのではと、そう思いながら相づちを返す。
「まぁ、基本二十八日だからな」
もしかしたら兄的には、映画がつまらないのかもしれない。
「だったら前後から一日ずつもらって、三十日にしちゃった方が良くない? 三十日の月が並んだ方が揃ってる感じ出るじゃん」
「そう? かもな。でも、二月が二十八日なのも理由があるんじゃないのか? 昔からの暦が変わってないのは、そういうことじゃね?」
確かにそうとも言えるけれど、疑問も残るのは確かで。
「理由って何?」
「それは……分からないけど」
朝月が脊椎で喋っているとしても、後に振られた涼火が分かるはずない。
「なら、一月と三月から一日ずつもらっても良いよね。一年が十二ヶ月なのも、一カ月の日数も自然の都合じゃないし、人が決めたルールなんだから、変えても問題ないでしょ?」
「確かにそうかもだけど、たまに兄貴のロジックは怖いな」
朝月の予想外な考え方は何をしでかすか恐怖の何物でも無い。
いつも小学生の頃の整列程度なら助かるのだけど。
整列の際『前習え』の号令で、ずっと一番前だった朝月。
なので後ろを振り返り、クラスメイトを見ながら手を腰に当てる。
『タカシくん! 一歩左! あっ、タカシくんから見て右ね! そう。心太朗くーん! ちょっと右―!』
勝手に列を整え出した。
すると当然担任が何をしているのか、朝月に聞く。
『列を真っ直ぐにしています。一番前で腰に手を当てた後って、皆が揃うのを待つ謎時間でしょ? だったら何もしないで待ってるよりも、早く列べるように教えてあげた方が良いかなって』
そんな出来事を同じクラスだった祝から聞きていた。
「うん。兄貴、それでも二月は二十八日で良いんじゃないか?」
「何で?」
朝月は膝を抱えたまま、交互に足をパタパタさせながら首を傾げた。
「考えてみろよ。二月にはうるう年があるんだ。もし二月が三十日で構成されてみろ。一日増えたら三十一日間になって、ダルいじゃん。その点、今の二月なら一日増えたところで、他の月から一日二日少ない二十九日。まあ、増えてもまだ少ないから許そうって気にもなるだろ?」
うるう年に三十日や三十一日、もし三十二日なんてなったら、二月を恨む人が出てくるかもしれない。
途中、膝の上に顎を乗せていた兄は、その推論に身体ごと揺れて頷いた。
「うん、そうかも」
「だろ」
これで二月の疑問が一応の解消を迎えると、お尻の隣にあったデッキのリモコンを手に取った。
涼火はストレッチを継続しながら、胸の内で、やっぱり映画は頭に入っていなかったかと呟く。




