興味ないからに決まってるだろ
「県内が舞台のアニメが始まったんだけど」
「へー」
「でも、青春スポーツ物かと思えばタイムスリップしたり、他は化け物の話らしいし」
「ふーん」
「ほのぼの日常系は無いのかって話」
「そう」
シャーペンがノートの上を滑る。
「うちの県、アニメで何かと山は吹き飛ばされるし、人工衛星だか探査機なのかは落ちていくるし、宇宙人、化け物、日常系恋愛作品かと思えばマルチバース世界線だったり、SF要素がブチ込まれちゃうんだよ」
「大変だ」
「ちょっと山の方行けば普通に田舎だし、放課後に友達と青春出来るショッピングモールや水遊びの出来る公園だってあるのに、マンガやソシャゲでは部隊の支部扱いで戦場だし、あーうちの県でほのぼの日常系は無理なのかな?」
「さあ」
「何で返事が適当!」
「興味ないからに決まってるだろ」
明白だと不満に答え、蛍光マーカーを引いて印を付ける。
「親友として酷くない!」
「親友と思ったこと無いけど」
「友達として酷いよ!」
「友達だったの?」
「ク、クラスメイトとして……もっとちゃんとお喋りしてよ。ノート写させてあげるから!」
「要らない。要点だけならまだ参考に出来るけど、無駄なことも色々メモしてあって見づらいんだよ」
一考の余地無く、目力があって怖いと言われる目元上の眉を動かしもせず、速攻で断る。
「仕方ないでしょ。見返したとき、自分が理解出来るように書き込んどかないと分からなくなっちゃうんだからさ!」
「ふぅ、前日常系アニメにちょっと出たって喜んでたじゃん。それでダメなわけ?」
「応えてくれたけど複雑……クラスメイト止まりなのか私は」
オタク女子が地味に落ち込む。
いつも今のように近くにやって来ては喋り倒すので、適当に相手をしていただけなのだが、それは友達に入らないだろう? 教室の移動もこちらから誘った覚えないし、追い払う理由もないからお昼は一緒にしているだけで、休日に誘い合わせて遊んだ記憶もほぼ無い。
道で戯れてきたどこかの犬を相手にしている気分でいる。
「それで満足なわけないでしょ。オマケみたいにしか扱われてないから、県内が舞台のフューチャーされた日常系アニメが観たいの!」
「麻雀? の作品なかったっけ?」
「嫌だ。かわいい女の子たちが、何でもない毎日をキャッキャウフフしてるのが観たいの!」
「マンガじゃないんだからいちいち叫ぶなよ。うるさいな。なら自分で作れば?」
「そんなこと、私が出来るわけないじゃん。分かるでしょ? 何でそんなに適当なの!」
「興味ないからって言ったろ。何で出来ないことで胸を張れるの?」
「そりゃ張らなくても、あって有り余る人に比べたら虫刺され程度かもしれないけど」
何を言ってるのか分からないが、とりあえず後で彼女にアイアンクローをすることを決めた。
躾にはダメなことをした直後に、教え込まないといけないようだけど、胸いじりは何度言っても覚えが悪いので構わないはず。
「話を聞いているだけありがたいと思え。今、終わり頃までぼーっとしていたせいで板書を慌てて写したメモを整理してるんだから黙ってられない?」
「黙ってて済むなら、こうして話してないよ!」
「騒ぐなよ」
相手を前に眉をひそめ、急いで書き写した汚い字の翻訳に戻る。
「騒ぐよ! かわいい日常系キャラクターと同じ風景の中で生きてると思うと心躍るじゃん!」
「別に」
「何で!」
なぜアニメの一つや二つでテンションを上げられるのか理解できないが、ここまで相手の反応から今の話題は無意味と理解しないのだろうか?
会話のさしすせそですら、使ってやる気がないというのにーー仕方ない。
「何でって。どっちかと言えば山を吹き飛ばすくらい日常かなって」
「山が吹き飛ぶのが日常なわけないでしょ! 活火山育ちだったの? 違うよね。産まれも育ちもこの街でしょ!」
「いや、兄貴なら、なり行きで山を吹き飛ばしそうだし」
「……くそっ! 否定出来ない可能性を感じる!」
「あの成長のなさとか、化け物的な体力とか、宇宙人に改造されてても驚かないね。大抵、攫われた記憶って消されてるだろ?」
「確かに! 宇宙人にキャトルミューティレーションされて記憶改ざんされててもおかしくない!」
清書も終わる目処が立ち、口にした冗談に意外にも相手のノリが良かったので、この流れに話を合わせてしまう。
「母親の腹の中の時には、化け物と入れ代わっているって言われたら、信じてしまうかもしれないしさ」
確か前にオタク女子にオススメされた作品の中に、そんな話があったような気がする。
「もっともらしい証拠を並べられたら、妖怪に托卵されてても頷いちゃいそうだ!」
「別世界の兄貴はともかく、未来からタイムスリップくらいして来そうじゃない? 身長が伸びなかった理由を伝えに」
「クソっ! ありそうで怖い! でも過去の自分と会っちゃいけない説があるから、もしその時は阻止しなくちゃ! でないと世界の消滅か、個人の消滅とか起こっちゃうからーーそうすると!」
早口に喋っていたオタク女子は、ここで一旦息を入れ、スンと声のトーンを平常に戻す。
「やはりうちの県には日常系なんて似合わないから要らないな」
彼女の出した結論に、ノートを閉じて息を吐く。
「そ、楽しそうで何よりだ」
すると友達が長い髪を揺らしてやって来る。
「オタクの相手、お疲れさま」
「終えた頃に来るなよ。わたしの邪魔をしないよう言ってくれたら良かったのに」
次の授業に使う教科書とノートに交換しながら、ヒーロー並の登場の遅さに軽い文句をぶつける。
「でなければ、代わりに相手してよ」
「私と彼女が小粋なトーク出来ると思う?」
言われて二人で喋っている光景が思い浮かばなかった。
「無いな」
「でしょ。それなら会話AIに喋ったら?」
横目でオタク女子を見やる友達。
「クラスメイトが30人以上居るのに一人会話AIなんて悲しすぎるでしょ!」
さすがにキレるオタク女子。
「あれ? いつも私たちとの会話は生成AIに作ってもらってるんじゃないの?」
「さすがに酷くない?! 今もAI使ってリアルタイムで成立してるわけじゃないからね!」
しかし、その抗議を聞き流し、髪にブラシを通しながら言う。
「それより聞いてよ」
「授業始まるぞ」
「前髪直してあげるから」
「間に合ってる」
一度髪留めを外し、前髪を後ろに持っていき、挟み直して固定する。
「次の休み時間に、教室移動しながら聞いてやるから」
いつも遅れてくる教師だからか、粘る友達をなだめすかす。
「やった! 絶対だよ」
「お前じゃない」
友達でなく喜んだオタク女子の頭に、手を伸ばしてアイアンクローをきめる。
「あだだだだだ! 良いじゃん減るもんじゃないし!」
悲鳴を上げれど、なれたものでクラスメイトの誰一人としてこちらを見ない。
減る減らないの話では無いのだけど、チャイムが響いたので解放してやることにした。
「二人とも席に戻れな」




