お昼休み雑談
「あ~、熱中症対策なら体育の授業なくしてくれるのが一番の熱中症対策なのに~」
オタク女子が午後からの授業を悲観して嘆く。
「暑いのは嫌だけど、体動かすのは嫌いじゃないから別にだな」
「えー、それは嘘でしょ。そのおっぱいで運動好きとか、揺れて大変なのに流石にねぇーーあががっ!?」
指をわさわさと手を伸ばしてくるので、先手を打って相手の頭を補足し、米神に親指と小指を食い込ませる勢いでアイアンクローを極める。
「いくら熱中症対策でも、体は動かさないとダメらしいよ。冷房の利いた部屋にばかりいると、体の芯が冷えちゃうし、運動不足から体の機能も低下して代謝が落ちるらしくて。そうなると太りやすくなるらしいよ」
「らしい、らしいって。どうせどっかで聞きかじった話でしょ? 根拠を出せ根拠を。海外の研究データとかじゃなくって、日本人での計測結果を見せろ!」
話に入ってきたロングヘアの友達に、頭部を拘束されたオタク女子が異議を唱えた。
また面倒くさいことを言いだしそうだと思ったところ、子供のような間延びした声がした。
「涼火ちゃーん、お弁当ー」
だいたい予想はつくが、出所を追って教室の後にある入り口に視線を移す。
「ありがと、兄貴」
アイアンクローの手を下ろし、お礼を叫び返す。
今朝、朝月よりも先に家を出たときに忘れたけれど、こうして届けてくれるだろうと引き返さなかった。
一部の女子が現れた兄に手を両手で振る中、ロングヘアの友達は身を翻し、早足でお弁当を持ってきた兄に詰め寄る。
「お兄ちゃん、自分のクラスに戻るのも面倒でしょ? 今日は一緒にお昼食べよう」
突然の誘いにこっちを見て戸惑いつつ、口を開く。
「え、教室隣だし別にーー」
「良いじゃないか」
突如として背後に現れたメガネ男子が、朝月に代わり返答する。
「せっかく誘われたんだ。断るのは失礼だろ」
「誘ったの、お兄ちゃんだけだよ」
友達は相手に顎を上げて眉を寄せる。
「そうか、仕方ない。行こうか」
素直に頷いたメガネ男子の手が、小さい肩に置かれ、身体ごと回れ右をーーする直前、肩に置かれた手の上に友達が手を乗せ、妨害して引き止める。
「何でお兄ちゃんを連れてくのかな?」
「ん? お昼はいつも一緒だからだが?」
とぼけた返しに、二人分の手の重みを肩に感じる朝月が、メガネ男子を真上を見上げるようにする。
「呼んでないのに勝手に隣に来るだけだろ。思い返すと一度も誘った覚えがないんだが」
呆れ口調でメガネ男子を指摘するも、図星を突かれても動じない本人。
「ほら、クラスに帰って。お兄ちゃん置いて帰って」
「いやいや、クラスメイトとしてよその教室に一人置いていくなんて出来るか。羨ましい」
本音を漏らす男子と友達は睨み合う。
「皆お兄ちゃんを知ってるから、何で居るんだって目で見ないし、妹だって居るんだし大丈夫だから」
「いやいや、そのまま午後の授業も拉致されたら困るからな。監督者が居ないと」
お互い言葉を交わしながら、朝月の肩にかけた手を払い合う。
「飛躍しすぎじゃない? でも仮にお兄ちゃんが帰りそびれても、同じ一年生だから教わる範囲も一緒なんだし問題ないでしょ」
「それが原因でクラス対抗、巽争奪戦が始まったらどうする気だ?」
「そんなマンガみたいなこと、リアルで起こるわけないでしょ。現実見ろ。それにもしそうなったら、合法的に奪えるから最高じゃない」
話が逸れているにも関わらず、一歩も譲らずに睨み合う二人。
「はいはーい。二人は放っといて、向こうで妹の居る私たちの机で一緒に食べようか」
すーっとオタク女子が兄の元へ。話しかけながら女子と比べても小さな身体の脇に腕を入れ、クレーンゲームのように引っ張り出す。
そのまま運ばれるかと思いきや、さすがに横から攫うトンビを見逃すはずもなく。
「ちょっと、なに横取りしようとしてるの?」
友達はオタク女子の肩に指をかけて止めた。
「バレたか」
悪びれもしない態度のオタク女子。
結局、机を二つ合わせて向かい合わせに友達とオタク女子、合わせた側面に横並びで兄妹。
「おい、何で俺は一人なんだ?」
正面に一人ぽつんと座るメガネ男子が文句を垂れた。
「俺も女子と肩を並べたいぞ」
「女子って、僕は妹とだ。あ、涼火ちゃん狭い。肘当たる」
「はいはい、兄貴は身体大っきいもんなー」
パック牛乳を取り出すのを横目に、オタク女子側へミリ椅子を引きずる。
「バカにして!」
「ならなら、私の膝の上に来る?」
お弁当を広げてもめる朝月に、友達がスカートの膝をぺちぺちと叩いて誘う。
右隣からの言葉に短く首を振って断る。
「いい」
「何でそこは二つ返事しないんだよ。女子の膝の上だぞ。背中には二つのクッションで、どう考えたってゲーミングチェアよりも至高だろう」
何とも変態的な悔しがり方に、聞こえた女子全体見胸の中でドン引きし、数人は嫌な顔をする。
「人の胸を見て話すヤツだとは分かってたけど、さすがに乙女のパイをクッションだとかキモい」
「一緒のテーブルに着けているだけ幸運と思いなさい。お兄ちゃんが居なければ、お昼を囲うなんて許してないんだから」
立て続けに女子二人から言われ、さすがに口を閉ざすメガネ男子。
彼の前にはカレーパン、バケットサンド、デザートに大きな甘食が並べられていた。
飲み物は水滴のつくペットボトルのお茶で、購入して間もないことを物語っている。
「お兄ちゃん、おかず交換しない?」
兄がフタを開けたお弁当を、早速覗き込む友達。
浮かれた声を出した彼女の提案に、朝月より先に教えてやる。
「今日はわたしが用意したからな」
「え……えー」
「自分で手作ったのに忘れたけどな」
「仕方ないだろ、日直当番を思い出して慌てて先に家出たんだから」
余計なことを喋るなと兄を肘で押す。
お弁当の当番が朝月でないと知った彼女は、ゆっくりと浮かした腰を椅子に戻した。
「巽ちゃんのおかずは何度も食べたし、今日はおかず交換良いかな。うん」
空元気を見せた彼女に、メガネ男子が声をかける。
「なら、俺のとおかず交換しないか?」
「は? 全部パンで交換出来る物無いじゃん。カレーパンの中身でもくれるの?」
友達はがらりと態度を変えて睨んだ。
人によって態度を変える姿は、本来であればマイナスな印象を生むけれど、相手が相手なので概ね誰も感心を抱かない。
そして今さら不機嫌な女子の視線くらいでは、些末で気にならない境地なのか、メガネ男子はカレーパンを手にして言う。
「いや、だから千切っておかずと交換しようかと。女子とおかず交換なら、何でも良いからさ」
ちょくちょく気持ち悪い単語が潜む説明に、友達は今日一嫌な表情を見せた。
「ムリ。確か先生がちょこっと言ってた『よもつへぐい』? みたいで何かムリ。アイスの二人で分け合えるやつもダメかも」
「……」
女子からの完全拒否に、さすがのメガネ男子も言葉を失う。
女子と目を合わせて喋れないからと、唇や胸元を見ながら話すと公言すらする彼の、因果応報なのかもしれなかった。
すると横合いから手が伸びて、彼のお茶を奪っていった。
「あ……」
本人も不意打ちだったため、間抜け面のまま視線がお茶のペットボトルを追う。
「私はアイス、奢りなら半分こしてもいいかな。はい、これ。交換ね」
お茶を攫った手が、小分けにされた味噌パンを彼の前に置く。
「良かったー。今日お財布とお昼忘れて、昨日買った味噌パンしかなくてピンチだったんだ。そのままだったら口がパッサパサになるところだったよ」
早速ペットボトルの封を開けて、口をつけるオタク女子。
ちなみにメガネ男子の前には、口の水分を奪うパンたちが残されていた。
「お、おお……」
水分補給を断たれ、容易く予想出来てしまう未来に慄き、言葉を失っている様子。
すると兄が自分の牛乳を守るような仕草を見せた。
「僕の牛乳はあげないからな。早く自販機に行って来たら?」
一番現実的な対応案に、相手は重々しく首を振った。
「ダメだ。このまま……食べる」
「いや、無理でしょ。口パサパサになるよ」
「それは分かっているが、この女子とお昼を一緒にできるチャンスを逃したくない。だから、席を立つことは出来ない」
苦しげに告げた言葉に、朝月は首を傾げて相手の話を待った。
「なぜなら俺が離れたらパンを他の机に移し、席を移動させて俺の座る場所を無くすだろ?」
確かに誘ったのは朝月だけなので、友達なら離れた瞬間にやりそうに思える。
「それに少しずつ千切って口にすれば、何とか最後までいけるんじゃないかと」
カレーパンは油があるのでいけたとしても、残りのバケットサンドはバケットが、甘食と味噌パンが唾液で湿らせながら食べてもダメな未来しか見えない。
どう見積もっても水分補給を前提とした、水分補給しないと喉に支えそうなラインナップだ。
「諦めろって」
俵型のおにぎりを箸で摘まみ、兄は口に放る。
「だが……しかし……っ! くっそ!」
お茶を飲むオタク女子の横顔を見つめ、苦渋の表情を浮かべるメガネ男子。
机に手をついて勢いよく席を立ち、自販機へ買いに走った。
「よし」
さっそくメガネ男子の予言が的中し、友達はパンを他の机に追いやった。
すると対面が空いたので、朝月と二人は狭いし、オタク女子を空いた席に押し出し、彼女が座っていた友達の対面に座り直す。
先ほどもクラスメイトのピンチを他人事とし、今も黙々とお弁当を食べ進めている朝月を移動させるよりは楽だ。
「ふふふっ、お兄ちゃんハムスターみたい」
粛々とお弁当の中身が消えていく光景に、頬を膨らましながら食べる姿に友達は笑みを零す。
「ハムスターというより子供だろ。兄貴は話しかけなければノンストップで食べるからな」
口の中が空になると死ぬのかってくらい会話ゼロで食事をする。
前に外食した時その小さな身体と食べっぷりから、母親は恥ずかしいと語っていた。
『まるで、いつも食べさせてないみたいに見られてない?』
他人なんて思うほど人を見ていなくても気になるし、食べ方が子供っぽいのもあって、より恥ずかしいのかもしれない。
「一度羽衣姉が居ないときに食べ放題行って、話しかけずにいたら、パスタ全種とデザートのゼリーやヨーグルトを制覇して、時間いっぱいモグモグしてたからな」
「へー、ふふ」
そんなに食べる姿を見ていて面白いのか、過去話に返ってきたのは生返事だった。
オタク女子は奪取したお茶を片手に、飲み物必須の味噌パンをモサモサと食べている。
やっと静かになったと、校内放送をBGMに箸を伸ばす。
「そうだ。兄貴、部活の二年の先輩から文化祭のクラスの出し物で、かわいいお化け屋敷をするからオバケ役で出てくれないかって」
ミニトマトを呑み込み、箸を止めた兄を見やる。
「え? かわいいお化け屋敷って。普通に嫌だよ。他の組ならともかく、先輩のクラスの出し物に参加なんて許されるの?」
「さあ? 大丈夫じゃないの。どうせ実行委員のチェックなんて中学と同じで、設営後と開催中に一度顔を出すくらいだろ」
常時貼り付いている訳でもないし、お化け屋敷のように薄暗い教室内なら、顔なんて真面に見えないから気づかれなそうだ。
「それにかわいいお化け屋敷って何?」
朝月から返ってくる疑問に、聞き覚えてることを適当に答える。
「さあ? 他の文化祭でお化け屋敷に入った時に、怖くしようと作っても、高校生が作る物なんてたかがしれてる。どうせ怖くならないなら、普通に作っても面白くないし、歴史にも刻まれないから、ならいっそかわいいお化け屋敷をしようって言ってた」
思いのほか覚えていて内心驚いていると、聞かせた先輩の志に呆れたような声が返ってきた。
「高校の文化祭程度じゃ、歴史に刻まれないって。その先輩大丈夫?」
「普段は普通の先輩だから、文化祭の空気に当てられたか、クラスメイトの影響を受けたかじゃない?」
本当にたまに顔を出す部室では、真面目に部活に参加する先輩だ。
「もし受けたら何に化けるの? お化け屋敷ではあるんだからオバケだよね?」
「あぁ、それは聞いてるよ。何でも、慕うお嬢様の代わりに毒をあおって死亡した羊のケモ耳ロリメイドだって」
「ひつ……ケモ耳? ロリ? メイド? 何そのオバケ」
困惑からか、口の回らない兄。
けれど、その疑問は分からないでもない。
「さぁ? でも要はその格好をして、お化け屋敷に来た人をお嬢様と勘違いして抱きつく役だってさ。ちなみにわたしは八尺様? とかいう、とにかくバカでかい女の化け物って聞いて、不意打ちでノックアウトして断った」
好きでデカい訳じゃないし、朝月だって大きくなりたいから牛乳を毎日飲んでいる。
カルシウムが身長伸ばすのと直結してるかと言えば、成長ホルモンの分泌に関わるのだか何だかで若干違うのだけど、兄妹そろって身長に少なからずの不満を持っているのは事実だ。
昔親戚の集まりがあった際、ちょっとオカルトよりなオジさんが、親戚の中で美人な姉を含めた三人とも、テレゴニー理論で産まれただとか鼻高々に説明していた。
過去に性交渉した相手の遺伝子の影響が、産まれる子に出るとの考えで、そうなると母親が何人もの男性と関係を持っていたのではないかという意味合いになる。
しかし、そこは親戚の集まりの集合知。
物置の奥から家系図やら変色した白黒写真だのが引っ張り出され、過去に美人を娶った先祖が居るとか、棺桶のサイズがギリギリな背の高い人が居たとか、朝月の身長はこれからだとか、信憑性のあるもの無いもの色々出てきて、女性陣によりテレゴニー理論なんて否定されてしまった。
その上、オジさんは女性たちの反撃を受けた。
鼻高々に提唱したオジさんは、ばつが悪そうにテーブルの端に移動して飲み直していた。
「じゃあ、僕の分もお願い」
牛乳を手に取る朝月から返事を聞き、頷き返す。
「りょーかい。今日返事で顔出すから、一発でも入れられるように頑張るよ」
「頼むね。それと部活中水分補給はちゃんとしなよ。たまにスパーリング相手するし、ランニングとかするんだろ? 涼火ちゃん集中すると忘れがちだから、熱中症にはならないでよ」
「分かってるって。それと集中して忘れるのは兄貴だろ」
妹的には何かと問題を起こしたり、巻き込まれたり、首を突っ込んだりする兄の方が心配だ。
すると友達が兄を手招きし、ちょっと来てと呼び寄せていた。
「ねぇねぇお兄ちゃん『熱中症』ってゆっくり言ってみて」
友達のそばに立って頼みを聞いていると、飲み物を手にしたメガネ男子が教室に戻って来た。
「何してるんだ?」
眉を寄せたメガネ男子は、隣に立って覗き込む。
すると朝月は上に向けた手の平を握り、その拳を腰だめに引きながら身体を捻って軽くかかんだ。
「???」
「熱・柱・掌ー!!」
朝月は伸び上がるようにして天井に拳を突き上げた。
格ゲーのような動きが、メガネ男子の顎を捉える。
「ぶふっ!?」
彼は後へ軽く吹き飛ばされ、背中から昼食中の教室の床に転がった。
天災に近い被害に何人かの視線が集まる。
しかし、誰も声をかけようとはせず、一瞬意識が向くが、すぐに昼食に戻っていく。
「なっ、何だ?! いきなり!」
メガネ男子は痛みに顔を歪め、上半身を起こしながら、ズレたメガネを直す。
「基本兄貴は女子を殴らないからな」
呟くようにした補足説明に続き、友達が状況を呑み込めない相手に言う。
「良かったね。身代わりになって私を守れて。それに関してはありがとう」
「はあ? ど、どういたしまして……で、正解なのか?」
未だ話の呑み込めないメガネ男子は、立ち上がり首を傾げる。
「あの……これ」
「ん、ああ、ありがとう」
殴られた拍子に転がった飲み物を拾い上げた女子に、お礼を述べた。
相手が女子だったためか、微妙に嬉しそうな表情を浮かべている。
そして良いことの後には悪いことなのか、他の机に移動された自分の昼食を目の当たりにし、埋まってしまった席とを交互に見やり、メガネ男子は肩を落とした。
「今度から飲み物は二つ用意しとくか」
顎をさするのを目にし、熱中症のいたずらを祝もしていたのを思い出す。
あれは中学生になって間もなくだったか、委員会活動後だったので、三人下駄箱で待ち合わせした時のこと。
委員会が長引き遅くなって向かうと、何やら朝月と祝が二人で立ち話をしていた。
『朝君、朝君。最近暑くなってきたから、熱中症ってゆっくり言ってみて』
祝がちょっと硬い微笑みで、目を見つめて言った。
『早口言葉? 熱中症にならないのは大事だけど、別に言いにくい言葉じゃないよ?』
『い、いいから! ゆっくり言って』
何かを期待するように、祝は瞳を揺らして頼み込んでいた。
『まあ、いいけど。いくよ?』
何をさせたいのか、疑問に思いながら、朝月は彼女の要望に答える。
『ねっ、ちゅうぅ、しぃ…………ょ』
明らかに途中で気づいた反応を見せた兄。
言葉が尻すぼみになり、耳を真っ赤にして俯いてしまう。
対する正面の祝といえばーー
『しかけた側が恥ずかしがるなよ』
朝月以上に頬を赤らめて、ぎゅっと小さな手でスカートの布を握っていた。
この頃は伸ばしていた毛先を弄りもして、初々しいその反応と仕草に呆れる。中学で出会ったわけでもないのに、何年幼なじみを務めているのかと。
なので大きな声をかけながら、二人の元に歩いた。
「バカップルしてないで帰ろう。二人とも」
お互い顔も見られない二人の、ちょうど良い高さに下げられた頭に、指を揃えた手刀で軽くチョップを食らわす。
『んっ、バカップルじゃないよ』
祝は頭に手を添え、照れたように唇を尖らせる。
『バカップル言うな。痛いだろ』
朝月は照れを誤魔化すように、下駄箱から下履きを引っ張り出す。
対して力も込めてないので、文句言われるほど痛みはないのだけれど、そんな様子の兄を目にして口から零れた。
『キモ』
兄が好きな人の前で照れる姿なんて、複雑でしかないので見たくない。
『キモい言うな! 帰るよ!』
叫ぶ兄の様子に、祝の手を取って促す。
『じゃ、行こうか。祝』
昔を思い出していたら、久しぶりにメッセージでも送ろうと思った。
確か前にやり取りした時は、彼女の文化祭とは一週間ズレているという話をした覚えがある。
どっちもまだ準備期間ではないので、お弁当に入っていたデザートのブラックチェリーのヘタを添付して、メッセージを送る。
≪昔サクランボのヘタ舌で結んだよね。今でもできる?≫
小学生の頃に祝が家に来たとき、三人で誰が一番早く結べるかの勝負をして遊んでいた。
「涼火ちゃん、涼火ちゃん。結べた」
思い出に浸っていると、朝月が一結びにされたヘタを見せてきた。
「汚いから向けんな」
子供じゃないのにまたやってると思いつつ、スマホを親指と人差し指で摘まむヘタに向けた。
ちょうど指ハートぽくもあり、祝は喜ぶだろうと自分のを消して、添付画像を差し換える。




