初詣
地域によっては初詣の参拝は、元日から一週間とか十五日まで大丈夫というところもあると聞く。
「今シーズン雪はまだ積もってないけど、周りの山はしっかり白いし、空気がキンとして冷たいよね」
防寒のため首にぐるぐると巻いたマフラーから、小ぶりの唇を覗かせて祝が言った。
コートを着込んだ涼火は、その言葉を受けて赤くした鼻を啜る。
「まぁね」
同意してポケットに手を入れたまま頷く。
まだ朝の空気が残る境内は冷えていて、ボトムのパンツを越して寒さが太ももに突き刺さる。
ソーラーパネルで動いているのかってくらい朝月は夜が苦手で、よほどの理由でない限り夜中まで起きていられず寝落ちしてしまう。
そのため初詣に真夜中の二年参りは望めない。
「そんな祝ちゃんに兄貴というカイロをあげよう。見た目のまま、子どものように体温が高いから思う存分に抱き締めることを許可する」
「ふふっ、嫌がるだろうからいいよ」
幼なじみの気持ちを知る申し出に、子ども扱いを嫌がる朝月を思って祝は断った。
「魅力的で温かそうだけど我慢する」
笑って返ってきた言葉で、その当人が近くに居ないことに気づく。そして。
「兄貴! お参りするよ」
祝と一緒に最後尾に並んでいた涼火は、いつの間にか消えていた兄を見つけて呼ぶ。
「屋台は後で回るから!」
「朝君朝君」
祝も隣で朝月を手招きする。
「今行く!」
まさに朝登校する小学生みたいな返事があり、とととっと彼は足早に二人へ駆け寄った。
「甘酒なんて後で良いだろ」
「むー、涼火ちゃんには関係無いでしょ。飲みたくなった時が飲み時なの」
手に持った、湯気の立つ甘酒を見とがめた妹に唇を尖らす。
「どうせ涼火ちゃんも欲しいんでしょ、甘酒」
「そうだけど今じゃない」
兄妹で喋っていると、前の人がはけて三人の順番が回ってきた。
社の前に歩み出て朝月を挟んで横に並び、お賽銭を投げて二礼しーー
「あ……」
朝月は動きを止めて固まり、手に持つ甘酒を見つめて小さく声を漏らした。
隣で聞き留めた両脇の二人。
「わたしには関係無いからな」
「んー」
妹の言葉に賽銭箱の縁や足元、振り返り狛犬の土台などキョロキョロする。
涼火から、そら見たことかといった雰囲気を感じ、見ないようにして唸った。
すると祝が優しい声音で呼ぶ。
「朝君」
胸の前に開いた右手を構えた彼女。
幼なじみの以心伝心で、その目を見て表情を明るくする。
二人向き合ってお互いに指を揃えた手のひらを合わせて打ち鳴らす。
パンパンッ!
そしてそのまま目をつむり、顔を軽くうつむかせる。
コツンーー。
中学生になっても劇的に背が伸びることなく、祝にも身長を抜かされた朝月の頭に、彼女の額が僅かに乗った。
額を合わせてもいるように見える二人を横目に、涼火は無病息災とこらからも幼なじみと一緒に居られるように、それともう成長が止まるように願う。
バレー部やバスケ部の生徒を越したくないし、身長以外もこれ以上成長して欲しくなかった。
それに毎年兄が面倒ごとを起こさないように祈っても、ご利益は目に見えないので朝月に関しては諦めた。
最後に一礼して社を離れる。
「祝ちゃんありがとう。お礼に一口あげる」
お礼にと白い息を吐き、右手の甘酒を幼なじみに差し出す。
それを歩きながら見ていた涼火が窘める。
「兄貴、ガキじゃないんだから祝が食べたい物を奢ってあげなよ」
「? でも、おいしいよ」
小さい頃からの付き合いなので、おやつをシェアしたりするのが当たり前な朝月は、妹の言葉に首を傾げた。
いつもの二人のやり取りを前に、祝は微笑んで温かさの残る甘酒に指先で触れる。
「ありがとう。一口もらうね」




