恐竜はなんで恐竜?
「なーなー、恐竜にきょーみあるの?」
そう祝はクラスメイトの男子に声をかけられた。
「ボク、くわしいから教えてあげようか?」
彼女は相手の提案にふるふると首を振る。
「いい。恐竜は朝君と喋りたかっただけだから」
興味の無い声音で察したのか、恐竜の本を身体の前で持った男子は、言葉にならない声で頷くと戻っていく。
その数日前ーー
「あ、ここに居た」
図書室のテーブルに探していた姿があり、すっと朝月の隣に座った祝。
「さいきん、ずっと上りぼうや鉄ぼうで遊んでたのに。今日は図書室なんだね」
「うん」
「なに読んでるの? 恐竜?」
肩を寄せて開かれたページを覗き込む。
「うん、なんで恐竜って言うのかな? って。恐竜って恐ろしいっていう字を使うでしょ」
彼が一旦本を閉じて表紙のタイトル名を指さす。
「うん」
幼なじみの言葉に素直に頷く。
「でもさ、恐竜ってかっこいいじゃん。なのになんで恐竜なのかなって。恐ろしいって怖いってことでしょ?」
何でも疑問に思う子供らしいことを言って、再び図鑑を開いて視線を落とす。
「かっこいい? のかな。わからないや。私は変だと思うよ」
ページを眺めた彼女がそう口にした。
「変? 恐竜が?」
分からないと小首を傾げる朝月。
「うん。だってネコはネコだし、犬は犬なのに恐竜は二本足だったり、四本足だったり、羽があって空とんだりするんでしょ」
「わぁ、本当だね!」
図書室で声を上げてしまうが、先生も図書委員の姿も無く、この時は注意されずに済んだ。
ただ離れたところに座る子達から、迷惑がっている目で見られはしたけれど。
上級生の姿もあったけれど物静かそうで、幸い朝月は誰からも注意されなかった。
「それにちょっと気持ち悪いのもいるから恐竜なんじゃない? 気持ち悪いのって怖くない? 朝君だってナメクジ怖いでしょ?」
「うん……」
ナメクジのヌルヌルと動きと、光を反射する這った筋を思い浮かべて嫌な顔をする。
それに素足で踏んでしまってからは、見るのも嫌で恐くなった。
だから一時期、見た目が近いイカの塩辛も嫌いになった。
すると図書室に見慣れた姿、妹が並んで座る二人に近づいて来た。
「祝ちゃん、お兄ちゃん、帰ろう」
ほぼ同じ身長に成長した涼火が、図書室のテーブルに手をつく。
「借りるの?」
兄が開いていた本に視線を移して聞いた。
「んーん、恐竜がなんで恐竜って言うのか知りたかっただけだから借りない」
「わかったの?」
「なんとなくわかんない」
「?」
質問の返事に涼火は祝へ顔を向ける。
「恐竜はかっこいいのだけじゃなくて、気持ち悪いのもいるから恐竜なんじゃないかなって話してたの。涼火ちゃんはなんで恐竜って言うと思う?」
二人で何を話していたのか理解不能だったけれど、兄が閉じた表紙をチラッと見て質問に答える。
「え? 恐竜って襲われたら普通に怖いじゃん。だからじゃないの。歯ギザギザでサメみたいだし」
開けた口の前で、ギザギザと人差し指を動かす。
「ふふっ、そうかもね。朝君がまじめにしらべてたから一緒に考えちゃった。涼火ちゃんの言う通り、恐竜に会ったら怖いもんね」
さらさらの黒髪を揺らして小さく笑う祝。
「怖いかな? ぜったいかっこいいと思うんだけど」
「でも、お兄ちゃんこの前ヒーローショーで握手してもらう時ビビってたじゃん」
日曜日に買い物へ外出したおり、偶然ヒーローショーが開かれていた。最後に握手やサインがもらえたのだけれど、かっこいいとテレビの前で見ていたヒーローを前に泣きそうになっていた。
「それは! ……かっこいいけど、ちょっと怖かったから」
「それと一緒じゃない? 名前をつけた人は恐竜が怖かったんじゃないかな」
この話を知られたくないらしく、兄はチラリと祝の顔を見る。
幼なじみなので大体の生態は知られ尽くしているのだけれど、好きな子にかっこ悪い自分を知られるのは理屈じゃないらしい。
「ほら、お兄ちゃん。借りないなら棚に返して早く帰ろうよ。今日は宿題すぐにやって、祝ちゃんと遊ぶんだから」
兄を急かして恐竜の本を棚に戻させ、三人ランドセルを背負って一緒に下校する。




