神隠し線?
女子はお喋りが尽きないのか、終わらせないために話題を新しく始めるのか、放課後に一人の席の周りに集まり喧しく声を上げて笑う。
「そう言えばこの間知ったんだけどさ。小学校から通学で使ってる上○○線に、怪談的な話があったんだよね」
友達は「何それ? よく今まで知らなかったね」「面白そう!」など、楽しげな声で興味を示す。
「何でもね、その噂は終点の駅で降りちゃいけないらしいんだ」
「は? 終着駅が最寄りの人はどうするわけ?」
「昼間は構わないんだよ。その日最後の列車にだけ気をつければさ」
クラスメイトの疑問に答え、そのまま聞いた噂話を聞かせる。
「ある日その日の最終列車に乗った人が、どうせ終電までだからってスマホをいじりながら電車に揺られてたの。ガタンゴトンガタンゴトンって、各駅に止まりながら。田舎の線路を山に向けて」
「何で怪談風?」
「聞いたのが怪談ぽかったから、それっぽくした方が良いかなって思ってさ」
また話の途中で挿まれた質問に素直に答えた。
「でね。畑や田んぼだから窓の外は夜は真っ暗だし、田舎のローカル電車だから二両しかないの。それと車内はその人だけだったの」
ちなみに折り返しの沿線には建物や道路と併走する区間もあるが、やはり田畑が主だった。
それに十数ある駅もほぼ無人駅ばかり。
「友達とメッセージで盛り上がってたら、次は終点のアナウンスが流れて『次、降りる駅だって』立ち上がってドアの前に移動したの。そしてゆっくり停車したから、その人はスマホをいじりながら電車を降りてホームに出ます」
そこで皆の顔を見ながらゆっくりと続けた。
「しんとした空気と田舎のひやりとした深夜の気配に包まれました。今来た線路はホームから先が見えなくなるくらいに灯りは乏しく、列車は折り返しで今来た方に走り出し、その人は改札に向けて歩き出してから気付きましたーー」
すっと周囲に目配せをして声を潜める。
「ーーここ、自分のいつも降りてる○○々駅じゃ無いと。でも、ホームのから見える線路の暗がりには、確かに車止めがあり終点に間違いありません。不安に背筋が震えて改めて周りを見渡すと、夜の闇が迫るように緑が覆い被さるみたいに生い茂り、一層古ぼけた駅舎と丸太の先に付けられた電球が照らすのは見慣れないホームです。息をのんで駅名を確認すると、今は無い昔の安○駅でした。話にしか聞いたことのない駅名に緊張し、手元のスマホを見ると圏外です。しかも駅舎から向こうは、世界が無いかのように真っ暗でした。本能的に目の前の闇の向こうは何も無いのだと直感が訴えるくらいーーでね、だからその駅には降りちゃいけなくて、そのまま折り返しに乗って無くちゃいけなかったって話」
最後は一息に話してしまったが、はたして友達の第一声は苦笑交じりだった。
「話下手くそか」
「雰囲気出そうと難しく喋ろうとして、やっぱりダメで最後まんまなの笑わせる気?」
愛想笑いや口元を手で隠して堪える友達の姿に、喋っていた女子が口先を尖らす。
「仕方ないじゃん。怖い話なんて慣れてないし、全然したことないんだから」
それにちょっと恥ずかしくなり頬を染める。
「それってさ、子供が乗り過ごしたりしないように言い聞かせるための作り話じゃない?」
「それもそうだ。帰って来られなくて、電波もなくて、どうやってこの話が出来るっての?」
「あ、やっぱり?」
すると、黙っていた一人が口を開く。
「それ、私が知ってるのと違うんだけど」
「え、なになに? 神隠し線のこと?」
聞こえていたらしい会話に加わってくる女子。
「どゆこと?」
聞き覚えの無い名称に聞き返され、割って入った女子が説明する。
「上○○線だから神隠し線って、あの電車で通学する一部の小学生はふざけてそう呼ぶんだよ」
神隠し線は皮肉った呼び名だった。
割って入った女子が言い終えたのを見て、知っている話と違うと唱えたクラスメイトが切り出す。
「私が知ってるのは廃線になったはずの安○駅のホームに列車が来て、乗ってしまうと異次元につれてかれちゃうってもの」
「廃線って、使われなくなった線路?」
「あるの? そんなん」
「あるよ。上○○線は今ある終点の○○々駅は新しいものなんだ。昔はもう少し先、山の裾までもう一駅線路が続いてたみたい。だけど走ってるのが山沿いだったこともあって、昔土砂でほとんどの線路が埋まったのと崩れたので、修復や復旧工事をせずに一駅分廃線に決まったらしいよ。けどその名残がまだ残ってて、線路は無くなってるんだけど駅は残ってるんだ」
「へー」
ローカル線であるから、復旧費用などの問題もあって廃線になったのだろう。
「小学校の頃友達と行ってみたけど、ちょっとした冒険なだけで、何も出なかったし怖くもなかったよ。それに民家も無い道の行き止まりにあったから、駅までの道は手入れされてなくて迫るように緑が生い茂っていてさ。そこはちょっと薄気味悪かったかな」
話し終えると一人が顎に指を当てて言う。
「それ昼間でしょ? だから何も起こらなかったんだって。やっぱそういうのって夜じゃない? 薄暗くもない昼間に肝試しなんてしないし」
「じゃあさ、お泊まりと称して行かない? 肝試しに」
「良いね。二手に分かれてお泊まりして、夜中に待ち合わせするかたちにしてさ」
その場のノリでどんどん話が進み、お泊まり&肝試しの予定が決まっていく。
「じゃあ、あたし念のために魔除けのお守り借りて来ようかな」
「魔除けのお守り?」
お守りの話に首を傾げるクラスメイトが居る中、思い当たる者も居て頷く。
「隣の教室の小さいお兄ちゃんだよ」
「お兄ちゃんが居るとお化けとか出てこないし、退治出来ちゃうとかいう話を耳にしてね」
「肝試しなのに出てこないんじゃ、本末転倒じゃ? てか、あの子がお兄ちゃんを貸してくれるかな? 目力強くて妹は少し苦手なんだよね」
「妹の許可は要らないって、高校生なんだし。では、誘いに行って参ります!」
友達は指を揃えた右手を頭に持っていき、ふざけた敬礼をして飛び出した。
久しぶりに顔を出そうと、部活へ向かおうとしていた涼火に、横にいた先輩が訊いた。
「どうした? 渋い顔して」
「いえ、今嫌な予感がしただけです」
「それ当たる? 軽く相手して欲しいんだけど」
先輩のその言葉は部活に参加しなくても、設備を使えると他の生徒に与えないためだ。
でなければ部室をジム代わりにする人が増えてしまう。
廊下で足を止めて数秒、相手の言葉に返事を返す。
「当たらないです。でも、ちょっとだけですからね。それ終わったら自由に使わせてもらいますよ」
「そんなこと言って。付き合ってもらうと、いつもそれで熱くなるんだから」
「今日はなりません」
先輩相手でもはっきり言い切り、どうせ朝月絡みだろう嫌な予感だろうからスルーした。




