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巽日記、  作者: 庚午澪
20/32

気づかなかった……

 家でテレビを見ていると心霊番組が始まり、珍しく動画、心霊写真、体験談の再現映像、現場検証と全部盛りのスペシャル特番が始まった。

 小学生の頃は怖いのに興味を引かれ、朝月と並んでテレビの前に座ってかじり付く様に見ていた。

 夜トイレに一人で行けなくなるのも決まり事で、確か幼なじみの祝とも何度か見た覚えがある。

 今はそれほど見たいとは思わないけれど、放送していたら流し見る程度には好きなジャンルだった。

 朝月を呼ぼうとするも、また何かに首を突っ込んでいるのか、家にいないので思い止まる。

 メッセージを送って教える事は可能だけれど、気づかない可能性が捨てきれないし、急いで帰ってくる途中で事故を起こさないとも言い切れない。

 放送から一時間経とうとした頃、心霊スポットに赴き、出るとの噂を検証するコーナーが挿まれた。

 テロップに某県某所の旧道トンネル、地元の人なら大体知っている心霊スポットの一つと紹介された。

 現象としては車一台分しか幅のないトンネルを往復すると中央、待避所として広くなる部分に蹲る老婆が現れる。

 車で通っていると急に人影が跳び出してくる、強盗に遭って命を落としたタクシー運転手の霊。

 冷やかしに訪れてトンネルを歩いて進むと集まってくる浮遊霊の子供たち。

 デコボコと補強された壁から伸びる亡者の手。

 イジメにあって恨みを持ったまま死んだ少女の霊の悲鳴などなど。

 心霊スポットのトンネルとしては有りがちなラインナップに若干の興味が薄れたけれど、他にする事も今はないのでもうしばらくテレビの前に居る事にした。

 タレントと芸人とアイドル、それと何かあった時の対処として、メディア露出の多い霊媒師が出てくる。

 画面越しだけれど外観からしてボロく、周りを自然やツタで覆われて、トンネル名のはめられたパネルも判別が難しくなっている様に見える。

 入口で集まり心霊スポットとしてトンネルのいわくの確認、出演者の反応、頭や手に録画機材の装着を経ての実地調査ーーが大体の流れなのだけれど今回は違った。

 噂を説明している時の霊媒師の目が妙に泳いでいるみたいに感じる。

 するとテロップ付きで霊媒師に違和感を覚えたスタッフが気にかけている事に触れた。

『どうしました? すでに囲まれていたりしますか?』

『あ、あぁ……いえ、そんなことはありません。大丈夫です』

『そうですか? ちょっと様子が心配になったもので』

『ははは、すみません。一度集中させて下さい』

 そう言葉を交わす二人の会話に、冒頭で霊感があると明かしたアイドルが割り込む。

『ここ、ホントに心霊スポットですか?』

『え?』

『……』

 アイドルの言葉に疑問符を浮かべるスタッフと言葉を発さない霊媒師。

 ちなみにアイドルは空気を読めないとか、言わなくても良い事を口に出してしまうアイドルとして知名度が上がりつつあった。

『何もいないですよね? トンネル。何か新しく出来たトンネルと同じくらい、それ以上に何もいないですよね? ハナは何も感じないんですけど』

 繰り返される確認に、霊媒師がおまむろに喋り出す。

 ここでふと涼火は一ヶ月以上前の連休に兄が友達に拉致られ、翌日の昼にお土産と一緒に帰って来た事件を思い出した。

 テレビから流れる音を聞き流し、スマホで朝月にメッセージを送る。

≪この前拉致られた時に行ったって言ってたのトンネルだったよね?≫

 霊媒師はアイドルの言葉に同意し、現場検証は何も出ないのか調査する方向に変更されていた。

≪そうだけど≫

≪心霊スポットだったんだよね?≫

≪うん。肝試しに連れてかれた。友達と知らない子もいた≫

≪何か出た?≫

≪全然。古くて狭くてボロボロのトンネルだった。オバケが出そうな雰囲気じゃなくて、ただ暗くて不気味で怖かっただけだよ≫

≪そっか≫

≪トンネルに七人で入ったんだけど、ボロボロで怖かっただけでオバケなんていなかった。一緒に行った友達が、僕の後ろで大きな声を出して脅かしてきたから、思わずその子にタックルかましちゃっただけで≫

 画面ではトンネルを抜けて往路に入るところだった。

 霊感のない出演者二人は怯えている様だったけれど、何も居ないと確信しているらしいアイドルは先頭を歩いていた。

≪でも強く抱き付いちゃったから、そのワンピース着た子も驚いて、もっと大きな声で叫び出しちゃったんだよね。行きも皆僕を脅かしてくるから疲れて、帰りの車に乗ってすぐ寝ちゃって。涼火ちゃんにお土産買うパーキングエリアまでずっと寝てた≫

 高校生のクセに小学生みたいだから周りもイジりたくなるらしい。

 バスケ部やバレー部には涼火よりも身長の高い先輩がいるらしいけれど、身長や胸、脚など色々と周りの女子に比べてデカい涼火は、小さな朝月に分けてあげれば良いと定期的にイジられる被害に遭っている。

≪でも知らない内に一人だけ先に降りたみたいで、車六人になったからお土産を買えるスペースが出来て良かったよ。じゃなくちゃ驚かされ損だったから≫

 テレビの中ではもう数メートルでトンネルを抜けて、スタッフの待つロケバスに戻る付近だった。

≪ところでどうしたの? 涼火ちゃん。何かあった?≫

≪兄貴が拉致られて行ったぽいトンネル出てたからさ。心霊番組に≫

≪やってるの!? もうすぐ家だから走る!≫

≪物にぶつかってくるなよー≫

 たった短い距離でも何が起こるか分からない朝月。

 車両に轢かれたり、人にぶつかってトラブル起こしたり、何を引き寄せるか知れたものじゃない。

 兄とのメッセージを終え、やり取りをスクロールして戻りながら、テレビの方も気にかける。

 兄からのメッセージを見るとトンネルに入った時は七人、肝試しが終えた時は分からないけれどパーキングエリアでお土産を買った時には一人減って六人。

 しかし、途中下車したのは地元に戻るかなり手前だ。用事があって友達を途中ぽろりした可能性もあるけれど、怪談系で数字にまつわる増減は重要になる。

 肝試しに向かった友達の中には、朝月と顔見知りでない子も混ざっていたらしいので、確認とかわざわざ出来ないしそこまでする必要性も、終わった後では感じない。

 するとテレビから出演者の安堵する声が聞こえた。

『何も出なくて良かったですね~』

『肝試し目的に訪れると引き寄せるみたいな事もいいますけど、何もなくて良かった~』

『新築の部屋みたいでしたね』

 空気を読めないアイドルが、一緒に往復した霊媒師に話しかけた。

『そうですね……感覚的に神社の境内よりも、聖堂のイメージとかが近いですかね』

『脅かす系とか、恨みを持ったまま死んだ少女なんか出て来たら最悪』

 そう言ったタレントがアイドルの子に目を向けて呟く。

『彼女が幽霊と同じ色味のワンピース着てるから、前を歩いてるだけで怖くて』

 タレントの言葉に力なく同意する芸人。

 涼火はテレビから視線を一度外し、見なかった事にする。

 兄貴に起こった事も理路整然と説明が出来る話で、もちろん何も気づかなかった……事にしたい。

 抱き締められたワンピースの子が上げた悲鳴が、消滅させられる断末魔だったなんて無いだろう。

 テレビでトンネルに何も居ないのは、朝月の存在が集まる幽霊を浄化したなんて、昔から怖がるばかりで兄の周りでは心霊現象が起こらないのも、前に見える人から涼火が何かの恩恵を受けて影響下にないのも、信じないし気づかなかったという事にする。

 検証コーナーが終え、心霊写真になった所で玄関から朝月の足音が聞こえた。

 七時台に帰って来るなんて普通で、今さら家族の誰も咎めない。

 何事も無く帰って来ただけで十分だった。

「ただいま!」

「お帰り、兄……貴」

 リビングに駆け込んで来た朝月の頭には葉っぱが数枚引っかかり、無事と言ったのは訂正せざるを得なかった。


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