受験シーズンの謎願掛け
放課後のチャイムが鳴り響く。
涼火は張り出されたルールを守らず廊下を走る小さな背中を呼び止めた。
「兄貴ー、急いでどこ行く気ー?」
日頃の行いのせいで走っている朝月の姿を目にするだけで不安になる。
そうすると確認しないとモヤモヤする妹の声に、気づいた彼は急ブレーキをかけて振り向いた。
「涼火ちゃん? んっと、受験生のためにトンネル工事で貫通した時の石が触れるんだて! 市役所で!」
「は? 兄貴が受験生だったのは去年だろ。それに隕石ならともかく、ただの山の中をくり抜いただけの、言わば岩盤じゃん」
身長や仕草といい子どもっぽい答えを聞き、その下らなさにため息しか出ない。
「えー、でも触ってみたくない?」
「全然ー! そんなことより真っ直ぐ帰って来なよ!」
「僕が一人で見に行くんだから良いでしょ!」
「兄貴が動くと何か起こさないか心配なんだよ! 主に周りに迷惑かけるような被害が出ないか!」
「僕はそんなに問題なんて起こさないよ! 涼火ちゃんに言われたくない!」
「コラーっ! 廊下で騒ぐんじゃない! 喋るならもっと近づいて話なさい!」
二クラス分離れて言葉を交わしていたので、教室から顔を出した教師に叱られてしまう。
「涼火ちゃんのせいで怒られたんじゃないか!」
「はぁ! 兄貴が戻って来れば良かっただけだろ!」
「お前たち! 兄妹ゲンカは他でしなさい!」
再度怒られてムスッとして朝月は背を向け、その後をいつものメガネ男子がしれっとついて行く姿を見た。
「お兄ちゃんどこ行くって?」
これから一緒に委員会の当番に行くクラスメイトが後ろから聞いてきた。
「ん? 何でもトンネルが貫通した時の石を見に行くとかなんとか」
「へー」
受験シーズンは謎の願掛けだったり、お菓子、ラジオでは落ちのないトークだったりと色々ある。
去年は中学のクラスメイトの中に行き先が『未来』になっている電車の切符をお守りにしている子がいた。
良くても悪くても『未来』ではあるので抽象的というか、耳心地の良い言葉を丸投げにされただけの様な気がして好きになれない。
「一緒に行きたいとか考えていても、抜け出させないし、前も言ったけど兄貴を狙っても無駄だぞ。両想いの幼なじみがいるから」
「でも遠くに引っ越したんでしょ? なら近い私にだってチャンスあるじゃん」
「本当に良いのか? 見た目の雰囲気が似てるから、他の子をかぶせて見られちゃうって警告したのに」
「それで苦しむかは私しだいでしょ。似てるなら少なくても認識はされるし、気持ちを伝えなくても意識してもらえる訳だしさ」
「逞しいというより呆れたよ……忠告はしたからね。慰めないぞ」
行き先を余り気にしても朝月なので切りが無いと歩き出す。
委員会活動終了後。
「兄貴からだ……」
「メッセージお兄ちゃん? 何だって?」
スマホの着信を見て眉をひそめる涼火にクラスメイトが問いかけた。
隣に並び身長差から上目遣いの彼女に顎を引く。
「ん、石触りに行ったら大学受験去年落ちた人がいたって。しかも落ちた人、去年も石を触りに来ていてご利益あるのか微妙な気持ちになったってさ」
「うわぁ、それは微妙だね」
どうせ根拠の無い願掛けなのだから、熱心に願っても叶う理屈は無い。
「むしろ逆に呪われてそうだよね。落ちた人が触ることによって。元はただの石だし」
「そうだな。ただの石だって言ったのにバカなんだから」
「でも、お兄ちゃんらしくて可愛いじゃない」
「そうか? 本当にバカな兄貴のどこが良いんだか」
呟くと隣を歩き出したクラスメイトが疑問を口にした。
「ねぇ、中学の頃に習ったダビデ像あるでしょ」
唐突に脈絡を感じられないワードに意図が読めずに口を閉ざして続きを待つ。
「あのダビデ像の股間が小さいのは知性を表してるって、美術のおばちゃん先生が言ってたんだけどバカって言うならどうなの? 大きい?」
やっと話の意図が理解でき、繋がった内容の低俗さに呆れた目を返す。
「……女子高生がする話?」
「もう経験してる子もいるんだからそこは興味あるでしょ」
「……そんなの知りたいの?」
「好きな人のことならね」
「……知らない」
常識として身体の事を軽々と口にする訳にはいかない。
実際に耳にした事はないけれど、彼女との情事を男友達との会話で何気なく喋ってしまうのは、余りにも人間力に欠けて最悪だ。
にしても、まったく高校に入ってから真面な友人が出来ていないなとため息が漏れそうになる。
「いい加減バカな話してないで帰るよ。ほら」
歩調を相手に合わせていたが、足を早めて廊下を進む。
「はーい」
これでも友達としては好きなので涼火は悩ましく思っていた。
友達かは不明だけれど絡んでくるオタク女子とか。
何とか続く……




