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雪の降る街

作者: L'Arc-en-Ciep


夜。


雪の降る街。



わざとらしく(しお)れた空気を(かも)すパカ美にかける言葉を探すことに、僕は必死になっていた。



「ちん皮ってカロリー低いらしいよ。」

やっと見つけた台詞を投げながら、彼女の方を向く。

アスファルトには街灯に照らされた二つの影が揺れ続ける。

依然として、目は合わない。


「へえ、そうなんだあ。」

いつも通りの雑な冗談に、いつもと違うテンポで笑う彼女の横顔はやけに霞んで見える。




きっと別れ話を切り出すんだろう。




リップの色をピンクに変えただとか、カレーの隠し味にコーヒーを入れただとか、そんな事に気づけない鈍感な僕でさえ察せてしまうくらいにパカ美は不器用で単純で、優しかった。


僕はパカ美のことが好きだ。

これからもずっと一緒にいたいと考えている。


ただ、それはあくまで相手も同じ気持ちだという前提があるからで、

相手がそれを否と思うのであれば一緒にいたって幸せになれないことなんて分かりきっている。


別れるのは辛いがパカ美が望むのであれば、こちらとしてもそれを飲み込むしかない。




僕等は、僕等が住んでいたアパートの最寄駅へと歩みを進めている。

こうやってろくに会話のキャッチボールが出来てない間にも、

二人が"一人ずつ"になる瞬間が刻々と近づいているような気がした。



最寄駅まで徒歩8分。

とても短く、そして、とても長く感じる。



ありがとうだとか、ごめんねだとか、そんな当たり前を当たり前に伝えられていたならきっと、もっと違っていたんだろう。


パカ美という当たり前の存在は数分後にはもう、届かないものになる。

その未来は今更何をしたところで変わらないことは僕が一番分かっていた。



交際期間だけは一丁前に長いが故に、情が二人の(かすがい)になっていたのだろうが、

それすらも壊してしまうくらいに僕は、パカ美のことを大切にしてあげられなかったみたいだった。






いつものパン屋、いつもの雑貨屋、いつもの喫茶店。

いつもの場所を通り過ぎるたびに、思い出たちは僕の心に溝を掘っていった。



暗くて深いその溝に溺れてしまう前に

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