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9.




 翌日、朝食後にエヴラールの使いが伝言を言付けるためヴィアの元へ訪れた。エヴラールからは、魔法の授業では実技も行うので動きやすい服装をするようにとのことだった。

 クロエにそれを伝えると、すぐさまクローゼットからパンツスタイルの服を用意してくれた。以前もあったが、いつこんなの準備しているのかとヴィアは不思議に思っていた。

 服を着替えたタイミングで、部屋の外で待機していたルカが、エヴラールの到着を告げる。クロエに視線を向けると、クロエは扉の方へと向かい扉を開ける。


「ご機嫌よう、殿下。本日から魔導師団で魔法の授業を行いますので、お迎えにあがりました」


 エヴラールは昨日最後に見た顔とは打って違って今日は生き生きとしていた。そして、自分の伝言通りの服装をしていたヴィアを見て満面の笑みを浮かべると、魔導師団へ向かうためヴィアを誘いながら歩き出した。


「午前は魔法についての座学を行い、午後から実技を行います。明日からは午前から実技を行うと思いますので、今着ているものを明日も着るようにしてください」


 魔導師団へ向かう途中にエヴラールは簡単に魔導師団についてヴィアに説明する。

 魔導師団は王城の東の一角にある。西の一角には騎士団の執務室があり、それに近い場所に訓練場がある。

 魔導師団は人数が多いため執務室を十人程で一部屋使用しているが、役職付きになると部屋の規模は小さいが一人用の執務室を使えるようになる。現在それが適用されているのが、魔導師団長と副魔導師団長、そしてエヴラールの三人だ。平の魔導師であるエヴラールが一人用の執務室を使えるのは、彼の力が団長よりも優れているからだが、エヴラールにとっては嬉しくないらしい。


「殿下に愚痴を言うのも何ですが、私は他の人と同等に扱って欲しいんですよね。私の力なんて戦時以外ではただのお飾りなんですから」


 人より優れた力を持つ者しか分からない悩みなので、ヴィアは適当な相槌をうつしか出来なかった。

 そんな話ばかりしているといつのまにか魔導師団に着いた。話しながら歩いていたおかげが、魔導師団へはすぐ着いたように思えた。

 魔導師団へ着くと、エヴラールに案内された部屋へ入る。先程聞いたエヴラール用の執務室だ。

部屋の中は山積みの書類に埋もれた執務机、壁沿いには本棚が隙間なく置かれ本棚にも大量の本が並べられているが、入りきらないのか本棚の前に何冊か山積みになっていた。そして、簡易な作業用机と椅子が部屋の中央に置かれていた。ヴィアの授業のために用意したものだと思われる。


「では、まず座学を行いますので用意をしてきます。殿下は座っていて下さい」


 エヴラールはそう言うと足早に部屋から出て行った。部屋にはヴィアとここまで着いてきたルカの二人となった。

 ルカも大量の本が気になるのか、部屋中を見回していた。ヴィアも本棚の本を物色していたが、すぐにエヴラールは部屋に戻ってきた。


「お待たせしました、何か気になる物でもありましたか?」


 エヴラールは本棚の前にいるヴィアに尋ねる。ヴィアは素直にどんな本があるのか気になったことを伝えると、椅子に座る。

 エヴラールはヴィアの前に水晶を置くと、部屋の外に居た人達を呼ぶ。魔導師団員であると思われる男性二人が、ヴィアに会釈しながら部屋に入ってくる。


「では、これから魔法に関しての授業を行なっていきます。この二人は魔導師団員でちょっとだけ手伝ってもらう為に呼びました」


 エヴラールが二人について言及する。ヴィアがチラリと二人の顔を見ると、二人の表情は渋っているように見えた。無理やり手伝わされたのように思える。


「昨日行いましたが、再度この水晶を使いたいと思います。まず、何の属性を持っていたら水晶がどのように光るかを理解して頂こうと思います。まず、私は火と風、そして雷の属性を持っていますので、三色に光ります」


 そう言って、エヴラールは水晶に触れる。水晶は赤と緑、そして鮮やかな黄色に光る。エヴラールが水晶から手を離すと光は消える。


「では次に水属性を持つ彼に触れてもらいます」


 エヴラールが言うと、彼の隣に居た人が水晶に触れる。水晶は水色に光る。昨日ヴィアが触れた時と同じ色だった。

 エヴラールはもう一人の人に水晶に触れるよう促す。彼は土属性を持っているので、水晶が黄土色に光る。

 これで全属性確認したことになる。この後どうするのか全員でエヴラールの方へと視線を向ける。


「では、最後に殿下の属性を視てみましょう」


 エヴラールは笑顔で言い切った。エヴラールの言葉にヴィアは焦る。エヴラールはヴィアが氷の属性を持つことを知っているはずで、それを秘密にして欲しいと昨日エヴラールには伝えた。なのに、他の人がいる前で水晶に触れろと言う。ここで水晶に触れると部屋にいる全員にヴィアが氷の属性を持つことがバレる。ヴィアとしてはそれを避けたい。ヴィアはエヴラールに非難の視線を向けるが、エヴラールはそれを気にもしていなかった。


(もう、どうにでもなれ‼︎)


 ヴィアは諦め、半ばヤケクソになりながら水晶に触れる。水晶は昨日と同じように水色と緑色に光り、二色に隠れるように薄い水色も光っていた。

 魔導師団員とルカは静かに水晶の光を見ていた。

 ヴィアは水晶から手を離し、下を向く。魔導師団員とルカの反応が怖く、直視できそうになかったからだ。

 エヴラールは俯くヴィアをよそに、魔導師団員へどうだったか聞く。

 ヴィアは聞きたくないと思って耳を塞ごうとする。氷の属性なんて好きでなったわけじゃないのにと。


「水と風の二属性とは素晴らしいですね!」


「あぁ、グレン殿下と属性は違うが二属性は素晴らしい。殿下達で全属性が揃うとはこの国は安泰だ」


 魔導師団員は興奮しながら話していた。


(もしかして…視えていないの?いや、気付かなかっただけ?)


 ヴィアは二人の会話に疑問に思っていたが、昨日、教師も気付いていなかったことを思い出した。

 氷の属性は初代から三代国王しか確認されていない。ならば、氷の属性を持つ者が現れたとしても、水晶の光を見ただけでは現在の人たちはそれを認識できない。エヴラールはそう思ったからこそ、ヴィアへ水晶に触れるよう促した。結果としてエヴラールの考えは正しかった。だが、いいように使われた身としては、少々納得がいかなかったし、事前にその仮定を伝えてほしかったところだった。

 ヴィアはエヴラールを静かに睨み続けた。


「では、殿下の属性が分かったので本格的に授業を始めていきたいと思います。ご退出下さい」


 エヴラールは手伝ってくれた魔導師団員をあっさりと部屋から追い出し、ルカにも退出を促した。

 二人になったところで、ヴィアはエヴラールに文句を言う。


「随分と意地悪な方なんですね」


「意地悪だなんて、言う暇が無かっただけですよ。しかし、殿下も目にされたように、水晶の光だけで氷の属性を判別できる者は限られているようですね。魔導師団員もですが、殿下の騎士も判別は出来ていなかった。それに昨日の教師も」


 エヴラールはそう言うと自身の執務机に腰掛けた。王女の前で大分砕けた格好をしている。


「じゃあ、エヴラールは何で分かったの?」


 ヴィアはエヴラール相手にかしこまる気は無くなったので、フランクに話し始める。エヴラールもその方が良いのか嬉しそうだった。


「まぁ、実力ですかね」


 当然のように言い切ったエヴラールにヴィアはジト目を向ける。ヴィアの視線で流石にマズいと思ったのか、エヴラールは咳をすると言い直した。


「殿下のは他の人と光が違ってたんです。最初は違和感しかなかったのですが、二回目で分かりました。氷属性は失われたのではなく、ただ現れなかっただけです。王族に…殿下には氷属性が現れる可能性が高いことを、念頭においていたからだと思います」


 エヴラールは言い終わると水晶を片付け、執務机の方から椅子を持ってきてヴィアの対面に座る。


「今後、殿下が氷属性を持つことは容易に判別できることではないと分かって良かったではないでしょうか?」


 全く悪びれなく言うエヴラールにヴィアはイラッとして、デコピンを喰らわした。イイ音がしたので、ヴィアは少し気持ち的にスッキリとした。痛がるエヴラールにヴィアは、魔法の授業を始めるよう促す。

 



◇◇◇◇◇◇◇◇




 昼の鐘が鳴り、午前の授業が終わる。

 国随一の魔導師であるエヴラールの授業は分かりやすかったため、ヴィアは時間を忘れて必死に学んでいた。

 午後からも魔導師団でエヴラールに魔法の授業を教えてもらうことになっている。昼食を食べるために一度自室に戻るのが面倒だと考えていると、部屋の扉がノックされた。エヴラールが扉を開けると、クロエが扉の前に居た。


「クロエ、どうしたの?」


 本来なら居るはずのないクロエが居ることにヴィアはビックリしていた。

 クロエは昼食をお持ちしましたと笑顔で言い、持っていたバスケットを持ち上げる。


 魔導師団の一角からすぐ近くに庭園があるので、そこでクロエとルカと三人で昼食を取ることにしたが、エヴラールも何故か一緒に来ていた。


「殿下と昼食を共にできるなんて夢のようですね」


 見え透いたお世辞を言うエヴラールにヴィアは

冷めた視線を送る。ルカも訝しんでいる。クロエは全く気にしていないようだった。


「今日はサンドイッチです。料理長に簡単に食べれる物がいいと言ったら作ってくれました。多めに用意してありますので、エヴラール様も気になさらずどうぞ」


 昼食の内容について事前に伝えていたのか、急に伝えたのかは分からないが、料理長は簡単に引き受けてくれたようだ。料理長に感謝してからヴィアはサンドイッチを食べ始める。ちなみに、エヴラールはヴィアが食べ始める前から、サンドイッチを食べていた。それを見ていたルカはエヴラールを信じられないという視線を送っていた。真面目なルカとエヴラールは合わないかもしれないとヴィアは密かに思った。


 昼食後、ヴィアは食後のティータイムでのんびりしていた。クロエは準備に抜かりなく、同僚に庭園へティーセットを運ぶのを伝えていた。ヴィアのティータイムにエヴラールは便乗していた。


「殿下のおかげで私は食事が大切だと改めて痛感しました」


 急にどうしたのかとヴィアは思っていると、エヴラールは今までの王城での食事が自分に合わなかったことを話し始めた。しかし、ヴィアが国王に進言したことによって、王城の食事は改善された。今までは同じ物を毎日無理やり食べていたが、改善されてからは好きなものを食べれるようになったという。それを有り難く思っている人はエヴラール以外にも大勢いる。


「魔導師団を代表して御礼申し上げます、殿下本当にありがとうございました」


 エヴラールはヴィアに頭を下げる。ヴィアにはそれがむず痒く感じた。それに、食事が改善されたのはヴィアのおかげではなく、グレンのおかげだとヴィアは思っていた。


「あれは…グレンお兄様が賛同してくれたからで、私はお礼を言われることをしていない…」


「確かにグレン殿下のお言葉があって陛下も了承されたかもしれません。しかし、まず一言殿下が奏上されなければ、グレン殿下も賛同せず、陛下も了承されなかった。なので、やはり殿下に御礼を申し上げるのは当然のことですよ」


 エヴラールはキッパリと言い切った。彼の顔には嘘をついてるようにも見えず、本音で言ってるのだとヴィアは理解する。

 ヴィアはずっと思っていた、自分の発言はまだ人に影響を与えるほどではないと。国王もグレンの後押しがあったからだと。そう思っていたからこそ、エヴラールの言葉に素直に喜べなかった。しかし、エヴラールはヴィアの言葉が無ければと言った。それがこんなに嬉しいものだと思わなかった。

 ヴィアは目頭が熱くなるのを感じてエヴラールから顔を背けると、小さな声でありがとうと告げる。その声がエヴラールに届いたかは分からないが。




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