8.
前世の記憶が戻って三週間が過ぎた。
真面目に授業を受けたおかげか、マナーや政治経済などの授業以外は全て終了した。
今日から魔法について学ぶ。魔法を詳しく学ぶのは魔法学院に入ってからだが、王族や貴族は入学前に最低限の知識を学ぶ。
ノックの音がしてから教師が部屋に入ってくる。教師の後に男性も部屋に入る。誰だ?
「ヴィア様、彼は魔導師団に所属するエヴラール・ディノです。本日、ヴィア様の魔力と属性を視させていただきますので、御同行してもらいました」
教師がヴィアにエヴラールの同行を説明する。
エヴラール・ディノー魔導師団に所属する、リュシエール王国随一の魔導師。本来なら団長になるほどの実力者なのに、役職を持つことが嫌いで、魔導師団では平の団員として所属し仕事をしている。
エヴラールはヴィアの前で膝をつくと、右手を取り口付けると、ニッコリと微笑む。その笑顔は何か含んでいそうなものだった。
(腹黒そうだなぁ…)
それがヴィアのエヴラールに対しての印象だった。
エヴラールが机の上に水晶を置く。リュシエール王国では、王族や貴族は子供の頃に魔導師団が所持する水晶で魔力の有無や魔法属性を調べる。魔力が有れば水晶は光り、無ければ水晶は一切反応しない。そして、水晶がどんな色に光るかで属性を判断する。
ヴィアはエヴラールと教師が見守る中、水晶に触れる。水晶が光るのを見て教師は感嘆の声をあげる。
「水と風、二つの属性をお持ちとは素晴らしいです」
教師は嬉々としているが、エヴラールはヴィアを見て何か考え込んでいた。そして、教師に席を外すように言い、教師が部屋から出ると口を開いた。
「殿下、もう一度水晶に手を置いてください」
ヴィアはエヴラールの言う通り水晶に触れる。水晶は先程と同じように光っている。
「三つの属性とは……恐れ入ります」
エヴラールは笑いながらどこか楽しそうに言う。
「水と風、そして氷とは稀に見る才能です」
「氷……あの薄い水色のこと」
ヴィアは水色と緑色の光の中を隠れるように光る薄い水色を凝視する。
「そうです。教師からも聞いていると思いますが、氷の属性は初代から三代国王までで、四代国王からは出現しておりません。とても希少な属性です。それを殿下は保持しておられます。このことは喜ばしいことですが…」
「エヴラール様、私が氷属性を保持していることは誰にも言わないでください‼︎」
ヴィアはエヴラールの言葉を遮り、縋るように言いはなつ。エヴラールは少し驚いていたが、すぐに表情を戻し膝をつくと、御心のままにと告げる。
教師を部屋に戻すと、ヴィアが二つの属性を持つことから、ヴィアの魔法に関しての授業はエヴラールが受け持つことになった。教師は反論せず、国王には自分から伝えると言うと、部屋から出て行った。
「魔法を使う前に、魔力がどんなものなのか理解していないといけないので、殿下には先ず、魔力を感じていただきます」
エヴラールはそう言うと、ヴィアの手を取り自分の手の上に置いた。突然のことで理解していないヴィアをよそに、エヴラールは自身の手に魔力を集め、それをヴィアへと流した。
「えっ、な、なに?何かゾワゾワする…」
ヴィアは突然流れてきたエヴラールの魔力に戸惑う。エヴラールの魔力が蛇のように体の中を巡っていくのが、不快まではいかないが、あまり気持ちの良いものでもなかった。
「殿下、今度は殿下の魔力を私に流してみてください」
エヴラールに言われるまま、ヴィアは自分の魔力を手のひらへと集めエヴラールへと流す。エヴラールは目を閉じてヴィアの魔力をしばらく感じていた。
「魔力が感じられたところで、まずは『ステータス』を使ってみましょう!」
エヴラールは満面の笑みで言う。
「『ステータス』とは何ですか?」
「簡単に言うと、自分の魔力量や属性、状態などを見れるものです」
本当に簡単に説明する。しかし、そんなものがあれば水晶いらないのではと言うと、『ステータス』は自分自身にしか視えないものだと返された。理解はしたが納得しきれないままヴィアは『ステータス』を発動させる。
ヴィア・ヘーゼルダイン(第一王女、転生者)
体力:1,020
魔力:5,000
状態:健康
魔法系スキル
水属性:Lv1
風属性:Lv1
氷属性:Lv1
『ステータス』には体力や魔力も表示されていた。基準がわからないので、数字については深く考えなかった。魔法系スキルの欄には氷を含め属性が三つあった。
ヴィアは『ステータス』を閉じてエヴラールに表示されていた属性を伝える。魔力量も聞かれたので素直に答えると、目をこれでもかと見開いていた。
「殿下…魔導師団の平団員の平均魔力は4,000です……殿下はそれを凌駕しておられます…」
エヴラール曰く、ヴィアの魔力量は大の大人並みだという。エヴラールで8,000程らしい。そりゃ驚くかと、ヴィアは納得する。
エヴラールも流石にショックを受けたのか、本格的な魔法の勉強は翌日からとなった。急に出来た暇な時間もヴィアは部屋でまったりと過ごすことにした。