55.5
とても短いです。
「あれほど似るものか」
グレンとヴィアが退出すると、国王はポツリと独りごちた。
「私から見れば陛下とグレン殿下もそっくりですよ」
国王は何をとも言っていなかったが、何のことを言っているか理解している宰相は資料を片付けながら、国王の独り言に応える。
セバスも同様のことを思っているようで、茶器を片付けながら頷いていた。
「そうか?」
「ええ」
「異性との交友などが特に、です」
自分ではわかっていない国王は二人に尋ねると、肯定の言葉しか返ってこなかった。
「陛下はマノン王妃にお会いになるまで、女性との交友は皆無といっても過言ではありませんでした。学院時代は私とずっと一緒でしたので、私たちが交際しているなんて噂もあったくらいです」
宰相は当時を思い出してか苦い顔をしていた。
相当大変だったのだろう。宰相の表情を見ても他人事のようにしか国王は感じなかった。
「グレン様もヴィア様の変化を見てから何かを感じられたようでしたし」
セバスはヴィアが変わったきっかけとなった当時を思い出す。
「ヴィア様はとても変わられました。以前は我が儘で癇癪持ちだったのに、事故から人が変わったようになられましたね」
セバスの言う昔のヴィアはどこかイルマのようだった。
自分の言うことが絶対だという態度。セバス自身も苦労した。
子どもは身近にいる人物を見て育つ。だが、今のヴィアはもう彼の人たちのようになった。
「…本当にレオン様とミシェル様そっくりです」
しみじみと昔を懐かしむようセバスは紡ぐ。
国王も目を閉じて昔の出来事を思い出す。
『僕はミシェルと結婚するよ』
真っ直ぐに意志の強い瞳と、祈りにも似た言葉。
体の弱かった弟は、いつも何かを我慢することが多かった。
数多ある制約の中で、出会った唯一。
それだけは断固として譲らなかった。
いや、それは自分もかと、国王はフッと笑うと一言呟く。
「そうだな」
セバスと宰相はそれ以上何も言わなかった。が、二人も言う必要がないと分かっているのだろう。
顔立ちはミシェル、性格はレオンに似た姪はどこまでいくのだろう。蘇った紫の瞳と属性魔法は重荷になっていくはずだ。彼女はそれをどう扱うのか。折れてしまわぬよう守ることもできるが、それはもう自分の役目ではない。
自分そっくりのグレンは、ヴィアをずっと守り、そして愛し続けるのだろう。
自分が今でもマノンを愛しているように。




