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55.



 国王の執務室の前に着くと、護衛の騎士がドアをノックする。中からセバスが出て来て、グレンとヴィアの姿を確認すると「どうぞ」と中に入るようドアを開く。二人は誘われるまま執務室の中に入る。

 

「陛下、両殿下が来られました」


「あぁ、来たか。とりあえず座って少し待て」


 宰相と話していた国王はグレンとヴィアを一瞥すると、ソファを指差して座るよう促す。

 グレンとヴィアは国王の言葉に従い、ソファに座る。

 すぐにセバスが紅茶を二人の前に置く。グレンはストレートだが、ヴィアのにはレモンが浮かべてあった。

 さすがセバス。ヴィアの好みを熟知している。

 ヴィアは少し前にグレンの部屋で紅茶を飲んでいたので、お腹いっぱいだったがせっかくセバスが淹れてくれたので一口飲む。

 あまりにも美味しいので一口のつもりが止まることなく飲んでしまった。

 ノエの淹れてくれた紅茶も美味しかったが、セバスのはまた違った美味しさがある。


「おいしい」


 本音が溢れる。

 ヴィアが溢した言葉はセバスにも聞こえたようで、嬉しかったのかヴィアに微笑んでいた。

 

「待たせたな」


 国王がヴィアたちの前のソファに座る。

 宰相は書類をたくさん持っていた。これから、各所に持っていくのだろう。


「私はこれを配って来ます。陛下も少し休憩されてください」


 宰相は一礼して出ていく。

 セバスはすぐに国王の前に紅茶を出していた。国王もすぐに口をつける。


「お疲れですね。俺にできることはありますか?」


「回せるものは回している。後で目を通しておけ」


「わかりました」


 疲労を労るグレンだが、国王はすでに仕事を振っていた。

 さすが国王。仕事が早い。

 その後も当たり障りのない話をしていると、ドアがノックされ宰相が戻って来た。


「お待たせしました」


 宰相は一礼する。

 随分戻るのが早かったので、急かしてしまったようだ。

 

「本題に入るか」


 宰相は国王の座るソファの後ろに立つ。

 ヴィアは軽く深呼吸して、国王の目を真っ直ぐ見る。


「今、私に関しての噂があるのはご存知でしょうか」


 ヴィアは確認がてら国王と宰相に尋ねると国王は頷き、宰相はどこか気まずそうな表情をしていた。


「お兄様から噂への対処に困っていると聞きました。そこで、私から一つだけ提案があります」


「本当ですか!?」


 宰相が前のめりになるが、すぐに元の佇まいに戻る。

 

「はい。もうこれしか無いと思っています」


「で、その提案とは何だ」


「私が臣下となることです」


「な!?」


 ヴィアの提案に宰相は驚きの声を出し、国王は目を見開いて驚いていた。


「殿下!なぜそのようなことを言われるのですか」


 宰相が声を荒げる。

 国王もヴィアをジッと見つめる。


「噂は『私が次の国王』と断定するようなものもありました。確かに私にも継承権はあります。でも、私は陛下の実子ではなく王弟レオンの子です。今は王族として籍を置いていますが、もし、父のレオンが生きていたら、臣下に降っていたと思います。それが、今になったと思うことはできませんか?」


 ヴィアはグレンを諭した時と同じように二人に説明する。


「臣下に降れば私が王位を継ぐことはありませんし、継承権も放棄します。そうすれば噂が事実ではないと皆にも分かってもらえると思います」


 ヴィアの言葉を国王は静かに聞いていた。

 宰相は汗を拭いながら、あたふたしている。


「しかしながら、継承権を放棄するなら王族のままでも良いのではないですか?何も臣下にならずとも」


「それではダメです。王族のままだと諦めない人たちも必ず出てきます。それなら、臣下に降るのが一番です」


 ヴィアは宰相の提案を断り、今日まで貴族たちに擦り寄られたことと、今日も王城に着いた瞬間に貴族が擦り寄ってきたことを全て話した。

 ヴィアの話を聞いた宰相はまだ言い縋ろうとするが、国王が手をかざし宰相を止める。


「もう決めたのか」


「はい!」

 

 ヴィアは国王からの視線と問いに真っ直ぐ応える。

 国王は一度目を閉じる。何かを考えているようだ。


「これと決めたら意地でも譲らないか…」


 国王はポツリと溢す。

 宰相は国王の言葉の意味が分かったのか、何かを思い出すように微笑む。セバスも同じように微笑んでいた。

 ヴィアは何のことだろうと首を傾ける。横を見るとグレンも分からないようで不思議がっていた。


「分かった。お前の言う通りにしよう」


「ありがとうございます」


 ヴィアは顔を綻ばせる。

 横のグレンが「良かったな」と言ってくれたので、頷く。


「それでは、国民にいつ言うかですね」


「それなら、私が学院を卒業する時はどうですか?卒業後なら成人もしてますから、特に反発もないと思います」


 ヴィアの提案に宰相は納得してくれた。


「爵位や卒業後についても決めていきましょうか」


「爵位は公爵でいいだろう。一代限りにするかどうかも必要か」


「今更ですが、グレン殿下は納得されていたのですか?」


 本当に今更だが、宰相がグレンに確認すると、グレンはフッと笑って「押し切られましたよ」と納得していないことを言外に伝える。

 

「わ、私は、学院を卒業したら魔導士団に入ります」


 ヴィアは話題を変えるように進路を口にすると、横のグレンから痛いほど視線を感じる。

 ヴィアはグレンの視線から逃げるように反対の方を向く。


「…グレンとの婚約は覚えておるのか」


 全く意思疎通をしていない二人の様子に呆れた国王は大事なことを聞く。


「覚えています!結婚は私が二十歳になった時でお願いしたいです。それまでは魔導士団で働きながら、妃教育の時間に充てたいので」


 ヴィアは言いながらグレンをチラリと見る。

 グレンの表情は厳しかったが、『妃教育』という単語が出た瞬間に表情が和らいだ。


「グレンはそれで良いのか」


「はい、問題ありません」


 国王に聞かれたグレンはとてつもなく優しい顔をしていた。

 グレンを随分待たせてしまうことに申し訳なさが募るが、卒業してすぐ婚姻するよりも何かしらの功績や教育を受けたからのほうが絶対良いはずだ。

 これは後でグレンに伝えよう。



 その後もヴィアの爵位の名称、永代か一代限りかなどの話を詰めていった。

 結果、ヴィアは卒業後、エーデル公爵となりレイン公爵のように分家となることが決まった。グレンとヴィアの子どもに爵位は受け継がれていき、王位継承権についても男女関係なく継承される。


「これで問題はないと思います。ヴィア殿下は貴族から噂について言われたら反応せず、すぐに私に言ってください。こちらで対処します」


 宰相が噂について対処すると言ってくれたので、ヴィアはそれに甘えることにする。

 話もまとまったので国王に謝辞を述べてヴィアはグレンと執務室から出ると、またグレンの部屋に移動した。



 ヴィアは先程思っていたことをグレンに伝えると、これでもかとグレンに甘やかされた。




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