53.
「第二試合始め!」
開始の合図と共に、四人は魔法を発動させる。
コームが自分とブランシュの前に土壁を創り、相手の魔法を防ぐ。その壁の間から二人は魔法を相手に放つ。
土壁に魔法が当たるたびに土煙があがり視界が悪くなっていく。それでもお互い魔法を放ち続けるが、突然相手チームの悲鳴が聞こえる。
煙が収まっていくと、コームが相手チームの背後に立っていた。相手チームは前にしか目を向けていなかったので、背後が疎かになっていたようだ。そこを、突く形で攻撃した。
これで相手チームは二人戦えなくなったので、待機していた二人が出てくる。そこには当然ララがいる。
ララは交代してすぐに、竜巻を放つ。コームとブランシュも対抗するが、ララの竜巻のほうが威力が強く二人の魔法は弾かれる。
ララの方ばかり見ていた二人の横から火魔法が飛んできて、コームが吹き飛ばされる。
倒れたコームに駆け寄ると目を回していたので、これでは戦えないとなりエリクに任せてヴィアはブランシュの元に行く。
ヴィアが出てきたことで会場内に大きな声援がとぶ。それにブランシュは怖気づいたのか、表情が固かった。
「ブランシュ、大丈夫だよ」
「…はい、ヴィア様」
ブランシュを安心させるように微笑むと、彼女も頷いて深呼吸する。そして、表情が元に戻るのを確認すると「いくよ」と声をかけて、試合を再開させる。
「ヴィア様、負けませんよ!」
「それはこっちの台詞だよ」
ララは意気込んで魔法を発動させるが、その前にヴィアは竜巻を複数個発動させて味方を守る。
ヴィアは魔法で蜃気楼を生み出すと、ブランシュに魔法をかける。
「私が合図したら魔法を使ってね」
ブランシュは頷くと、移動していく。そして、その姿がすーっと見えなくなる。
ヴィアは竜巻を相手目掛けて動かす。ララたちは竜巻から逃げながら、攻撃を仕掛ける。
その隙にヴィアはララの背後へと素早くまわり込む。
「ミロワール・ドー」
ヴィアとララの周囲に霧が立ち込め、ヴィアの幻影が出現する。
ララは術中に嵌り、目の前にいる幻影目掛けて魔法を放っていく。
ヴィアはブランシュの名を呼ぶと、ララ目掛けて火魔法が飛んでいく。
ヴィアはその間にもう一人のところへ行き、風の刃を放つ。威力を抑えているので、傷は軽傷で済むが、相手は膝をついて動けなくなる。
ララの方を見れば、彼女も座り込んでいた。
これで、全員戦闘不能ということになり、ヴィアたちのチームの勝利が決まった。
「そこまで!勝者六番」
ロドリグの声にヴィアは喜びが込み上げてくる。負ける気はなかったが、こうして勝てたことは本当に嬉しかった。
客席から拍手が送られるが、生徒たちからは冷ややかな視線が幾つかあった。
ブランシュたちがヴィアの元に来て、喜びを爆発させていた。コームは目が覚めたようで、エリクに肩を借りながらも、嬉しそうにはしゃいでいた。エリクは出番が無かったことへの不満はあるみたいだが、喜んでいた。
ひとしきり喜びあった後、ヴィアはララの元に行く。座り込んでいるララに手を伸ばす。
ララはヴィアの手を取るとゆっくりと立ち上がる。
「負けました…やっぱり強いですね……」
「ララもね。正面から戦うのは分が悪いと思ったから、少し卑怯な手を使ったけどね」
ヴィアは肩をすくめる。
ララは首を横に振り、ヴィアの言葉を否定する。
「卑怯じゃないです。それも戦術ですよ」
「その通りだよ。正面からでも、不意を突いてもなんて関係ないよ。戦い方はそれぞれで違う。どちらが正しいとかはないからね」
ロドリグは諭すような声音で紡ぐ。
それで納得する生徒がいるかは分からないが、それでも理解してくれる人がいるだけで十分だった。
ロドリグはヴィアたちに移動を促し、次の試合の生徒たちを呼ぶ。
ヴィアはララと別れて、チームの元に戻り次の対戦相手の戦い方を観察していく。
二回戦目もヴィアたちのチームは勝ち、残り三チームとなった。
「ここからは個人戦だよ」
ロドリグはまた箱を出して、全員にくじを引かせる。ヴィアは七番だったので、四番の人と戦うことになる。
相手は別のクラスの生徒で、属性は火魔法。
順番が来たらヴィアは水魔法のみを使用して、相手を退ける。
その後も順調に勝ち進み、優勝決定戦まで進んだ。
相手はシルビアだった。
シルビアを相手にするなら、威力を抑えて戦うことは厳しい。
ロドリグに呼ばれて、シルビアと向かい合う。
「ヴィア様、手加減はしないでくださいね」
「できないよ…」
シルビアの言葉に素直に返す。
勝ちたいという気持ちが全面にでているシルビアに気圧されそうだが、ヴィアは表情を引き締める。
チラリと来賓席にいる国王を見ると、サインをくれた。
これは合図だ。もう隠さなくていいと。
(隠しておきたかったな…)
ヴィアは目を閉じて息を整える。
ゆっくりと目を開けてシルビアの姿を捉える。
「始め」
ロドリグの合図で対戦が始まる。
ヴィアはすぐに水魔法で波を幾重も創り自分の周りを覆う。
シルビアの属性魔法は雷だ。
正直なところ水と風魔法では分が悪いが、氷魔法は奥の手として使うことにする。
ヴィアはシルビア目掛けて風の刃を放つ。
距離をとりながらシルビアの出方を見ていく。
「余裕ですね、ヴィア様」
「そんなことないよ」
ヴィアの立ち回りからシルビアはそう感じたのだろうが、そんな余裕は一切無かった。
頭上から雷撃が何個も落ちてくる。ヴィアは波で雷撃を防ぐ。その隙に霧で視界を遮り姿を隠すと、風の刃を放つ。
シルビアは間一髪で避ける。
ヴィアは今度は水魔法の質量で圧倒する。範囲が広く避けれなかったシルビアは流され壁に打ちつけられる。
ダメージを与えられたようなので、ヴィアはもう一度攻撃するが、それは避けられた。
体勢を整えたシルビアの掌から雷が放たれ、ヴィアはすんでのところで竜巻を発生させ自身を覆い雷を防ぐ。
ヴィアは目を閉じると一つ息を吐き、ある決意する。
竜巻を解き、ヴィアはシルビアを真っ直ぐ見つめる。
シルビアは攻撃を止める。
無防備に立っているヴィアをシルビアだけでなく会場にいる人全員が不思議に思う。
「スタラクティット」
ヴィアの詠唱で魔法が発動すると、シルビアの頭上から氷の柱が次々と落ちてくる。
対応が遅れたシルビアは一撃目を避けきれず、肩に傷を負う。
シルビアは攻撃をなんとか躱してヴィアを見つめる。その表情は驚きと困惑の色が見えた。
会場内にいる観客や生徒、教師たちも見たことない魔法にざわめいていた。が、来賓席にいる国王とグレンは静かに二人を見ていた。
「ラム・ドゥ・グラス」
ヴィアの掌からシルビア目掛けて氷の刃が飛んでいく。
シルビアは動くのが遅れたので、全ては避けきれずにいた。
先程よりも傷を負ったシルビアにヴィアは攻撃の手を止める。が、シルビアは笑って首を振る。
「ヴィア様、まだですよ」
「…そうだね」
ヴィアの返事は一拍遅れた。これ以上するつもりはなかったが、彼女が望むならと。
二人はそれぞれ手を翳す。
「クドゥ・トネール」
「カスケード・グラス」
二人の魔法がぶつかる。
今まで一番威力のある雷撃は分厚い氷に弾かれる。氷の塊はそのままシルビアへと襲いかかる。
悲鳴をあげ、シルビアは倒れる。
「そこまで!勝者ヴィア!」
試合が決すると、会場内から割れんばかりの歓声と拍手が湧き上がる。
ヴィアはすぐにシルビアの元へ走る。
「シルビア…大丈夫?」
ヴィアはシルビアを動かさずに治癒を施す。
凍傷は無いが切り傷が多いので、治さずに動かすことはしたくなかった。
「さすがですね…ヴィア様は」
「そんなことないよ…シルビアが強いから手加減とか一切出来なかった」
ヴィアは治癒をしながら本音を告げる。
最後の魔法を手加減していたら負けたのは自分だ。それほどシルビアは強かった。
「ヴィア様、それは最高の誉め言葉ですよ」
シルビアはふふっと笑う。
ヴィアはそれがなぜか嬉しくてつられて笑う。
そんな二人を祝福するようにしばらく拍手が鳴り止まなかった。