51.
『魔法技術大会』前日。
ヴィアは寮の自分の部屋でシルビアたちと大会について話しをしていた。
「ついに明日が大会ですね!楽しみです」
「ドキドキしますねー」
「大会についてはヴィア様が提案されたのですよね?学院長たちはすぐに許可をくださったのですか?」
シルビアから尋ねられヴィアは記憶を思い出しながら、その時のことを話し始める。
◇◇◇◇◇◇
一年程前ーー魔法学院の学院長室である話し合いが行われていた。
学院長室には学院長はもとより、グレンとヴィア、そして教師のロドリグがいた。
四人は同じ資料を持って話しをしていた。
「今回、私は『魔法技術大会』という場を設けることを提案しに来ました。この大会は学院で学んだ全ての事を最終学年に披露する場として考えています」
「『魔法技術大会』ね。確かに今まで学院には無かったものだ。だけど、必要なのかい」
学院長は資料を見てヴィアに問いかける。
「魔法学院は単に魔法を学ぶだけでなく、友人を見つけたり、精神や肉体的に己を成長させることができます。しかし、学院を卒業すると学んだことを発揮する場もない人がいることも事実です。なので、卒業前に各々の成果を披露する場があるべきだと思います」
「うーん、まぁ、一理はあるけど。こんな大々的にしなくてもいいんじゃないか」
学院長は資料を指しながらヴィアに聞く。
資料には会場の規模、動員数、警備、屋台など、細かく記載されていた。
もはや一種のお祭りのようだった。
「この大会は生徒のためだけでなく、彼らの親のためでもあります。長い期間離れていた子どもたちが、学院でどれだけ成長したのかを知りたいと思うはずです。そのために、大会と称して大々的に行うべきです。また、大会は長くなると思われるので、飲食も提供するべきだと思います」
学院長はまだ納得いってないのか、ずっと唸っている。
そして横にいるロドリグに尋ねる。
「ロドリグ先生はどう思う」
「良いと思いますよ。細かいことは後で詰めればいいので、私は開催に賛成します。たまに、生徒の親から子どもはちゃんと学んでいるのかという手紙が送られてきますので、彼女の言うことは正しいですし」
ロドリグは資料をパラパラとめくりながら、学院長に応える。
学院長は腕組みをして、また唸る。
「うーん。まぁ、いいよ。君たちの学年からとりあえずしてみようか」
「ありがとうございます」
ヴィアは学院長に頭を下げる。
横にいるグレンから「良かったな」と言われ、微笑んで頷く。
「学院からの責任者はロドリグ先生にお願いするけど、そちらは君がするのかい」
「えぇ。宰相も手伝ってはくれますが、私がメインで動きます」
グレンは学院長からの言葉に頷き答えていく。
実は今日の話し合いの前に、国王には事前に話しを通してあり、一緒に聞いていたグレンをすぐに責任者にしていた。
ヴィアもフィリップもまだ学生のため、実際はグレンしか対応できないといってもいいかもしれない。
ロドリグは資料を纏めると、グレンのほうを向いた。
「では、グレン殿下。今後の話し合いのことについて確認をしていきたいのですが、お時間は大丈夫ですか」
「はい、大丈夫です」
「では、場所を変えますので。ヴィア様も発案者として参加されますか」
「はい、ぜひお願いします」
ロドリグに促され、グレンとヴィアはソファから立ちあがり、扉へと向かう。
学院長に挨拶をして部屋を出ると、少し離れた部屋に入る。
部屋の中は本が大量にあり、机の上にも積まれていた。
どこかで見たことがある部屋だと既視感を感じた。
ロドリグは机の上を簡単に片付けていく。その様子が誰かと重なる。
(あ、エヴラールと同じなんだ)
ヴィアが幼い頃に見たエヴラールの部屋。彼の部屋も本が大量にあり、机の上に資料が散乱していた。思い出したらスッキリしたヴィアだった。
その後、ロドリグと一緒に大会の細かいところを詰めていった。
大会は男女混合で行うこと。別でも可とする。
チーム戦を行い、勝ち抜いたチームから個人戦に切り替えることにする。ただし、これは試験的なもので、検討の余地ありとなった。
その後もロドリグとグレンを主体として大会の開催に向けた準備が少しずつ行われていた。
◇◇◇◇◇◇◇
「ていう感じだったね」
ヴィアは話し終わると紅茶を飲む。長く話したので、喉が渇いてしまった。
思い出せるだけ思い出したが、最後の方はいらなかったかもしれないなと、思ってしまった。
「学院長は反対されてたんですね」
「反対というより、なぜするのかを聞いてこられた感じだったよ」
ヴィアはその時感じたことを思い出していた。
確かに学院長は否定的に見えたが、反対とまでは言ってなかった。
「父に聞いたことあります。学院長はまず否定から入るので『否定のクリストフ』という渾名を付けていたと。それに学院長が否定するのは、提案者が自分の考えをちゃんと持っているか確かめるためでもあるとも言ってました」
「なるほど。提案しても内容が無かったり、考えが足りなければ、上に立つ人としては許可を出しにくいですよね」
ララが頷きながらシルビアの言葉に納得する。
ヴィアも同じように納得するが、それよりも別のことが気になった。
「ねぇ、シルビア。『否定のクリストフ』ってレイン公爵が考えたの?」
「いえ、父の友人らしいです。私も詳しくは聞いてないですけど」
「クリストフって学院長の名前でしたよね?」
ジゼルが確かめるように尋ねる。
「えぇ、学院長の名前は『クリストフ・ディノ』よ」
『ディノ』と聞いた瞬間、ヴィアの脳内には先ほどの回想でも出てきた人を浮かべる。
ディノは侯爵家だったはずだ。あれ、じゃあ彼もそうなるのか。
ヴィアはぐるぐる考えだしてしまった。
考えると黙り込んでしまうのはヴィアの癖だ。
「どうかしましたか?」
急に静かになったヴィアをシルビアが心配気に見つめる。
「……学院長って息子さんいたっけ?」
やっとのことで絞り出した言葉。
シルビアは疑問に思うことなく答えてくれた。
「えぇと、学院長は結婚されてますが、子どもが出来なかったので養子を取ったとは聞いたことあります」
ヴィアは項垂れた。
そして、理解した。その養子が彼なんだと。
「ヴィア様、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。ただ自分の無知に打ちのめされてただけだから。」
エヴラールと出会ったのは五歳の時。それから幾らでも知る機会も聞く機会もあったが、ヴィアはそれをしなかった。
(今更知るなんてな…)
恥ずかしいような、情けないような気持ちがヴィアの胸の中で渦巻いてる。
「昔からの知り合いが、その養子だったの…それを今知ったからなんか……」
ヴィアはそう言いながら項垂れていく。
「でも、家柄とは関係なく今までいたのでしたら、その方も気にしてないのでしょう。だからヴィア様がそこまで気になさることではないと思います」
菩薩、いや女神が目の前にいる。
優しく微笑みながらヴィアを気遣ってくれるシルビアをヴィアは両手を合わせて拝む。
何故かジゼルとララも同様にしていて、シルビアは戸惑っていた。
三人は「女神様ー」と言いながら暫く拝んでいた。
「明日は大事な日なので、もうお開きにして休みましょう!戻りましょう。ジゼル、ララ」
いつまでも終わらないので、シルビアは三人から目を逸らしながら立つ。その顔は照れているようだった。
「そうですね。お邪魔しました、ヴィア様」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
ジゼルとララも立つとシルビアと一緒に扉へと行き、手を振って出て行く。
ヴィアは三人を見送るとベッドに横になる。
明日の大会が楽しみだなと、ワクワクしていたヴィアだが、目を閉じるとすぐに眠りについた。




