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50.

長いですけどほとんどセリフです。



 夜になりヴィアは王城の廊下を目的の部屋目指してルカと歩いていた。

 目当ての部屋に着くと扉をノックする。少しして扉が開いてフィリップが姿を現す。


「いらっしゃい、兄さんは来てるよ」


「遅くなりました。あっ、これ持ってきたので食べましょう」


 ヴィアは持っていたカゴを持ちあげる。中にはクロエに用意してもらった軽食と飲み物が入っていた。

 フィリップはカゴを受け取るとヴィアに中に入るように促す。ヴィアは控えていたルカに休むよう告げ、フィリップの部屋に入る。


「ヴィアも持ってきたみたいだよ。もうたくさんありすぎて食べきれないよ」


 フィリップは可笑しいとばかりに笑っていた。

 そんな彼の姿を見ながら、こうして王城で過ごせるのはこれが最後だと思うとヴィアは寂しさを感じた。

 ソファに座っていたグレンはもうすでに始めていたようで、ワインボトルが空いていた。ヴィアはジト目でグレンを見ながら彼の横に座る。


「お前も呑むか?」


 ヴィアの視線の意図を勘違いしたグレンがワインボトルをヴィアの方へ差し出す。


「兄さん、ヴィアはまだ成人してないよ…」


 フィリップが呆れたように諌める。

 

「今日だけだ。俺たちの秘密にすれば良いだろ」


「悪い大人だな…」


 フィリップはもう呆れ果てていた。

 ヴィアは二人の会話を聞き流して、自分のグラスに並々と注ぐ。ジュースを。


「私は悪い大人にはなりたくないので」

 

 フフンと鼻で笑いながらヴィアはグレンを見てグラスをあげる。


「そうだね、兄さんは悪い例だから真似しちゃダメだよ」


 破顔したフィリップはヴィアの言葉に同意をすると、ワインの入ったグラスを持つ。

 二人に言われたグレンは肩をすくめると、グラスを持ちあげる。


「じゃあお前ら、悪い大人になるなよ。乾杯」


「「かんぱーい」」


 三人はグラスを高くあげて、カチンとそれぞれ合わせていく。

 一口飲むと、それが合図となり三人は笑いながら雑談を始めていく。



「あっ、ヴィア。忘れてたけど、今日は何であの場所にいたの?」


 フィリップが思い出したように、今日の卒業パーティーでのことを聞く。

 ヴィアはバツの悪そうな表情をしていた。


「あー…ちょっとあの人が何かやらかさないか不安だったので…」


「兄さんも知ってたの?」


 フィリップはグレンにも聞いた。


「あぁ、俺が色々と手配したからな」


 グレンはシレっと言い切る。気になることはあったが、フィリップはそれ以上追及することはせずにヴィアを見る。


「結果的には助かったけど、ヴィアは女の子なんだから危ないことはしないようにね」


「もっと言ってやれ」


「気をつけまーす」


 フィリップの忠告を軽く流すヴィアに、グレンとフィリップは本当に分かっているのかと言いたくなる。

 ヴィアはそんな二人の様子を気にすることなく軽食を口に運んでいた。




 その後も話を弾ませて三人は過ごす。


「ヴィア、あの件許可が取れたぞ。とりあえず今年は試験的に行うことになった」


「あー、それ。ヴィア、その話なんでもっと早くしてくれなかったのー」


「思いついたのが最近だったので」


 グレンが振った話に三人は次々と話し始める。

 フィリップは少し拗ねたような顔をして、ワインを一口呑む。


「『魔法技術大会』僕も参加してみたかったなー」


「今まで無かったのが不思議だったな」


「せっかく魔法を学びに来てるのにそれを披露する場がないのもおかしいと思ったので」


 ヴィアが苦笑していると、フィリップは頷いて肯定する。


「特に地方から来ている生徒はその成果を中々親御さんには見せれないからね」


 フィリップとグレンが自分の考えを理解して肯定してくれたことはヴィアには自信に繋がる。

 学院長へ進言する時は不安だったが、こう言ってくれることがとても有り難かった。


「フィリップお兄様、見に来てくれますよね?」


「行くよ!当たり前でしょ」


 食い気味で答えるフィリップ。

 ヴィアは絶対ですよと、フィリップに約束させる。



 深夜になっても三人のお喋りは止まらなかった。

 気分も高揚しているヴィアはフィリップにずっと聞きたかったことがあった。


「フィリップお兄様」


 呼ばれたフィリップはヴィアの方を向く。

 

「アンペール嬢とはいつからお付き合いされてたの?」


 突然の問いにフィリップはブッとワインを吹くと、ゴホゴホと咽せてしま。フィリップが落ち着くまでヴィアは待つことにした。


「……なんでそんなこと聞くの?」


「気になったからです」


 ハッキリと言うヴィアに、グレンも頷いて同調する。

 二対一の構図にフィリップは争うこともなく、すぐに降参するとゆっくりと話し始める。


「ディアヌとは二年の時から仲良くなったんだよ。テスト勉強を一緒にしたりしていく内に、その……」


「恋人になっていったんですね」


 恥ずかしいのか言葉が続かないフィリップの代わりにヴィアが言う。

 フィリップは顔を赤くして頷いた。

 そんなフィリップの様子にヴィアは胸がキュンとした。

 

「はぁーいいですねー」


「良いのかなぁ」


「どっちから告白したんですか?」


 ヴィアはさらに追及していく。

 『告白』という単語にフィリップは戸惑っていた。


「お兄様からしたのですか?」


「……いや、ディアヌから…」


 真っ赤な顔を両手で隠すフィリップは小さい声で答えていた。

 ヴィアは追い討ちをかけていく。


「そういえば前に好きな人がいるか聞いた時、お兄様は『好きか分からない』みたいに言ってましたよね」


 尚も続くヴィアの追及にフィリップはグレンの方を見て助けを求めるが、グレンは諦めろと言うように首を振っていた。


「あれは、言っていいか分からなかったから…母上のこともあったし…」


「どこからか漏れたらアンペール嬢の逃げ道も無くなるからな」


「私は逃げ道全く無かったです」


 フィリップを援護したグレンだったが、ヴィアからバッサリと切られる。

 それに答えることなくグレンはすぐさまワインを呑む。

 ヴィアはグレンをジーッと見る。その視線は恨みでもあるかのようだった。


「ヴィアは兄さんとの婚約は嫌だったの?」


 急に反撃を喰らったヴィアは言葉に詰まる。

 チラリとグレンを見た後、下を向いてポツリと溢す。


「…最初は無理矢理な感じがしてイヤだったけど……」


 フィリップが横目で確認すると、『イヤ』という単語にグレンは少なからずショックをうけているようだった。

 

「…今は良かったと思ってるよ」


 ヴィアはグレンに微笑んでみせる。

 

「…ここでは惚気ないで」


「いつやればいいんだよ」


「二人の時だけにして!二人はもっと周りの目を気にして」


 そう言って今日の卒業パーティーのことをフィリップは掘り返して、二人に説教をする。

 甘い空気を出して二人の世界に入るグレンとヴィアのことを、フィリップだけでなく全員が呆れていた。

 フィリップの説教にヴィアは反省しているようだが、グレンは気にしていなかった。


「…まぁ、僕があんまり言うのもどうかと思うけど…」


「お兄様はアンペール嬢に好きとかは言ってないんですか?」


 反撃するヴィア。

 フィリップはしどろもどろになっていた。


「お兄様、ちゃんと気持ち伝えてますか?もしかして、アンペール嬢にだけ言わせてるんですか」


 ヴィアの問いにフィリップは黙る。


「フィリップ、好きならちゃんと言わないとダメだぞ」


 先程の意趣返しかグレンもヴィアに続く。

 フィリップは言葉に詰まる。

 ヴィアは止まることなくさらに追及していく。


「アンペール嬢が可哀想です。心で繋がってるなんて甘えですよ!言葉にしないと伝わるものも伝わらないですからね」


 ヴィアはそう言って、ある一人の女性を思い出す。

 愛してると、その一言さえ言えずにいたその女性は、結果として破滅していった。

 似なくていいところまで似てしまったのだろう。



 終わりそうにないヴィアの追及。いい加減助けるかと、グレンはヴィアにグラスを渡す。

 ヴィアはそれを受け取ると素直に飲む。

 とりあえず落ち着いたのか、静かに飲んでいた。


「まぁ、ヴィアはこう言ってるが、お前たちのペースで良いと思うぞ」


「…ありがとう」


 グレンはフィリップの頭を撫でる。

 もう気軽にこういうこともできなくなると思うと寂しさが込み上げるので、今のうちにこれでもかと撫でる。

 そんなグレンの気持ちを知らないフィリップはされるがままで疑問に思っていることを聞く。


「…兄さんはヴィアとどこまでしたの?」


「……一緒の布団では寝たな」


「は?」


 フィリップは止まった。

 自分が想像していたことよりも遥かに衝撃的な内容だった。


「勘違いするなよ、何もしてないからな。本当にただ寝てただけだ」


 グレンは変なことを考えていそうなフィリップにちゃんと説明する。


「そっか…でも、そうだよね。ヴィアは大人っぽく見えるけど、まだ成人してないもんね」


「お前はどうなんだ」


「……まぁ、キスくらいなら」


 そっぽ向いて答えるフィリップの顔は照れているようで赤かった。そんなフィリップをグレンは微笑ましく思った。

 

「うまく言ってるならちゃんと言葉でも表すんだな」


「分かった」


 正論を言われフィリップは素直に返事をする。


「じゃあちゃんとどこが好きか教えてください」


 静かにジュースを飲んでいたヴィアがフィリップの方へ体をグイッと乗り出していた。

 どことなく目が据わっているようだ。


「どこがって…?」


「アンペール嬢のどういうとこが好きかですよ!彼女は他の令嬢と違ってドレスもシンプルなデザインだったりとか、色々と違うとこがあるじゃないですか」


 フンと鼻息を荒くして畳みかけるヴィア。

 どこか様子のおかしいヴィアをグレンとフィリップは訝しむ。

 グレンはヴィアが飲んでいたグラスの中身を口にする。


「あー酒だったか、これ」


 グレンは苦笑する。

 酒に酔ったヴィアは未だフィリップへ問いつめていた。

 グイッとヴィアの腰を掴んで自分の膝の上に座らせると、頭を撫でて落ち着かせようとする。


「ほら、水飲め」


「グレン!まだフィリップお兄様から聞けてないんだ……」


 それ以上ヴィアの言葉は続かなかった。

 ヴィアの唇はグレンの唇で塞がれたからだ。

 まさか、自分の目の前でそんなことをすると思わなかったフィリップはサッと顔を逸らす。

 ヴィアのくぐもった声が部屋に響く。終わったかと思えば、またキスをする二人にフィリップは自分の部屋なのに居心地が悪かった。

 

「…なん……で……?」


 息が上がったヴィアの表情は蕩けていた。

 グレンの表情は変わらず、悪気もないようで笑っていた。


「いや、フィリップもしてるんなら良いかなぁーって」

 

「バカ!」


 ヴィアは顔を真っ赤にして怒る。そんなヴィアを見てグレンはさらに破顔すると、自分の胸にヴィアの顔をうずめさせて頭を撫でる。

 目の前でいちゃつきながら言い合う二人にフィリップは席を外そうかと思い立とうとする。が、急に静かになった。

 不思議に思って二人の方を向くと、ヴィアはグレンの胸に体を預けて寝ていた。

 思っていたよりも早くヴィアが寝てしまったので、フィリップは拍子抜けしてしまい、椅子に座り直した。

 グレンはヴィアの体をソファの上に寝かせ、代わりの椅子を持ってきてフィリップの横に座る。


「ヴィアを部屋に連れて行かなくてもいいの?」


「今日でお前とこうしていられるのも最後なんだ。少しくらいいいだろ」


 サラッと言ってのけるグレンはフィリップにはカッコ良く映る。それにグレンの言葉は有り難く、自身の胸が熱くなるのが分かる。

 フィリップはスクっと立つと寝室に行き、ブランケットを手に戻り、それをヴィアにかける。

 そして、椅子に座るとグラスを持ってグレンの方を向いて笑う。


「兄さん!今日はとことん飲むよ」


 笑顔のフィリップにつられるようにグレンも笑うとグラスを持ち上げる。


「途中で寝るなよ」


 二人はカチンとグラスを合わせる。

 話しが弾んでいき、飲むペースはゆっくりでも次々とボトルが空いていく。

 


 話も尽き二人が眠りについたのは明け方だった。

 だが、何も覚えていないヴィアに二人が無理矢理起こされるのは、その一時間後だった。




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