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49.

 



 ディアヌが戻ってきた後のミモザの荒れがさらに酷くなった。

 ネイサンにまだ手を拘束されてはいるが、ディアヌのほうへ行こうと暴れながら口汚ない言葉を幾つも発していく。


「あんた、やっぱりフィリップを狙ってたんじゃない!」


「やっぱりってどういうこと」


「惚けるな!前に聞いた時違うって言ったじゃない!」


 ディアヌは少し考え込むが、すぐに「あぁ」と言い思い出したようだった。

 

「話せると思っているの?殿下とお互い慕いあっているなんて」


 ディアヌはしれっと言い切る。

 『慕いあう』という単語にフィリップは軽く頬を染め、ミモザは口をパクパクさせていた。

 周囲はザワつき、フィリップとディアヌはお互い見つめ合っていた。ミモザは俯いていたので、それに気付かず何かブツブツ言っている。が、拘束が緩んだのかネイサンを振り払うとディアヌの元へツカツカと音を立てて行き、右手を大きく振り上げた。

 何をするか分かったフィリップは止めに入ろうとするが、動くのが遅れたので間に合わない。

 驚きと咄嗟のことで対応が遅れたディアヌは、ギュッと目を瞑る。

 ミモザの手がディアヌ目掛けて振り下ろされる。

 会場内にキャーという悲鳴が響き渡るが、その後に音は続かなかった。

 ディアヌは不思議に思いながらも恐る恐る目を開ける。


「貴方は本当にどうしようもないですね」


 ミモザとディアヌの間にいた侍女はミモザの手を受け止めいた。

 突然現れ、呆れたように言ってのける侍女にその場にいた全員の視線が集まる。


「何よ、アンタ」


 自分の手を受け止めている侍女にミモザは怪訝な視線をぶつける。

 侍女は空いている手で指を鳴らすと、侍女の髪が徐々に茶色から黒色に、瞳の色が水色から紫色に変わっていき、魔法が解けると周囲にいる生徒達は息を呑む。

 侍女だと思っていた人物は、本来会場にいる筈のない王女、ヴィアだった。


「ヴィア!?」


 フィリップが驚愕の声をあげる。

 ヴィアは受け止めていた手を下ろすと真っ直ぐにミモザを見つめる。

 ゲームのシナリオとは完全にかけ離れているが、これはある意味で断罪イベントのようだ。


「バード伯爵令嬢、貴方の行動は貴族としての振る舞いから大きくかけ離れており目に余ります。もうお父上の伯爵も庇ってくれませんよ」


「…何でそんなこと言うの?私はフィリップが好きなだけで…あの女がそれを邪魔したんだよ」


 ミモザは悲しそうな表情をしてヴィアに訴えようとしていたが、最後はディアヌを睨んでいた。

 ヴィアはまだ自分の状況を理解できていないミモザに呆れ、ため息を吐く。


「邪魔は貴方ではないのですか?」


 ヴィアは首を傾けて疑問気に言う。ミモザは返す言葉が見つからないのか、唇を噛んでいた。


「フィリップお兄様とアンペール侯爵令嬢がいつから恋仲なのかは知りませんが、もしそれが本当なら貴方の方が二人の邪魔をしていると誰でも分かることですよ」


 ヴィアは二人の関係を『恋仲』という言葉を使って表現して言い切りミモザを黙らせる。

 ミモザは悔しそうに顔を歪める。

 ヴィアとミモザがお互い視線を逸らすことなく、睨み合う。一触即発の空気に誰も口を挟めずにいた。



 そんな時、今の空気を壊すようにパンパンと音が鳴る。

 全員が音のした方を向くと、学院長とグレンがすぐ傍まで来ていた。


「それまでにしようか。折角の卒業パーティーが台無しだよ」


 学院長は穏やかな声で言う。

 ヴィアは彼の言葉に確かにと思って周囲を見渡す。戸惑いと困惑などの生徒たちを見て、悪いことをしたと思い、頭を下げる。


「騒ぎを大きくして申し訳ありませんでした」


 ヴィアの謝罪に学院長は納得したのか頷く。そして、ミモザを見つめる。

 学院長からの視線にミモザは焦っているようで、後退りしていた。

 グレンが手をあげると、騎士達が来てミモザを囲み拘束する。


「なっ!?なによ?放して!!」


 騎士達の拘束こら逃れようと暴れるミモザ。


「きみは退場だよ」


 学院長がキッパリと言い切ると、ミモザは騎士達に連れられて会場から出ていった。

 連れて行かされている間もミモザは「なんで」や「イヤ」をずっと言っていた。

 ミモザが居なくなり会場が静かになる。

 学院長は声を張り上げて生徒達に「楽しんでくれ」というような言葉を言い、壇上へと戻っていく。

 学院長の言葉を皮切りに、徐々に会場は盛り上がっていき、先程の騒ぎは無かったかのようにパーティーは続いた。


 残されたヴィアはグレンの所に行こうとその場から離れようとする。


「ヴィア」


 名前を呼ばれビクッとなる。

 ヴィアは恐る恐る後ろを振り返ると、フィリップがヴィアをジーッと見ていた。

 どうやり過ごそうかと考えていたら、何処から出てきたのかドロテアがヴィアを呼んだ。

 助かったと思ったヴィアはフィリップに断ると、逃げるようにドロテアの元に向かう。

 ドロテアについて行った先はグレンの元だった。

 グレンの横に新しく席が設けてあるので、そこに座るのかと思っていたら、ドロテアがスッと座る。

 ドロテアはヴィアに向かってニヤリと笑うので、ヴィアは拗ねるようにムッとする。

 

「まずは着替えておいで」


 グレンに言われヴィアはハッとなる。侍女のお仕着せのままなのを忘れていた。

 グレンとドロテアに送られて、ヴィアは会場から出ると空き部屋で用意された服に着替える。

 会場内に戻るとドロテアは先程の席からいなくなっていた。

 ヴィアはグレンの横に座り会場内を見渡す。

 生徒達が楽しそうに過ごしているので、先程の騒ぎで楽しい空気を壊してしまった罪悪感が少し減った。

 ヴィアのそんな気持ちを無視するようにグレンが何かを思い出したように言う。


「フィリップから伝言、『後で話そう』だと」


 ヴィアは固まる。

 さっき逃げたため、グレンに伝言を頼んだのだろう。

 助けを求めるようグレンに縋る。


「ちゃんと一緒にいるから」


「絶対ですよ!グレンお兄様も一緒に怒られてくださいね」


「怒られるのはヴィアだけだろ」


 グレンはフッと笑うと、ヴィアの頭を撫でる。

 ヴィアはそれで誤魔化されないので、拗ねるようにグレンを睨め付ける。



 周囲を気にすることなく甘い空気を醸し出す二人に、近くに座る国王と学院長は馬に蹴られないように、二人から少しずつ離れていく。

 会場内にいる生徒たちも、二人の傍に近寄ることなく楽しんでいた。

 ただ、二人に当てられたのか、会場内のところどころで甘い空気が出ていた。





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