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48.



 乙女ゲームのシナリオが終わる時ーーフィリップ達の学院卒業の日を迎えた。



 今日までヴィアは何度もフィリップの教室に行っていたが、ミモザとフィリップが話をしているところを見ることはなかった。

 フィリップが王族でなくなることから攻略することを辞めたのか、他のキャラに目を向けたのかは分からないが、随分薄情な人だと思ってしまった。

 ヴィアは卒業パーティーには参加できないが、来賓として参加するグレンにお願いして侍女としてパーティー会場に入れるようにはしてもらった。

 変装魔法で髪色と目の色を変え、クロエと同じお仕着せに身を包む。

 会場に入るとクロエと事情を知っている侍女がヴィアの側に居てくれている。グレンの専属侍女のようだ。一人にしないのはグレンなりの配慮だろう。

 ヴィアはチラッと来賓席にいるグレンを見やると、彼もこちらを見ていたようで目が合った。

 軽く手を振ってくれるグレンにヴィアは微笑みを返した。

 横にいる二人にはバレているようで温かい目でコチラを見てくるので、ヴィアは恥ずかしくて俯いていた。

 


 開場の時間となり、呼ばれた人達から順番に中へ入ってくる。

 ヴィアはゲームに関係する人物を見逃さないようにしていた。

 ミモザはネイサンと共に会場に入ってきたので、フィリップの攻略は諦めたのだろうか。

 コンラッドとライオネルはそれぞれ自身の婚約者と共に入ってきた。

 入場してきたそれぞれをジッと見つめていたら、フィリップの名前が呼ばれた。

 フィリップが最後に呼ばれたためか会場内にいる全員が扉の方へ視線を向ける。

 フィリップのパートナーとして呼ばれた名前ーーディアヌ・アンペール。

 フィリップの誕生日の宴で印象に残っていた彼女がそこにいた。

 ヴィアが二人の様子を観察する。

 濃紺色のエンパイアドレスを纏ったディアヌ。その胸元に光るブローチは花の形をしていた。たぶんグレンの徽章に使われているアマリリスだろう。花の中央にアメジスト、花弁に二つのサファイアが付いていた。

 フィリップもディアヌと同じ濃紺色のコートとベストを着ていた。胸元のブローチはディアヌと同じ意匠のようだが違うのは花弁の宝石だった。黒っぽく見える宝石が二つ付いていた。

 フィリップとディアヌはお互いを見合うとはにかんで笑っていた。

 それはまるで恋人のように。

 ヴィアだけでなく会場内にいる全員がそう思ったみたいで惚けている。

 だが、不意にヴィアの視線に入ったミモザだけは違った。ギリリと歯を噛み締めてディアヌを睨んでいる。

 あの様子だとヴィアの考えは当たっていたようだ。フィリップを狙っていたが、臣籍降下となることで、狙うのを諦めたのだろう。

 所詮、その程度の気持ちだったと言うわけか。

 フィリップを諦めた結果、他のキャラとの攻略もおざなりになり、結果ネイサンとパーティーに参加することになったという感じだろう。

 そしてもう一つ大事なのは、ミモザがアメジストを身に付けていないこと。

 攻略が失敗したのは確実だ。




 卒業生が会場に揃ったことで、学院長の言葉でパーティーが始まる。

 長くありがたいお話の後に、国王がこれまた長い祝いの言葉を贈る。

 ヴィアは我慢して聞いていたが、来年も同じのを聞くのかと思うとそこだけはどうにかしたいと思ってしまった。

 

「さぁ、皆。今日は最後まで楽しんでくれ」


 学院長がそう言い乾杯した後、卒業生達は歓談を始める。食事に夢中になる者もいるようで、ヴィアも侍女としてちゃんと働く。

 一通り飲み物を届けた後、グレンの侍女から「グレン様が呼んでます」とにこやかに言われた後、飲み物を渡された。

 届けろと言うことなのだろう。

 ヴィアは大人しくグレンの元へ向かう。

 グレンの飲み物を渡すときに、気になっていたことをコッソリと尋ねる。


「フィリップお兄様のこと知ってました?」


「いや、上手く隠していたなアイツ」


 グレンは肩をすくめて笑う。

 誰にも知られずに愛を育んでいたとは、素晴らしいものだと。

 ヴィアもその言葉に頷く。

 長居しては怪しまれるので、グレンの側から離れようとすると手を掴まれる。他の人からは隠されるようにされているが、横には国王がいる。国王は知っているのか、こちらを気にする様子はなかった。

 グレンはヴィアの耳元で囁く。


「今日はアイツと居られる最後の日だから、すぐに寝るなよ」


 『最後』という言葉にヴィアの胸がズキリ痛む。

 だが、それを表情に出さないように頷くと、ヴィアはグレンから離れて元の場所に戻る。

 ヴィアはフィリップを探すために会場内を見渡すと、彼は壁側に佇んでいた。

 クロエにディアヌのことを聞くと、少し前にフィリップに促されて友人の元に行ったみたいだ。少し離れた所にいるディアヌはフィリップが気になるのか、そちらをチラチラと見ていた。

 ヴィアは再度フィリップを見る。

 まだ一人でいるフィリップの元に近付く人物がいた。

 ミモザだ。

 彼女に気付いたフィリップは穏やかな顔で話し始めるが、ミモザは怒っているようだった。

 ヴィアは飲み物を幾つか準備すると、二人の方へと歩きだす。

 徐々に二人の元に近付くと、会話が聞こえてきた。


「……なに、あの女。私の方がフィリップを好きなのに…」


「あの女?ディアヌのことか?彼女は大切な人だ。悪く言わないでほしい」


「だから、何で私じゃないの!!」


 ミモザは地団駄を踏んで声を荒げる。

 会場中に響き渡るその声に、皆の視線が集まる。

 コンラッドやライオネル、そしてネイサンも足早に二人の元へ向かう。

 ミモザは周りを気にせずフィリップに追い縋るように言い募っていた。


「…何で?私……ちゃんとこなしてたよ…なのに…」


 誰も理解できないことをミモザはずっと言っていた。

 ネイサンがすぐにミモザをフィリップから引き離そうとするが、ミモザが暴れるのでところどころ殴られていた。

 コンラッドたちもミモザを落ち着かせようとするが、上手くいってなかった。



 そんな中、ディアヌがフィリップの元に戻ってきた。




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