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44.



 ヴィアの部屋に来た刺客は、騎士たちに牢へと連れて行かれた。

 それと同時に東の塔に騎士達が捜索に入った。隠れていた痕跡はあったが、直前に逃げたためイルマは見つからなかった。

 捕まえた刺客の拷問は騎士団長やグレンが行うとのことなので、ヴィアは情報が出るのを待つだけだ。

 早朝から行われた拷問は昼過ぎには終わり、王達との話し合いが終わったのは夕方だった。休むことなく動き続けるグレンはヴィアの部屋に来て、得た情報などを教えてくれた。

 だが、イルマの情報は得られなかった。

 ソーンダイク領内に展開している兵たちも一枚岩では無い。挙兵に反対した者たちも強制的に参加しているとのことなので、その者たちにこちらへ与するよう話を持ちかけるため、密かに兵を潜らせることになった。



 翌日、国王はすみやかな征伐を命じた。

 国王の名により騎士団と魔導士団を交えた軍が編成され、事前に赴いていた隊と合流し、ソーンダイク兵と戦いを始めた。

 ソーンダイク領での攻防は激しく七日続いた。

 国王軍が勝利した。

 反乱を起こしたソーンダイク公爵は国王軍に与した者たちに討たれた。頭が死んだことで、ソーンダイク兵達は逃亡する者や降伏する者などで、混乱が起こった。

 戦後の処理は王城でも行われており、反乱が起きた日並みに、皆慌しく動いていた。

 グレンは毎日執務室に篭り、部屋には帰ってこれない状態だった。

 ヴィアは差し入れを持ってグレンの執務室に行き、少し話をして自室に戻る日を送っていた。

 国内が落ち着きを取り戻すまでは学院を休んでいる。

 シルビアにはすでに手紙で伝えてある。シルビアから返事が来た時にお身体を労ってください、という言葉があり彼女の優しさが有り難かった。 

 シルビアから学院の情報を貰ったりもしている。学院も最初は混乱をしていたが、徐々に落ち着きを取り戻していき、征伐までには日常が戻っていたとあった。

 学院にいる生徒や教師に何もなくて良かったとヴィアは安堵した。



 フィリップはあれからずっと謹慎している。

 イルマのことも、ソーンダイク公爵の反乱も知らなかったが縁があることから、フィリップのことをこれからどうしていくか周囲は話を進めているが、未だ決めあぐねている。

 グレンは今まで通り王子としていればいいと言っているが、一部の貴族から反発を買っている。さらには臣籍とするべきではという声が上がっている。

 それが妥当かと決まりそうだが、国王がイルマが見つかってから判断すると言い、フィリップはこのまま謹慎することになった。



 反乱を鎮めてから一ヶ月、未だイルマは見つかっていない。彼女もソーンダイク公爵が死亡し、反乱も失敗に終わったことは知っているはずだ。それなのに出てこないのは、意地なのか、それともまだ何かするつもりなのか。

 考えも仕方がないと、ヴィアは着替えると魔導士団の訓練場へと向かう。

 ルカもずっと気を張っているみたいだから、休むよう告げて訓練場の近くで別れる。

 訓練場までの道のり、ヴィアは気が抜けていたのか背後を取られナイフが背中に当てられる。

 しまったと思ったが、ナイフを持つ手が震えているのか切先がズレているので、相手が素人なのはすぐに分かった。イルマだ。


「…やっと出てきたのですか」


「うるさい!お前がいなければ!」


「私がいなくても、フィリップお兄様が王位を継ぐとは限りませんよ」


「うるさい!うるさい!」


 イルマは癇癪を起こしているのか、ずっと同じ言葉を言い続けていた。

 これなら彼女をすぐに無力化できる。

 ヴィアは小声で呪文を唱え魔法を使う。

 

「なっ……体が…」


 イルマの体を氷がドンドン覆っていく。

 気付くのが遅れたイルマは自身の体に起きていることに驚きを隠せなかった。

 すぐに腕を振ったりして氷を割ろうとするが、上手くいかずに、ついにイルマの体を全て氷が覆った。

 ヴィアは悲しそうにイルマを見つめる。

 隙だらけと感じたのか、そんなヴィア目掛けて何処からか矢が飛んでくる。が、ヴィアの周りに竜巻が出現し、矢は全て弾かれる。

 竜巻の中にいるヴィアは魔力を手に込めて、狙いを定めると魔法を発動する。


「ラム・ドゥ・グラス」


 無数の氷の刃が竜巻を突き抜けて、周囲の木へと飛んでいく。

 ぐわっという悲鳴が幾つかあがり、人がバタバタと木から落ちてくる。

 ヴィアは竜巻を解くと、落ちてきた敵に向けて魔法を放つ。


「ペリオードゥ・グラスィエル」


 ヴィアを起点に冷気が放たれ広範囲にいる敵を徐々に凍らせていく。


「な、なんだ…この魔法は…?」


 完全に凍りつく前に敵が問いかけてくるので、ヴィアは目線だけやり答える。


「氷魔法だよ。あなたたちが知らないのもしょうがないね」


 ヴィアは手のひらに氷の刃を幾つか出して見せる。敵はそれを見て震えていた。

 知らないものと対峙するのはやはり怖いのだろう。

 ヴィアの本心は、氷魔法を使えることは誰にも知られたくなかった。だが、もうそんなことを言っている場合ではない。


「相手が悪かったね」


 ヴィアがそう言い切ると、敵の体は全て凍りついた。

 敵を鎮圧したことによってその場は静まり返ると、ヴィアは俯く。

 初めて氷魔法を使ってこの手で人を傷つけた。

 仕方がないと言えばそうなるが、でも、この魔法はヴィアが解かなければ、永遠にこのままになる。人の生を奪ってしまえる魔法を発動したことで、ヴィアは今更恐怖で体が震えてきた。

 だが、これで終わりになるとは限らない。

 ヴィアは魔法で手紙を創り、グレンへと飛ばすと、再度凍らせた敵を見る。

 早く誰か来てと思いながらヴィアはその場に座り込むと、両手で顔を覆い俯く。



 グレンと騎士達がこの場に来たのは、ヴィアが手紙を飛ばしてから五分ほど経ってからだ。

 足早にたどり着いた者たちは、この光景を見て立ち尽くす。

 複数の凍りついた人、その真ん中に座りこむヴィアに誰もが驚きを隠せなかった。

 聡い人間はこれがヴィアのしたことだと理解し、何も言わず凍りついた敵を囲むように動く。

 ヴィアが指を鳴らして魔法を解くと、氷が溶けていく。


「死んではいませんが、気を失っています。王妃以外は傷を負っているので、必要があれば処置をしてください」


 ヴィアは俯きながら騎士たちに言うと、騎士たちは頷き、敵を縄で縛り上げる。そして、城へ連れていく。

 ヴィアとグレンだけがこの場に残る。


「ヴィア」


 グレンに呼ばれてヴィアは体をビクッとさせる。


「大丈夫か?」


 グレンはヴィアを気遣うだけで何も聞かなかった。

 本当は色々と聞きたいはずなのに。

 ヴィアはグレンの優しさに甘えてしまう自分が嫌になる。

 話さなければいけないのに、話したくない。いや、話すことを躊躇ってしまう。それに今は、人の生を奪っていたかもしれないという事実が、ヴィアの心を軋ませる。自分でも気付かないうちにヴィアの体は震えていた。

 グレンは震えているヴィアをそっと抱きしめる。ヴィアはその温もりに体を預けると、静かに涙を流す。





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