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43.



 フィリップの誕生日から数ヶ月経ち、本当に乙女ゲームの世界なのかと思うほど平穏に日々が過ぎていく。

 ヴィアは寮の自室で今週の授業の復習をしていると、突然部屋の扉が強くノックされる。

 あまりにも大きな音に驚いたが、何か急ぎな用でもあったのかと思い扉を開ける。そこには、焦りと戸惑いの表情を浮かべたシルビアが立っていた。


「どうしたのシルビア?」


「……ヴィア…さま……父からの連絡に……」


 ヴィアはゆっくり息するよう言ってシルビアを落ち着かせる。

 少しすると落ち着いたのかシルビアは表情を引き締めて、ハッキリと口にする。


「…ソーンダイク公爵が自領で挙兵しました」


 ヴィアは一瞬、シルビアの言葉を理解できなかった。

 だが、シルビアの厳しい表情を見る限りそれが真実であることは間違いない。

 ヴィアは必要なものを手に取ると、窓へ向かい窓を開け、窓枠に足をかける。そのまま自分に魔法を掛けて、外へと飛び出して行く。

 シルビアの「お気をつけて」という言葉を背にヴィアは王城へと向かう。




 王城に着くと皆慌ただしく走り回っていた。城の護衛の騎士達も招集されているのか、王城内の守りが普段より手薄に感じる。

 文官達も資料を手に忙しなくしていた。執事や侍女は不安な表情をしている。

 ヴィアは普段と違う王城の中を歩き始めるが、ふと、足元に違和感を覚えた。

 裸足だった。


(あー、シルビアに話聞いて飛び出したんだった)


 まぁ、いいかと、ヴィアはそのまま歩き出す。

 皆、気が動転しているからだろう。不恰好なヴィアに誰も気づかなかった。

 


 ヴィアはグレンの部屋の前に着くと、扉をノックする。一拍ののち、扉が開きノエが出てくれた。


「グレンお兄様は?」


「王の執務室に居られます」


 グレンは不在だった。

 ヴィアはノエに言われた場所へ向かうために踵を返す。

 ノエもヴィアが去るのを見ていたが、ある部分が目に入った。

 

「お待ちください、ヴィア様」


 ノエの呼びかけにヴィアは足を止めて振り返る。ヴィアはどうかしたのだろうかと首を傾ける。


「靴はどうされたのですか」


 ノエの質問にヴィアは「あっ」とだけ溢した。

 すっかり忘れていた。

 ヴィアは軽く笑って流そうとしたが、ノエにはそれは通じなかった。


「お部屋までお供いたしますので、まずは整えましょう」


 ノエは部屋の扉を施錠すると、ヴィアの近くに寄る。


「グレンお兄様には内緒にしてね」


「かしこまりました」


 ノエはふっと笑ってヴィアの頼みを承諾する。

 ヴィアはノエにお礼すると、自室へと歩き出す。




 王の執務室まで行くと、扉の前にいる騎士達の顔が険しかった。相当悪い状況なのだろうか。

 いや、中から聞こえる怒号のせいもあるかも知れない。

 自室でノエから聞いたのは、王妃であるイルマの実家ーーソーンダイク公爵が反乱を起こした。自領で挙兵したが、隣接する領地の当主達も追随したようで、兵の数が二万を超えている。

 王妃、いや、もう王妃ではない。イルマは昨日から行方不明だ。恐らくソーンダイク公爵と一緒にいると思われている。

 王妃の実家が反乱を起こしたという情報はすぐに王都に、いや王国全土に伝わった。おかげで、国民達はパニックに陥っている。逃げ出そうとしている国民もいるとか。しかも、家主のいない隙に空き巣が入るという暴挙もあり、そちらにも人手がさかれているらしい。

 国民を落ち着かせるために、国王が城から顔を出して説明する場を設けることで、調整が進んでいる。

 ヴィアはそこまで聞いた情報を整理したが、問題はその後だ。

 ソーンダイク領まで兵を出して反乱を治めないといけない。

 その場合の王都の守りなど、細かな話し合いが今、目の前の部屋で行われている。

 そんなところにヴィアが居れば邪魔になる。ヴィアは踵を返す。


「ヴィア様どちらへ?」


「薬室に行くわ。これからポーションが大量に必要になる。授業で学んだからポーション作製の手伝いをするわ」


 薬室へと着くと、ヴィアは責任者に許可を取り、ポーションの作製をしていく。

 二時間ほど作業して顔を上げると、自分の周りに大量のポーションが並んでいた。どのくらい作ったか数えていないが、十分な量だったみたいで、薬室の者たちに休むよう言われた。

 ヴィアはその言葉に甘えて自室に戻り、ベッドに横になる。

 これからこの国がどうなっていくのか分からない。その不安を抱えたままヴィアは目を閉じるとそのまますぐに眠りについた。



 温かな温もりを感じてヴィアはゆっくりと目を開ける。

 ベッドの天蓋以外に、グレンの姿がヴィアの目に映る。

 

「おはよう」


「…おはようございます。今はどうなっていますか?」


「変わらないな、膠着状態だ」


 グレンは肩をすくめる。

 ヴィアは体を起こし、状況を詳しく教えてもらう。

 ソーンダイク領はリュシエール王国の西にあり、近くまで騎士団と魔術師団で編成した隊が出兵している。が、まだ衝突はしていない。

 そして、イルマはまだ見つかっていない。ソーンダイク領に向かった形跡も無いようなので、まだ王都にいる可能性が高い。

 イルマの部屋を捜索したが、今回のことに関するものは何も見つからなかった。恐らく、手紙などは事前に処分してから行方をくらませたのだろう。

 フィリップは自室で謹慎している。フィリップもソーンダイク家に縁のあるものだから、当然の措置かもしれないが、納得はしたくない。

 ヴィアはグレンの説明を聞き終えると、幾つか質問していく。


「王城内も捜索したのですよね?」


「あぁ、くまなく探した。王から許可を得て隠し通路も全てな」


 『隠し通路』という言葉にヴィアは目を輝かせた。

 グレンもそれに気付き、フッと笑う。


「今度一緒に入るか」


 ヴィアは激しく頭を振る。

 こんな時に不謹慎だが、ヴィアはその日が待ち遠しかった。



 気持ちを切り替えて、ヴィアはイルマのことを考える。

 とりあえず王都の空き家、王城内でも使われていない建物の捜索を再度お願いする。

 だが、王城内に内通者がいることも考え、ワザと嘘の情報を流させ、ある場所だけ捜索させないようにする。


「東の奥に塔がありますよね」


 『東』ということに直感で理解したのか、グレンの顔が硬い面持ちになる。


「…囮にするのか?自分を」


 グレンの問いにヴィアは微笑む。

 ヴィアの自室は王城の東にある。ヴィアのいう塔は部屋から見える距離にはある。

 何か起こすなら自分を狙わせる。ヴィアにはそれを返り討ちにするほどの力がある。


「大丈夫ですよ!私は強いですから」


 ヴィアは胸を張って言い切る。

 だが、グレンの表情は硬いままだった。



 数日後、ヴィアの部屋に刺客がやってきた。

 が、ヴィアは無傷で刺客を全て倒した。

 あらかじめ特定の場所に罠を仕掛けておき、そこに触れたり通った者には攻撃魔法が襲いかかった。

 罠から逃げた者もいたが、ヴィアはすぐに魔法を放ち刺客を全て無力化した。

 





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