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41.



 四年生になったヴィアは普通科に進んだ。騎士科でも良かったが、シルビア達と離れるのは寂しかったので、普通科にした。



 風属性授業が終わり、教室から出てジゼルとララと廊下を歩いていた。

 ふと、人気の少ない方から誰かの話し声がした。

 ヴィアは声のした方が気になってしまい、そちらへ足を進める。ジゼルとララも聞こえたのかヴィアについてきていた。

 段々声が大きくなって、よく聞くと声の主は複数いた。

 気になっているヴィアは静かに声に耳を傾ける。


「貴方はご自身の立場を理解しておられるのかしら」


「伯爵家の方としての自覚もおありなのかしら」


 そんな内容の会話ーー、いや、罵倒が聞こえた。

 

(あー、来るんじゃなかった…)


 興味本位で来てしまったことにヴィアは後悔した。

 廊下の角からコッソリと覗くと、予想通りミモザが数人の女子生徒に囲まれていた。

 見てしまった以上、この状況を放置するにもいかないので、後ろにいるジゼルとララに教師を呼ぶようお願いした。二人は頷くと音を立てないようにしてこの場から離れ、先ほどの教室まで急いだ。

 ヴィアは再度視線を問題の現場へと向ける。暫くじっと見ていると後ろに人の気配を感じた。この気配は一人しかいない。


「ノエはこのこと知ってたの」


 ヴィアは背後を見ることなく後ろにいる人物に問いかける。ノエは表情を変えることなくヴィアの問いに答える。


「はい。グレン様にも報告はしております」


「グレンお兄様も知っているの!?」


 ヴィアは驚きながらも女子生徒達から視線を動かさない。グレンも知っているなら、今回のことも報告するべきかと、ヴィアは女子生徒たちから視線を外すと、魔法で手紙を創る。創り終わった手紙をノエに見せると内容に不備は無かったみたいで、すぐにグレンへと送ってくれた。

 これで面倒な後始末もグレンにしてもらえる、そう思ったヴィアはニヤリと笑う。


「ヴィア様、お顔が」


 ノエの注意でヴィアは緩んだ頬を撫でながら表情を戻す。


(それにしても、教師遅いなー)


 ヴィアはジゼルとララが呼びにいってから、時間が経っているのになかなか教師が来ないのを不思議に思った。

 その間にあちらはヒートアップしていた。


「貴方、この間なんてディアヌ様に文句言っていたわよね。一体どういうつもり」


「ディアヌ…?」


「ディアヌ・アンペール様よ!フィリップ殿下とお話されていたのを遮っていたでしょ!」


 その言葉にミモザはやっと思い出したようだった。


「だって、フィリップとずいぶん長く話していたんだよ……私のフィリップなのに」


 最後の方は声が小さくヴィアには聞き取りにくかったが、近くにいる彼女たちにはしっかりと聞こえていたようだ。案の定、女子生徒たちは激昂した。


「私のですって!?フィリップ殿下は貴方のものではないわ!」


「不敬にもほどがあるわ!」


「庶子のくせに!身の程を知りなさい!」


 口々に罵り始めた女子生徒たちの一人が、手を振り上げる。

 マズイ。そう思ったヴィアが一歩踏み出そうとした瞬間ー


「そこまでにしようか」


 落ち着いた声音が一帯に響いた。

 ヴィアが後ろを振り返るとノエの横に教師が立っていた。

 風属性授業担当のロドリグだ。ロドリグの後ろにジゼルとララも居た。

 やっと来てくれた、とヴィアは安心した。

 彼は貴族出身では無いが、優秀であったため、学院長にスカウトされて学院で教師をしている。

 温厚な見た目だが、性格は真逆の冷酷である。貴族だからという慈悲など存在はしない。彼ならこの状況も冷静に判断してくれる。


「やれやれ、学院でこんなことするとどうなるのか知らないのかい」


 穏やかだか、呆れの含んだ声色で。女子生徒たちに問いかける。

 諭すようにも思えるが、脅しともとれる言葉に、女子生徒たちは青褪める。手を振り上げていた女子生徒に至っては震えていた。


「君たちは寮に戻りなさい」


 有無を言わさない言動に反論することもなく、女子生徒たちは「はい…」と、か弱い声で頷くとトボトボと歩いて去っていく。

 そんな彼女たちをミモザは勝ち誇った表情で見ていた。


「何をしているんだい?君もだよ」


 ロドリグはミモザにも淡々と告げる。

 ミモザは理解できないようで首を傾けていた。


「君も問題ばかりで困っているよ」


 その言葉の後に、やれやれとつきそうだった。

 ロドリグにそう言われたミモザは顔を真っ赤にして反論しようとしたが、ロドリグの前にノエが割り込んだため何も言うことをせず、ドカドカと音を立てながら去っていった。

 

「ありがとうございました」


「いいよ。あまり首突っ込まないようにね」


 ミモザの姿が見えなくなった後、ヴィアはロドリグに感謝を表す。ロドリグは笑顔で応え、忠告だけするとすぐにその場から離れた。

 ロドリグの言葉にヴィアは反省をした。

 確かに自分が首を突っ込んでも解決したかは分からない。むしろ、火に油だったかもしれないと思うと、今回の行動は軽率だった。

 ヴィアはジゼルとララにお礼と巻き込んだことへの謝罪をすると、再び教室へと歩き出す。




 後日、ノエから二週間補修を行う女子生徒たちの姿があったと聞いた。その中には勿論、ミモザも含まれていた。





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