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39.



 授業全てが終わり、帰寮の支度を済ませたヴィアはシルビア達に一言告げて、自身が指定した共有棟の談話室へ向かう。

 談話室の扉を開けると既にノエがお茶会の準備をしていた。

 さすがノエ。と感心するが、彼の横にいる人物を見て驚きよりも困惑が勝る。

 ヴィアが冷めた目でグレンをジッと見る。視線に気付いたグレンはニッコリと笑う。


「何してるんですか?」


「何って、執事」


 グレンはノエと同じ燕尾服を着ている。似合う似合わないでいったら、断然似合っている!だが、今はそれどころではない。


「何で執事になるんですか…」


「まぁ、そこは気にするな」


「気にします!ノエも何とか言ってよ!」


 ヴィアはノエにも言うが、彼は諦めの境地に入っているのか、首を横に振るだけだった。

 こんな姿のグレンを見たらどうしたって、アニエスとグレースが困惑するに決まっている。

 ヴィアはため息を吐くと、椅子に座り落ち着くことにする。

 ヴィアが座ったタイミングでグレンがテーブルに紅茶を置くので、ヴィアはもうグレンに冷めた視線を向けるしかできなかった。



 指定した時間の数分前、談話室の扉がノックされる。ノエが扉を開けると、二人の女子生徒が立っていた。ノエは二人を部屋に招き入れ、ノエとグレンが椅子を引き二人を座らせる。

 二人はグレンの姿を見て目をパチパチとさせ、口も少し開いていた。貴族令嬢としては少し間抜けな顔をしていた。

 ヴィアはコホンと咳き込む真似をすると、二人は正気に戻ったのか佇まいを直す。

 

「今日は突然お誘いしてすみませんでした。でも、来ていただいて嬉しく思います」


 ヴィアは微笑む。二人は「お誘いありがとうございます」と礼をする。

 貴族令嬢として洗練された動きに感嘆する。先ほどの動揺などもう存在しない。

 だが、何とも言えない空気が談話室を包む。

 今まで全く接点が無かったヴィアからの誘いで戸惑っているのに、追撃するかのようにグレンの姿を見たからだろう。

 ヴィアと対面するように座っている二人からはヴィアの後ろにいるグレンの姿がどうしても見えてしまう。

 ヴィアの左前にはアニエス・バランド侯爵令嬢、右前にはグレース・マルセル子爵令嬢が座っている。

 特にグレースはヴィアとグレン、そしてアニエスの三人と同じ部屋にいるという緊張もあるかもしれない。

 グレースのためにも早めに話を始めることにする。


「今日は非公式のお茶会ですので楽にしてください」


「お心遣いありがとうございます……まず、お聞きしたいのですが、グレン殿下は何をされて居られるのですか」


 アニエスは冷静にしていたが、どうしても気になってしまっているようだ。

 

「彼のことは置物とでも思ってください」


 ヴィアはキッパリと言い切る。

 そんなヴィアの前にグレンは新しい紅茶を置くと。ヴィアは飄々とした様子のグレンをキッと睨む。


「そうですよ、お嬢様方。私は今だけはただの執事です」


グレンの言葉にアニエスとグレースは何とも言えない顔をしていたが、ゆっくりと頷いた。

 ヴィアは早速本題に入る。


「お二人を呼び出したのは、婚約者の方についてお話があるからです」


 ヴィアの言葉に、二人はピンときたのか表情を厳しくした。

 その表情を見る限りやはり二人も思うところがあるみたいだ。


「お二人はミモザ・バード伯爵令嬢が編入されたのはご存知ですよね」


 ヴィアの問いかけに二人は頷く。


「私の婚約者であるコンラッドは彼女が編入してから、一緒にいるだけでなく、彼女の話をよくするようになり、比べるようなことまで言ってきます」


「私も同じです」


 アニエスとグレースは自身の婚約者が既に今までと違うと理解している。

 というか、たった二ヶ月程でそんなに好感度が上がったのか。

 本来ならまだそこまで好感度は高くなく、アニエス達もここまで気をもむこともないはずだ。

 もしかしたら、ミモザが転生者だからズレが生じているのかもしれない。


「そうですか。では、マーウィン公爵令息、ダンフォード男爵令息の婚約者であるお二方に、私から頼みがあります」


 ヴィアの言葉に二人は背筋を伸ばす。その様子から『自身の婚約者を見張れ』とか言われているのだろうと推測する。

 ヴィアは優雅に微笑み、二人の予想を粉々に砕いてやる。


「婚約者のことは好きにさせておきましょう」


「「はっ?」」


「そして貴方方は自身の動向を逐一メモをするようにしてください。何なら王家の影をつけることも致しましょう」


 ヴィアは未だポカンとしている二人を他所に、さらに続ける。

 ヴィアが望むのはただ一つ。ヴィアと同じ悪役令嬢となり得る二人を守ることだ。

 前世の記憶があるのに何もせず彼女達を見捨てることなどしたくない。自分には力があるのだから、それを人助けのために使わなければいつ使うのだというのか。


「お待ちください!何故……そのようなことを?」


 ヴィアの言葉に固まっていたアニエスだが、正気に戻り問いかける。

 まぁ、当然の疑問だろう。


「婚約者がいるにも関わらず、特定の女子生徒と一緒いる男なんか捨ててしまえ」


「お兄様!まぁ、私も同じことを思っているのですが…」


 後ろからハッキリと言い切るグレンをヴィアは嗜めるが、ヴィアとしてもそう思っているのは事実だった。


「よく考えてみてください。伯爵令嬢に執心の婚約者、そして貴方方は婚約者を取り戻そうと伯爵令嬢に注意したとします。しかし、伯爵令嬢は婚約者に事実を捻じ曲げて伝え、婚約者はそれを信じて貴方方を糾弾するかもしれません。そうならないためにも自衛することをお勧め致します」


 ヴィアはこれから起こることを二人に説明していく。強引に命令するよりも、彼女達に自分でしっかり考えて納得してもらうことを優先させる。

 アニエスとグレースは話を聞き考え込む。

 暫くすると結論が出たのかお互い目を見合わせ頷き、ヴィアの方へと向く。


「殿下のお話ありがたく思います。そして、王家の影をつけて頂きたく思います」


「私も殿下の言う通りに致します」


 二人の答えにヴィアはパァッと笑顔になる。

 これで二人を助けることができる。辛い思いをする人をなくすことができると。


「では、確認のためにもう一度言います。これから貴方方は婚約者と伯爵令嬢については必要最低限でしか関わらない。そして、ご自身の動向を逐一メモをしておく。もし、糾弾してきたら反撃した後、即刻、婚約者を捨てるというのでいいですか?」


 最後についてはヴィアが勝手に付け加えた。

 もしかしたら二人は婚約者にまだ情を残しているかもしれないが、それでも自分を糾弾した相手とヴィアならば結婚はしたくない。


「このことは王家でも把握しておく。そして、貴方方の父上にも話は通す。本当に破棄するかは各家と貴方方の意思に任せる。もし必要なら新たな婚約者探しについてはこちらも助力する」


 グレンが補足してくれる。

 「ありがとうございます」とお礼をし、二人ともヴィアとグレンの提案を受け入れてくれた。

 話が纏まったので、ここからは親睦を深めるため、たわいのない話をしていく。

 グレンもヴィアの横に座り話に混ざる。

 途中、グレースがヴィアとグレンの婚約について問いかけてきた際、ヴィアは恥ずかしくて戸惑ってしまったが、グレンは嬉々としてその時のことを話していく。

 アニエスも気になっていたのか、前のめりで話を聞いていた。



 恥ずかしさで居た堪れなくなったヴィアは暫く両手で顔を覆っていた。




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