4.
叙任式を行うため謁見の間へと向かう。その間も自分の服装について考えていた。クロエが部屋から持ってきたのは純白のドレス。腰周りのパニエがついたものではなく、ストレートなラインのドレスと、僅かな装飾のみ。厳かな雰囲気の場にはピッタリだが、ついついこういうドレスもあったのだなぁ、と思ってしまった。
考え事していたおかげか謁見の間まではすぐに着いたが、扉の前に立つと緊張し始めた。気持ちを落ち着かせるために、数回深呼吸をする。
扉の前にいた騎士達とクロエもヴィアの気持ちが整うまで待ってくれていた。
(よし、大丈夫)
ヴィアは騎士達に視線を向け、扉を開けるよう促した。後ろにいるクロエの方へ振り向き、いってくるねと笑顔で告げると、クロエも頭を下げていってらっしゃいませと返してくれた。
謁見の間に入るとヴィアが最後のようで、必要な人員は揃っていた。本来ならもっと多くの貴族達が居るが、最小限の人数で行う。
部屋の奥、少し段差がついた中央に玉座があり、そこに国王が座っていた。国王から向かって右側に宰相、騎士団長、副騎士団長、騎士が立っている。左側には第一王子と第二王子が居た。この二人は見届け人の意味合いであることはヴィアにも分かった。
その中に王妃であるイルマが居ない理由も直ぐに理解した。イルマには知らせていないのだと。先に話を通せばヴィアに専属護衛をつけることに反対するのが目に見えているからだ。それなら事後報告で済ませればいいと。
自分の妻なのに冷めたところがあるな、と国王を一瞥しておく。
ずっと扉の前で立っている訳にもいかず、参列している皆の前まで進む。
立ち止まると同時に副騎士団長と騎士が歩み出る。副騎士団長は持っていた儀式用の剣をヴィアへと差し出すと、元の位置へと戻っていく。騎士はヴィアと対面する場所へと移動すると、片膝をついて跪く。ヴィアは剣を持ち上げ、目の前で跪く騎士の両肩を剣で軽く触れる。たったこれだけ。これで騎士はヴィアの専属護衛となった。
宰相が騎士の名前を呼び、専属護衛としたことを記録するかの言葉を告げる。
ヴィアは未だ跪いている騎士の目線と同じになるようにしゃがむ。
「ルカ、これからよろしくね」
宰相が告げた騎士の名を呼び、笑顔を向ける。ルカと呼ばれた騎士は一拍おいてから、こちらこそ宜しくお願い致しますと、畏って頭を下げていた。
「さて、ヴィアよ。お前にも専属護衛が付いたが、今までと同じよう過ごしては騎士を守ることはできんぞ」
ちょっと和ませようとした空気を壊すような言葉が国王から発せられる。
ヴィアは騎士に立つよう促してから国王の方へと向く。
「分かっています。私が変わらなければルカを専属にした意味がありません」
そもそもルカを専属にする話となったのは、階段から落ちた抱きとめた際、王女を傷付けたとして謹慎しているというルカへの不名誉な噂が流れたからだ。その噂が流れる要因となったのがヴィアの行動そのものであった。なので、以前と同じことをしようものなら、ルカの名誉は回復されない。それはヴィアも理解していた。
宰相達を見るとヴィアの言葉に驚きながらも、どこか心配そうな顔をしていた。
兄である王子達を見ると、第一王子のグレンは表情を一切変えず話を聞いていた。ヴィアの専属が付く理由を誰かから話を聞いていたのか驚いている様子は全くなかった。第二王子のフィリップは逆に何も聞いていなかったからか驚いていた。それが話の内容なのか、ヴィアの様子が今までと違うからかは分からないが。
ヴィアはもう一度全員の顔を見回す。そして、ドレスの裾を軽く持ち上げて軽く頭を下げる。
「これから皆様には私の今後を見届けて頂きたいと思います。そして、そのために私は宣言致します」
そこで区切るように頭を上げて微笑む。
全員の顔が訝しんでいるのが分かる。さっきまで表情を変えなかったグレンまでもが。それが少し面白かった。
「宣言とは何だ」
国王が急かすように告げる。
「私、ブラコンから卒業します‼︎」
ブラコンでいることは、今後の『ヴィア』としての行く末を左右することになる。それに、前世はブラコンではないのだから、これから過ごしていく内に急にフィリップから離れるよりは、こうして宣言しておけば変に思われたりしない。
そんなことを頭の中で計算していたが、皆の反応が無いことに不思議に思った。
全員の顔を見回すと、何言ってんだコイツ、みたいな顔をしてヴィアを見ていた。