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37.



 グレンに全てを打ち明けた後、彼はすぐさま詳細は伝えずノエにミモザについて調べさせた。

 半日経ってグレンに呼ばれ、彼の部屋に入るとソファに座るグレンの前の机には資料が置いてあった。たった半日でもう調べたのかと、ノエの能力の高さに感服した。

 ヴィアはグレンの横に座り、資料を手に取って読み始める。

 ミモザは現伯爵と元メイドとの間に出来た子供で、昨年、バード家に母子共に引き取られ養子となった。バード伯爵夫人は健在なのに母親と共にというところに伯爵の意図が分からず不快に感じる。それ以外は乙女ゲームの設定と同じようだった。

 あとは、ミモザの性格というか、彼女自身がヴィアと同じ転生者かどうかだ。

 もし、転生者でフィリップ狙いだったら接触してくる可能性がある。そうなると自分の行動一つ間違えばバッドエンドになってしまうかもしれない。

 ここまで考えて眉間に皺が寄り、資料を握る手に力が入る。

 フッと資料が手から離れていく。顔を上げるとグレンが資料を机に戻していた。そしてヴィアの方を見て微笑む。


「大丈夫だ、ヴィア」


 グッと肩を抱き寄せられたヴィアはグレンに寄りかかる態勢になる。


「俺がいる」


 突然のことに焦ったヴィアだったが、続いたグレンの言葉にはっとグレンの方を見た。が、すぐに俯く。

 前世を含めてこんなに異性と至近距離で居たことはない。それにグレンが自分を見る目が優しくて何故か顔が赤くなっていく。


(あぁ、もう単純な自分に腹立つ)


 ヴィアは自分の気持ちに気付きつつも今はその時ではないと理解している。が、今はこの温もりに甘えるため、グレンの肩に寄りかかる。

 暫くこのままで居たいと思っていたが、コホンと咳払いが聞こえて顔を上げると、ノエが遠い目をして天井を見ていた。完全に忘れていた。

 バッと、ヴィアはグレンから離れソファから立ち上がると、「ごめん、ノエー」と叫びながら部屋から出て行った。

 ヴィアがバタバタと音を立てて出て行った後、静かになった部屋にクスクスと笑い声が響く。


「せっかくヴィアが甘えてくれたのに、邪魔するなんて野暮だぞ」


「私だって邪魔したくなかったです。ヴィア様は良いとして、グレン様は分かってやっていたのでタチが悪いですよ」


 ジロリと睨みながらノエは主に苦言を呈するが、その苦言は一切グレンには響いていなかった。




◇◇◇◇◇◇◇◇




 四月になり、ヴィアは三年生となった。

 乙女ゲームのシナリオがこれから始まっていく。

 これから起こることへの不安はあるが、以前よりかは少ない。グレンに全て話したことで気持ちが少し楽になったからだろう。

 それにあまり気にしすぎると態度に出たりして、周囲に変に思われるかもしれない。普段通りに生活していこうと、心掛けて午前の授業を終える。

 食堂でいつものように四人で昼食をとっていると、入り口付近が騒ついた。

 何事かと全員が視線を向けると、フィリップがいつものメンバーと食堂に入ってきた。ただ、その中に見たことのない女子生徒がいた。

 ヴィアは確信した。

 あの女子生徒がミモザだと。

 食堂にいる生徒達の視線を独り占めしていることに気付かないのか、ミモザはフィリップ達と笑顔で話していた。


「あの人誰なんでしょう?」


「いつも四人なのに、初めて見ますよね」


 ジゼルとララも気になっているようだ。

 二人の言葉を聞いてシルビアも会話に加わる。


「彼女は今日から編入してきたのよ。バード伯爵家の令嬢よ」


「あれ?バード伯爵家はご子息だけですよね」


「養子らしいわ。詳しくは私も聞いていないの」


 肩を竦めてシルビアは答える。パトリックから養子については聞いていても、まだ婚約者のシルビアには詳細は伝わっていないようだ。

 ヴィアは三人の会話を聞くだけで話には加わらず、食事を続ける。が、フッと手元に影が落ちたのに気付きヴィアは顔をあげる。

 そこにはフィリップとミモザが立っていた。

 ヴィアは一瞬顔を強張らせるが、すぐに何もなかったように表情をつくる。


「どうかしましたか、お兄様」


「いや、彼女は今日編入してきたんだが、ヴィアに挨拶したいんだと…」


 フィリップは言いながらも視線を彷徨わせてまごついていた。そんな彼の様子を知らずにミモザは机に手を置いてヴィアを覗きこむ。


「はじめまして、ミモザ・バードです!属性別授業で一緒になると思うから仲良くしてね。ヴィアちゃん」


 『ちゃん』

 その言葉を聞いた瞬間、ヴィア達は固まり、周囲にいた生徒達が息を呑む。そして、ヒソヒソと何かを話し始める。

 ミモザの横にいるフィリップ、後方にいる三人は若干引いている。特にネイサンは青褪めていた。

 周囲の反応を他所に、言った本人は特に気にしていないようだ。

 その空気を壊すように、ジゼルが机を叩いて立ち上がる。その表情は怒りに満ちていた。


「ちょっと、ヴィア様は王女ですよ!『ちゃん』なんて呼び方失礼過ぎます。敬称つけるべきです」


 真っ当な意見に食堂中の生徒が頷いてるのが分かる。

 だが、ミモザには響いていない。


「えっ?でも、ここは学院でしょ。それに私は上級生だから……ダメなの?フィリップ」


 よく分からない理論を述べるミモザは横にいるフィリップに確認するが、また食堂中が騒つく。


「学院だとしても最低限の礼儀は必要ですよ」


 シルビアは怒気を含んだ声色で吐き捨てる。が、相変わらずミモザには響いていない。


「でも、フィリップは良いって言ったよ」


「それは殿下が許可されたからでしょう。まぁ、いくら許可があっても呼びすてするなど有り得ません。バード家は一体どういう教育をしているのでしょうか」


 シルビアはそう言ってネイサンを睨みつける。

 青褪めたままのネイサンはただ俯くしか出来なかった。

 今まで様子を見ていたヴィアは、このままでは収拾がつかないと判断し、ヴィアはミモザに対してハッキリ自分の気持ちを告げることにした。


「バード伯爵令嬢」


 ヴィアの呼び方にミモザは頬を膨らまして不貞腐れていた。


「ミモザでいいのに」


「いえ、バード伯爵令嬢。申し訳ないですが、私は貴方と今日初めてお会いしました。入学してからずっと一緒にいる友人達は敬称をつけて呼んでくれています。なので、学院ですが、貴方にも最低限の礼儀として、私を呼ぶときは敬称をつけて呼んでいただきたいです。それと、このことは伯爵家にも話は通させてもらいます」


 ヴィアの言葉にミモザは納得も理解もしていなさそうだった。

 ネイサンはずっと青褪めたままで、体は震えていた。コンラッドとライオネルは事体をちゃんと理解しているからか、終始無言だった。

 ヴィアはもう言うことはないため、その後五人には目もくれず、その場をあとにする。ジゼルとララもヴィアに続く。シルビアだけはネイサンの元に行き、何かを告げると、すぐにヴィア達に合流する。

 ヴィアがシルビアの方を見ると、にっこりと笑顔を向けられる。

 バード家に嫁ぐシルビアとしては思うことはあるだろうが、そこに深く入り込むのは干渉にあたると判断してヴィアも笑顔を返すだけにする。

 ヴィアは教室に戻る途中で、魔法で手紙を創り飛ばす。この作業ももう何回目になるのか、と考えてしまった。


「穏やかな学院生活はもう無さそうだなぁ」


 飛んでいった手紙を見つめながらヴィアは誰にも聞こえないように呟いた。

 




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