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35.



 半年程経ったリュシエール王国ではシーグラスが流行り、特に若い女性がインテリアとして買い求めた。

 アクセサリーにするにはシーグラスは大きいため、売れ行きは伸び悩んでいるとジゼルとララの二人は嘆いていた。

 

「うーん、アクセサリーとして売るための案をもう少し精査しないといけないわね」


「でも、まだ販売して一ヶ月過ぎたくらいだから、まだ様子見でもいいんじゃない?」


 学院の共有棟の談話室で四人で話していると、ジゼルとララが今後の販売について議論し始めた。

 インテリアとして売れているからシーグラスの販売はそちらをメインとしても問題はないが、ヴィアとドロテアがくれた折角のチャンスを無駄にしたくないと息巻いている。

 

「二人とも落ち着いて。シーグラスは既に国内で流行したでしょ。アクセサリーについてもその内売れてくるようになるから。それよりもこれを受け取ってほしいの」


 ヴィアは用意していた袋を三人にそれぞれ渡し、中を見るよう促す。

 三人はキョトンとしながらも袋の中を見る。中には二種類の小さなシーグラスとイミテーションパールを革紐と組み合わせたブレスレットが入っていた。


「ヴィア様、これって…」


「公国の職人にお願いしてたのがやっと届いたの。色は違うけど全部同じデザインなの。よかったらもらって」


 ヴィアはそう言って自分の右手首を見せる。そこには三人と同じデザインのブレスレットがあった。

 ヴィアのシーグラスはオレンジと黒、シルビアは白と緑、ジゼルは青と水色、ララは茶色と赤。

 

「本当は皆同じでもいいかなぁと思ったけど、色がたくさんあったみたいだから使ってみたの。色は勝手に決めちゃってゴメンね」


「そんなことないです!!嬉しいです。ありがとうございます」


「アクセサリーに関しては既製品よりも、客の好みに合わせて組み合わせ出来るようにしてもいいかもしれないわね」


 人によって好きなものは違う。同じ物でも買い求める人に対して合わせた物がより売れる可能性はある。

 ヴィアの提案により、店内でシーグラスとアクセサリー用のパーツをバラ売りすることが決まった。


「ていうか、俺の分のブレスレットは?」


 実は最初から居たドロテアがやっと口を開いた。だが、ヴィアがドロテアの質問に答えることはなかった。

 ドロテアもそれ以上は聞かなかった。


「そういえば、公子は今回の件で褒美とかあったんですか?」


 何気なく聞いたジゼルの質問は良いところをついていた。

 

「あぁ、うちの貴族が俺の後見となってくれたな」


 ジゼルとララもドロテアの公国での難しい立場を理解している。だからこそ、今回の件に協力的だった。

 

「レイノソ家でしたか?あそこは公国で最も古い家ですよね。それに当主のベニートは公王と友人でもあるって聞いたことあります」


「あぁ、しかしよく知ってるなー」


 公国はリュシエール王国にとっては友好国のため、小さい頃に公国について学ぶ機会があったからだ。

 レイノソ家については情報があったからだとしか言えないが。


「そういえば、もうグレンに渡したのか?」


 ドロテアは何気なく口にしただけだが、ヴィアはその言葉に固まってしまった。

 女子三人は何のことか分からないので、二人を交互に見た後で会話には参加せずに静かに見守っていた。


「…何で?」


「あぁ、知ってるかか?職人と話してんの聞こえたから」


 サラッと答えるドロテアに悪気は一切ない。ただ、事実を述べ興味があるだけのようだった。

 ヴィアは両手で顔を覆ってため息をつくと観念したのか小声で答え始める。


「誕生日に渡す予定なの…てか、何で聞いてるのよ……もう最悪…」


 誰にも知られていないと思っていたのに、ドロテアに聞かれていたことが分かったヴィアは、ドロテアに対して答えながらも最後の方は独り言で愚痴を溢していた。


「どんなものを渡す予定なんですか?」


 二人の会話には参加せずにいたジゼルだが、興味はあるらしくついに口を挟んだ。

 ヴィアは未だ顔を隠したままだが、ジゼルの質問にはちゃんと細かく答えていた。


「ペンダントなんだけど、紐は丈夫な革紐で、トップのシーグラスは紫色で長方形にしてもらったの」


 華美な物をグレンは好まない。実際、グレンの部屋はシンプルな物が多かった。ただ、それを今言うと話が外れていきそうなのでやめた。

 元々、リュシエール王国には結婚や交際を申し込む時に自身の瞳と同じ色の物とアメジストを贈るという風習がある。だが、アメジストは市民には手軽に買えるものではないので、紫のシーグラスが代わりになればと思っていた。

 ヴィアの話を聞いたジゼルは興奮していた。ついにはまだ予測がつかないのに、紫のシーグラスの発注数をララと確認していた。


「えっと、二人ともまだ分かんないのにいいの?まずはアクセサリー用のシーグラスだけでもいいと思うけど」


「大丈夫です!これは絶対必要になります」


「ジゼルの言うとおりです!アメジストは小さくても高価なので、親からお金を貯めるまで結婚を延したって聞いたことあります。だったらすぐに手が出せるシーグラスは市民には有り難いはずです」


「それに、ヴィア様がグレン様に贈ったということだけでも話題になりますから必要になります!」


 二人の熱量にヴィアは押されてそれ以上は何も言えなかった。



 実際、二人の予想は当たっていた。

 ヴィアがグレンの誕生日に紫のシーグラスを贈ったことを知った、市民は次々と紫のシーグラスを買い求めて、ヴィアの様に意中の人に贈るようになるのはもう少し後のことだ。



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