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34.



 公邸から馬車で移動すること約二時間、待ち望んでいた海が見えてきた。


「わーキレイ!海ひろーい」


 ヴィアは馬車の小窓から顔を出して海を見る。そんなヴィアをクロエが嗜めると、ヴィアはすぐに座り直して海を眺める。


「王国にはないからはしゃぐのも仕方ないな」


 グレンは海を見てはしゃぐヴィアの姿がツボに入ったのか、手で口元を隠しているが笑っているのは誰が見ても一目瞭然だった。

 ヴィアは馬鹿にされたと思い頬を膨らませて、グレンの方をジッと見る。その視線に耐えられなくなったのか、グレンは小窓を開けて海の方を見る。二人の様子にノエとクロエは傍観者と化していた。

 風によって運ばれる潮の匂いが馬車を満たす。

 ヴィアは今世では初めて嗅ぐこの匂いを鼻だけでなく体内にまで満たしていく。


(懐かしいなー)


 前世では何回も海に行っていたので、潮の匂いを覚えていたと思っていたが、実際に嗅ぐ匂いと記憶のものでは少し違っていた。

 他の三人も静かに潮風を感じていた。



 砂浜に近い道に馬車を停め、一行は馬車から降り集まると順に歩き出す。

 砂浜まではすこし距離があるが、今日のヴィアは動きやすいようにとひざ丈のスカートとショートブーツという軽装をしているため苦にはならない。横にいるグレンも白のチュニックと黒のパンツの軽装をしている。

 砂浜に足を踏み入れ、久しぶりの砂の感触を確かめるように歩く。

 前世ではビーチサンダルや裸足で歩くのがほとんどだったため、ブーツでは歩いたことが無かった。低めのヒールが砂に動きを奪われるが、なんとか波打ち際までたどり着く。

 しゃがんで海水に触れ、その冷たさに驚く。


「もう海は泳ぐ時期ではないようですね」


「よくお分かりになりました。我が国では四月から七月までが遊泳できる期間なのです」


 ヴィアの言葉に答えたのは、べニート・レイノソ。公国の五家ある貴族の一家、レイノソ家の当主だ。

 昨日のパーティーでヴィアの噂をしている輪の中にはいたが、彼はただ聞いているだけだったのを覚えている。

 印象については最悪ではないため、彼に説明を聞きながら砂浜を歩く。

 砂浜を歩いていると、貝殻や流木などがところどころに見える。そんなところが日本と同じだと、ふと思った。

 足元を見ながら歩くとキラリと光るものがあった。ヴィアはそれを拾うと近くを探す。

 目当てのものは数個見つかった。


「それが欲しかったのか?」


 肩越しに問いかけてくるグレンに頷いて返す。

 不思議がる面々にヴィアは説明する。


「我が国、リュシエール王国では広く宝石が流通しております。宝石は煌びやかで貴族だけでなく市民にも人気はありますし、他国にも広く輸出しております。ただ、今後流通量が増えると宝石の市場価値が下がる可能性があること、そして宝石の産出量が減ることを危惧しております。だからその代わりになるものが欲しかったのです」


 ヴィアはそういって手に持っていた物の砂を海水で流して、ハンカチで水気を拭き取り全員に見せる。

 ヴィアの説明に理解する者もいるが、これが宝石の代わりになるのかと懐疑する者が多かった。


「これはシーグラスと言います。学院の友達から教えてもらいました。これなら安価で市民でも簡単に手にすることができると思います」


 ジゼルが親の商会の手伝いで他国に行った時に見つけたと話してくれた。その話を聞いてからずっと考えていた。

 前世でもシーグラスは流行った。これが今世でも流行る可能性はある。いや、流行らしてみせる。


 グレンはヴィアの手のひらからシーグラスを一つ取るとまじまじと見る。


「ガラスよりも透明度が低いし綺麗とは言えないが、これがヴィアの欲しかったものなのか」


「確かにガラスと比べたら物足りないかもしれないですけど、インテリアやアクセサリーに使えますよ」


 あまり納得していないグレンにシーグラスの活用法を教える。

 同行しているガラス職人に浅めの器がないか確認すると、工房にあるとのことなので、この後取りに行くことになった。

 念の為、べニートにシーグラスを持って帰ってもいいか確認すると、あっさりと許可が出た。

 ドロテアには事前に話しをしていたので、特に何も言わず職人と話しをしてくれていた。ヴィアもその中に加わり今後について話していく。

 シーグラスは自然にできるまでかなりの時間を有し、数が少ないため海と湖の両面で試験的に生産できないか話し合う。公国には四つの湖があり、小さい湖が一つあるので、そこで試してみることになった。

 ガラスと砂を木枠に網を貼った箱の中に入れて、どこにも流されないよう錘などもつけたりすることなど、話しがドンドン決まっていく。

 また、人工的にシーグラスを作ってみることにもなり、これはクラフトグラスとして販売することも決定した。


「生産が整った後の取引先は言っていたところか」


「はい、フロベール商会を通してください」


 フロベール商会はジゼルの実家の商会だ。シーグラスを教えてくれた彼女の実家である商会にはすでに話しは通してある。

 商会長はあまり乗り気ではなかったが、ジゼルに色々と押されて渋々だが承諾していた。父親が首を縦に振った瞬間からジゼルは販売するための策を考えていて、ララの実家の雑貨店にも協力を申し出ていた。

 ドロテアにその話しをしたらどこが面白かったのかずっと笑っていた。そんなとこまで思い出してしまった。

 話もついたことで、ヴィアは再度海の方へ行きながら貝殻を拾ったりする。


「せっかく海に来たから足くらいはつけていいですよね」


「それはまた今度にしよう」


 グレンから速攻で拒否されて、しょんぼりとするヴィアだが、後方にいるクロエから無言の圧力を感じて大人しく引き下がることにした。



シーグラスについての知識はそこまで詳しくないので、優しい目で見ていただけると有難いです(;´Д`A

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