33.
公国に着いた翌日、用意された部屋でヴィアはビビアナの誕生日パーティーに出席するため準備をしていた。
今日のヴィアの装いは白のサテンドレスの上に、腰にある大きなリボンが特徴の紺のオーバードレスを重ねたものだ。
準備が終わったタイミングで、扉がノックされる。すぐにクロエが扉に向かい、グレンが部屋に入ってくる。
「準備はできたか?」
問われたヴィアは自身の姿をグレンに見せて返事をする。そんなヴィアの姿にグレンは自然と笑みがこぼれる。
微笑むだけで何も言わないグレンにヴィアは不安になり、自分の姿を確認する。
「よく似合ってる」
不意打ちのように言ったグレンはヴィアから顔を背けていた。照れているようだ。
なんだかんだ言ってもグレンはまだ十六歳だ。彼自身も妹だった女の子が婚約者となったが、これまで女子との関わりをもたなかったグレンもこういう経験はない。
グレンの初めて見る表情にヴィアも黙る。
部屋には沈黙が流れる。
ホールへ行くとすでに多くの人が集まっていた。
他国の王侯貴族や商人、公国の貴族五家も全員参加している。それほど公国にとってこのパーティーが重要だというのだろう。
ヴィアが入った瞬間、貴族の目が向けられたのは分かった。
ドロテアとのことを知っているからだ。
傷物にされたと噂されるヴィアを好奇と不躾な視線が注がれる。
ヴィアはそんな視線を気にすることなく、凛としてグレンと共にホール内で挨拶していく。
「よぉ、元気か」
「元気かって、一緒に公国まで来たじゃないですか」
ドロテアの言葉に呆れてヴィアは返す。
噂の二人が揃ったことで会場内はざわつく。しかし、周りの喧騒をよそに当の本人たちは淡々と話しをしていた。
話しをし始めてしばらくすると、ドロテアの後方からビビアナが公王と共に姿を現した。二人はゆっくりとヴィアたちの元へ向かってくる。
公王が近くにきたことで、グレンとヴィアは礼をとる。
公王はグレンとヴィアを交互に見ると、ヴィアの方を向き、口を開く。
「君が王女か。その節はすまなかった」
「勿体ないお言葉です」
公王がヴィアに対して謝罪の言葉を口にしたことでホール内が一瞬ざわついたがすぐに静かになり、全員がことの成り行きを見守った。
その後、グレンとヴィアは公王と数回言葉を交わし、公王は貴族たちとホールの中央へと向かった。
ビビアナを含めた四人で談笑していると、曲調が変わり円舞曲が流れ始める。
ドロテアとビビアナ、グレンとヴィアに分かれて踊り始める。優しくリードしてくれるグレンのおかげでヴィアは安心して踊ることができた。ただ、時々目が合うのがなぜか気恥ずかしかった。
一曲目が終わるとグレンはビビアナと、ヴィアもドロテアと踊り始める。グレンと違って力強いリードで、話しながら踊っていた。ダンスを楽しむというより、楽しく踊るのが彼なりのダンスなのかもしれない。
ドロテアと踊り終わった後、全てのダンスの誘いを断りヴィアは壁の花となった。
ホール中央ではまだダンスを楽しんでいる人たちがいてヴィアはそれを眺めていた。
その輪から離れたところで、公王とドロテアが話をしていた。何を話しているかは分からないが、ドロテアの表情を見る限り真剣な話しであることだけは分かる。
未だくるダンスの誘いを断り続け壁の花となっているヴィアの元へグレンとドロテアがやって来る。
「明日、海へ行く時は彼も一緒に向かうことになった。何か必要なものはあるか」
「地図と職人も一緒に同行してもらえるか確認してもらっていいですか?」
ドロテアは頷き、近くにいた人に小声で話しをしている。彼が職人が同行できるかの確認をしてくれるようだ。
「そろそろ何を考えているか教えてもらってもいいか?」
「まだ、確証もないからダメでーす」
ヴィアは両の人差し指で口元にバツをつけて、イタズラっ娘のような笑みで答えた。
グレンはその答えに肩をすくめ、今日はこれ以上何も聞かないと決めて、パーティーを楽しむことにした。