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3.

 


 長い長い廊下を走る。ある部屋だけを目指して。途中、全力疾走するヴィアを見た者は目をこれでもかと開けて惚けていた。また、ある者はついにおかしくなったかという顔をしていた。

 別にそれでもいいとヴィアは思う。自分の体裁よりもっと大切なものがある。以前の『ヴィア』なら考えなかった事だ。

 漸く目当ての部屋の前に来ると、走ってきた勢いのまま扉を思いっきり開ける。扉の前に居た騎士が止める間もないままに。


 「お父様、お願いがあります。私を助けてくださった騎士の謹慎を解いてください」


 勢いよく開かれた扉の先には、執務机の書類について宰相と話しをしている国王がこちらを驚きの表情で見ていた。

 階段から落ちて眠っている王女が、急に執務室の扉を勢いよく開けて来るなど誰も予想しないだろう。

 扉の前に居た騎士も驚きと困惑の表情でヴィアを見ていた。


 「私を助けてくださった騎士の方が謹慎されていると聞きました。彼の謹慎を解いて頂きたい。代わりに私が謹慎いたします」


 ヴィアはもう一度自分が急いでここに来た理由となるお願いを口にする。

 普段とは違う落ち着いたヴィアの様子と話す内容に国王と宰相は顔を見合わせていたが、国王は騎士達に扉を閉めるよう促し、ヴィアの方を見る。


 「何故、騎士の謹慎をお前が気にする」


 「彼は私を助けてくださいました。私が階段から落ちた時、私を助けるべく動いてくれたのは彼だけです。彼が居たからこそ私はタンコブだけで済んだのです。言わば彼は私の恩人です。その彼が不名誉なことになっているのが嫌だからです」


 「タンコブでもお前の体に傷がついたのだぞ」


 「タンコブなら二、三日で引きます。しかし、死んでいたらそれで終わりです」

 

 国王のジッと鋭い眼光がヴィアを捉える。その眼光の鋭さに怖気付くのを我慢して、冷静に見つめ返す。

 宰相は二人のやりとりを聞いてはいるが、関わる気はないという態度を示していた。

 ヴィアの様子から本気度を見たのか、国王は宰相の方へ向く。


 「どこから謹慎という話が出た」


 「おそらく騎士団内部かと」


 二人のやりとりに疑問を持ったヴィアは首を傾ける。ヴィアの様子から騎士が本当に謹慎していると思いこんでいるのだと二人は理解する。


 「お前を助けた騎士は謹慎しておらん。念のため療養するよう伝えたはずだ」


 国王の言葉にヴィアは顔を青くさせ、先程の冷静さと打って変わって焦り出した。


 「療養って…私を助けた時に体を痛めたってことですか」


 「念のためと言ったはずだ。騎士と医師からは問題は無いと聞いておる」


 問題無い、そう聞いた瞬間ヴィアは安堵した。有望な騎士を怪我させたなんて、とんでもないことだ。

 それよりも問題なのは、私を助けた騎士が療養ではなく謹慎していると城内ではなっていることだ。誰かが意図的に嘘を流していることになる。

宰相は騎士団内部と言っていたことから、騎士の同僚か上司が犯人だろうと考える。自分よりも優れた人を蹴落としたいのは分かるが、これは流石に良くない。

 チラリと国王と宰相を見ると、彼等も同じ事を考えているのか表情が曇っていた。


 「お父様、謹慎が私の聞き間違いなら別のお願いがあります。それを叶えて頂けますか」


 ヴィアはにっこりと笑う。このお願いはノーとは言われないであろう。

 国王からは早く言えという視線が送られる。宰相も気になるのか視線を向けてくる。


 「私は専属の護衛がいません。騎士を一人専属にしたいです」


 ここまで言えば分かるだろうと、あえて先は続けなかった。

 二人は少し驚くと理解したのか表情から曇りは消えていた。


 「確か第一王子は五人、第二王子には十人の専属がいましたね。それを考えると第一王女のヴィア様に専属がいないのはおかしいですね」


 「専属が一人なのも少ないが、それはこれから増やしていけば良い」


 専属護衛とは王族を常に護衛するというそのままのものだが、優秀であれば誰でもなれるものでもない。王族からの信頼がなければ専属にはなれない。自分の命を守るために必要なものは、その王族によって違う。第一王子の専属は優秀さと騎士としての誇り、そして第一王子を敬愛している騎士が選ばれている。第二王子の専属については王妃の実家と親しい貴族達の者が多く、実力は優秀とは言い難い。そこにこれから登場する乙女ゲームのキャラも加わってくるだろう。

 ヴィアには第一王子の様に騎士達の中に親しいものも居なければ、第二王子のようなコネもない。なので、今まで専属が居なかった。

 今回の事でヴィアは優秀な専属を手に入れた。そして、騎士を蹴落とそうとした者に牽制も忘れない。彼を侮辱することは主であるヴィアを侮辱することになるのだから。

 

 「出来れば、彼への内示は私が倒れた日にして頂けますか。事故の後、お父様は彼へ専属の話をして、私が目覚めるまでは休みを与えたという事にして頂きたいのですが」


 「それは構わん。ヴィアの体調が問題なければ直ぐに場を整えてやるから暫し待て」


 「ここで今すぐしてはダメなのですか」


 そんな堅苦しい場は要らないから、直ぐに済ませたいと思っていたが、ヴィアの発言に国王と宰相は顔を見合わせるとため息をついた。

 二人の様子にヴィアはまたも首を傾ける。


 「ヴィア様、騎士団長と騎士を呼んで準備もしなければなりません。それに……ヴィア様も服等の準備が必要かと思います」


 服、準備、という単語が頭の中を巡る。そしてハッとした。今の自分の服装に。寝巻きのまま全力疾走して、ここに来た事を思い出した。顔が羞恥心で赤くなっていく。イルマに叩かれた時よりも頬が赤くなっていくのが分かる。


(やっちゃった〜)


 どうしようかとワタワタし出すヴィアに、国王が落ち着くよう言う。


 「お前の侍女が先程から外に居る。部屋には戻らず、隣の部屋で準備すると良い。服等のものは他の者に取りに行かせれば良い」


 国王の言葉に素直に従う。クロエが一度執務室の中に入ってくる。手には羽織れるものを持ってきていた。それを羽織ってからクロエと共に執務室を出て、隣の部屋へと移る。

 これからの事を説明すると直ぐに準備に取り掛かってくれた。

 他の侍女と共にクロエもヴィアの部屋へと向かい必要な物を取って戻ってきた。侍女達は張り切って準備してくれたが、その間もヴィアは寝巻きのままで色々してしまった事を反省していた。


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