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25.



 四月となり、ヴィアは二年生となった。

 魔法学院はクラス替えがないので、シルビア達とまた同じクラスでヴィアはほっとした。

 問題があるとするならば、ヴィアが寮や学院内で歩いていると、一年生がチラチラと見ていることだ。去年の入学時のことを思い出す。珍獣扱いされることについては、毎年のことだと諦めるしかないことをヴィアは悟った。

 それでも平和な学院生活が送れると期待していたが、それはすぐさま打ち砕かれることになる。



 ある日、食堂で昼食をシルビアとジゼル、ララと会話しながらとっていると、急に入り口の方がざわついた。

 何事かと、四人は入り口の方を見ると、ある集団がそこにいた。

 フィリップとコンラッド、ネイサン、ライオネルの乙女ゲームの攻略キャラ達ともう一人、いるはずのない人物がそこにいた。

 ドロテアだ。

 ヴィアはすぐさま入り口の集団から視線を外し、バッと隠れる。

 ジゼルとララは未だ入り口前にいる集団を見てキャッキャっと興奮しながら話をしている。

 シルビアがこっそりヴィアに話しかける。


「ドロテア公子が学院に留学されているのご存知でしたか?」


 ヴィアはぶんぶんと頭を横に振る。

 シルビアも納得したのか、チラリと入り口の集団を見る。

 ヴィアはドロテアを苦手としていた。

 グレンの誕生日の宴でヴィアはドロテアと踊ることがあった。その時、ヴィアはシルビアと話をしていたが、無理矢理踊る人達の輪の中に連れて行かれてだが。

 ドロテアと初めて会った時の人をおもちゃとして見る目や態度、有無を言わせない性格など、苦手なところを挙げたらキリがない。

 いつから留学の話が出ていたか知らないが、ヴィアは関わらないことに決める。関わるとロクなことがない。

 ヴィアは昼食が途中だったことを思い出し、食事を再開しようかと体勢を戻す。

 フッと影になり、横に誰か来たのかと思い顔をあげると、ドロテアが立っていた。

 ヴィアは驚いて固まる。

 そんなヴィアの様子を見て、ドロテアは白い歯をのぞかせるほどいい笑顔をする。

 周囲のざわつきが大きくなり、ヴィア達の方に視線が集まる。

 シルビアが心配そうにヴィアを見る。ジゼルとララはドロテアを始めフィリップ達に目を輝かせている。

 現状を把握しようとするヴィアは、平穏な学院生活が不穏になる気配を察して、頭を抱える。そんなヴィアを横目にドロテアは終始ニヤニヤしていた。




 それからというもの、ヴィアは学院内や寮でドロテアと会うたび絡まれていた。

 最初は他国の公子なので無難に対応していたヴィアだったが、段々回数を重ねるごとに雑に対応するようになった。

 そんな学院生活を送っていたヴィアのストレスは日々蓄積されていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「はぁー」


 ヴィアがベッドへと倒れ込む。すかさず、クロエからはしたないですよとの小言がとぶ。

 昨夜、フィリップの誕生日を祝う宴があったため、王城に戻っていた。ヴィアは学院が休みの今日、騎士団訓練場へ赴いた。

 久しぶりに騎士団で訓練をして疲れたのもあるが、ここ数ヶ月での学院生活のストレスが溜まっていることも関係していた。

 ドロテアは昨日の宴に出席していないので、今日明日は会うことはないのがせめてもの救いだった。

 クロエから再度注意を受けたので、ヴィアは体勢を変え、ベッドに腰かける。


「陛下とのお約束まで時間がありますが、どうされますか?」


 クロエに言われて、ヴィアはハッとする。

 騎士団での訓練を終えて疲れたので、今日はこのまま休もうと考えていたが、大事な用があったのを忘れていた。

 朝食終わりに国王から午後のティータイムに執務室に来るようにと、連絡が来ていた。

 思い出したことで、ヴィアは悩む。クロエの言うように午後のティータイムまで、まだ時間はある。一眠りしてしまうか、本でも読むか。疲れているので、一眠りすることにした。

 クロエに起こされると、軽く身支度を整えてヴィアは自室を後にする。

 一眠りしたおかげか、さっきまでの疲れは無くなっていた。

 執務室の前に着くと、護衛騎士が中に伺いを立てる。少し間が空いてから騎士が扉を開ける。

 執務室の中には国王だけでなくグレンも居た。

 

「ヴィア様、こちらへどうぞ」


 ヴィアはどこに居たのか、スッと出てきたセバスに促されるまま応接用の椅子に座る。

 区切りがついたのか、国王とグレンも執務机からヴィアの前の椅子に移動する。

 三人の前にティーカップが置かれる。国王が先に口をつけてからグレンとヴィアもカップに手を伸ばす。

 一息ついたとこで国王はヴィアをジッと見てから、グレンに視線を向ける。グレンは国王の意図を理解しているのか、こくんと頷きヴィアの方を向く。


「ヴィア、お前に婚約の話が来ている」


 グレンの一言でヴィアは固まる。ガチャンと大きな音がして、ヴィアは我にかえる。手に持っていたカップを落としてしまっていた。

 すぐさまセバスが手早くカップを片付ける。

 ヴィアはすみませんと小さく謝罪する。


「驚くのも無理はない」


 国王が一言そう言うと、ヴィアはフッと心が軽くなる。


「婚約はアルバ公国のドロテア公子からだ。ヴィアはどうしたい?」


 グレンが追い討ちをかけるように言葉を続ける。

 ヴィアの意思を聞いてくるあたり、国王とグレンはこの婚約話に乗り気ではなさそうだと感じる。

 それならヴィアの取る道は一つしかない。


「私はドロテア公子と婚約したくありません!」


 ヴィアはハッキリと言いきる。

 国王とグレンはヴィアをジッと見つめると、ホッとしたような表情を浮かべる。

 ヴィアはその表情の理由が分からず首を傾ける。


「フィリップから学院での話を聞いている。ドロテア公子が純粋にヴィアに好意を持っているか分からないが、ヴィアの意思を尊重すると父上と決めた。ヴィアが婚約したくないなら、アルバ公国にその旨を伝える」


「だが、婚約を断るとなるとそれなりの理由がいる。それはどう説明する」


 国王の言うことはもっともだとヴィアも思う。

 ドロテアのことが苦手だからという理由ではアルバ公国もドロテア自身も納得しない。

 ヴィアはどう断るかと考えている。

 目の前にいる国王とグレンはヴィアの答えを待ってはいるが、二人の間では答えが出ていた。


「ヴィア、お前は自身のことをちゃんと理解しているか?」


「どういうことですか?」


 グレンの言葉の意味が分からず、ヴィアは聞き返す。


「自分の容姿がこの国にとってどれだけ重要だと思う。国民たちの中にはお前に期待している者もいる」


 そう言われてヴィアはハッとする。

 自分の瞳の色は、リュシエール王国を造った初代と同じ紫色。それだけではなく、まだ隠しているがヴィアは氷属性の魔法が使える。

 王家では三代目以降、紫色の瞳と氷属性保持者はヴィアまで出ていない。

 ヴィアの瞳が紫色だと知った国民は歓喜にわいていた。公表する気はないが、そこに氷属性の魔法が使えるという新たな事実を知れば、人々がヴィアをどう見るかは考えれば分かる。

 そして、国王とグレンの意見はヴィアを国外に出す気はないということで一致していると思える。

 ヴィアが二人をジッと見つめると、国王が口を開く。


「お前は王太子グレンの婚約者となる」


「……は?」


「グレンも了承しておる。宰相や大臣からも理解は得ている」


 国王の言葉にヴィアは再度固まる。未だ話が続いているが、ヴィアの耳には入っていなかった。

 グレンがヴィアの顔の前で手を振って呼びかけると、ヴィアの固まりは解かれる。


「グレンお兄様と私は従兄弟です!血が近しい者同士での婚約は大臣から理解が得られても、国民からは得られないと思います!それに……」


「従兄弟同士の婚約はこの国では問題ない。国民からは徐々に理解を得れば良い」


 二人の間だけでなく大臣を通していることから、グレンとヴィアの婚約は決定事項のようになっている。

 ヴィアはもう一人の当事者であるグレンを見るが、グレンは優雅にティータイムを満喫していた。

 ヴィアはその姿にイラッとする。


「グレンお兄様はそれでいいのですか?」


「問題ない。それに前にも同じ話をしたことがあっただろう」


 グレンの言うとおり、去年、寮の談話室でした会話を思い出す。あの時、ヴィアはキッパリと断った。しかし、一年経ってまた同じ話が出るとは思わなかった。

 

「あの時、私が断った理由覚えていますか?」


「あぁ、ブラコンのことだろう。実際には従兄弟だからブラコンとはならないだろう。それにーー」


 グレンはそこで言葉を止めると、にっこりと笑う。普段見たことのない笑顔に、ヴィアは嫌な予感がした。


「ドロテア公子と俺、どちらを選ぶ?」


 死刑宣告のような言葉にヴィアはガックリとうなだれる。

 そう言われると選択肢は決まっている。


(なんでこんな事に……)


 ヴィアはもう何も言えず、二人の決定に従うしかなかった。


 




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