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24.




 ヴィアはこの場をどう切り抜けるか悩んでいた。

 目の前にいる男はヴィアのそんな心情を気にせず、不躾な視線をヴィアへと向けている。


(なんでこんなことに…)




 数時間前、学院の授業が休みの今日、ヴィアは王城に戻ってきていた。

 普段なら学院が休みの日は王城に戻らず、寮で過ごしたりしているが、明日大事な宴があるためこうして戻っている。

 今日は何をして過ごそうかと考える。

 久しぶりにエヴラールと魔法の訓練をしようかと思ってルカを伴って魔導師団に行くと、この時期恒例の出張のため不在だと言われた。

 アテが外れたヴィアは何をしようかと再度考えながら王城の中を歩き回る。

 結局、図書室で勉強することにした。

 二年生から履修科目になる薬学を再度予習しておくために。

 ヴィアは図書室に入ると一目散に薬学の本がある棚に向かい本を探す。まずは以前読んだ入門書のような本と、それよりも詳しく書かれた本をいくつか取っていると、ルカがヴィアの手から本を取り、ヴィアの代わりに本を持つ。

 図書室に備えられている勉強用の席に着き、本を読み始める。

 ルカはヴィアの邪魔をしないように少し離れたところで、周囲を警戒している。何かあってもすぐに駆け寄れるように。

 

 どのくらい時間が経ったのか、暫く本を読んでいると、外が騒がしいことに気付いた。図書室の窓から外を覗くと、騎士達は焦っているように見え、騎士以外も慌ただしくしていた。

 ルカは何があったのか確認するため、話を聞きに図書室から出て行く。

 ルカが何かしら話を聞いて帰ってくるまで、ヴィアはまた本を読むことにした。が、ふと視線を感じてキョロキョロと周りを見る。

 ヴィアから少し離れた所に、本棚にもたれながら立っている男の人がいた。

 男の人といっても、幼さが残りヴィアとあまり年齢は変わらないように見える。

 男はヴィアの方を見ながら近寄ってくると、ヴィアの前の席に座る。机の上にある本を手に取るとパラパラとめくりだす。

 ヴィアは何がしたいのか分からないので男をジッと見る。男は本を閉じると、ヴィアを見る。


「王女は話に聞いていたのと違うな」


 誰から聞いたかは知らないが、以前のブラコンでワガママだった頃のヴィアの話をどこかで聞いたのだろう。

 ヴィアが何か言おうとしたタイミングで、ルカが図書室に戻ってくる。ヴィアの前にいる男を見てギョッとしていた。ルカの様子から外が騒がしかったのはこの男のせいだと分かる。

 ヴィアの情報が古く、騎士達が焦るほど探さないといけない人物。そして、燃えるように赤い髪と灰が混じった青瞳、男が着ている服から推測すると正体が分かる。


「他国の王城を護衛もつけずに歩くなどして、何かあったらどうするのですか?……アルバ公国のドロテア公子?」


 ヴィアはため息混じりに言い、真っ直ぐ男の方を見る。


「やっぱり聞いてたのと違うなぁ」


 ドロテアは面白いものでも見つけたように、ニヤリと口の端を歪めて笑いながらヴィアを見ていた。

 



◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 結局、昨日はあの後勉強できなかった。できなかったというより、する気が無くなったという方が正しい。

 ルカから知らせを受けた騎士と公国の使者達にドロテアを引き渡すのに苦労した。

 ヴィアの何がドロテアの興味を惹いたのか分からないが、引き渡すまでまとわりつかれて心底疲れた。

 昨日のことを思い出すと、またドッと疲れがきた。

 ヴィアの表情が曇ったのを見て、メイクの途中だから表情を変えるなと、クロエから注意された。



 今日はグレンの十六歳の誕生日で、成人となる。

 そのためか、普段なら来ない他国の要人何人か祝いに来ている。ドロテアが来たのもそのためだろう。

 アルバ公国はリュシエール王国の東にある国で、小国だが農業が盛んでその中でも嗜好品のタバコは各国に人気がある。魔法に関しては貴族のみしか使えないので他国よりも実力は劣るが、その分魔石を利用して補っている。

 宴の会場に入ると王族の席の近くに他国の要人達の席が設けられていて、歓談していた。

 ドロテアもその中にいる。横にはドロテアと同じ髪色の女性が座っている。恐らく姉のビビアナ公女だろう。

 二人が今日の宴に参加した理由は想像がつく。アルバ公国としては近隣の国と友好関係を保ちたいのだろう。

 だが、それ以上に彼女の顔を見るに、ビビアナはグレンとの婚約を目当てに来たのだろうとヴィアは推測する。

 グレンが無理ならフィリップか。フィリップにいった場合、イルマがどう対応するかだが。


 王族達の席の前に立つと、毎回のことだが国王が宴の始まりの言葉を告げるが、いつもと違うのはグレンが国王の横に立っていることだ。


「今日をもって第一王子グレンが成人となる。この日を迎えることができ、皆には感謝している。この良き日に皆に伝えたいことがある。……第一王子グレンを王太子とする」


 国王の言葉に会場内がざわつく。

 驚きながらも喜びの声をあげる者、顔を歪める者と会場内の反応は分かれている。

 いつぞやの王城内であった国王とイルマの騒動はこの件についてだったのかと、ヴィアは納得した。

 国王の言葉の後、グレンが成人として、王太子としての抱負を告げると宴が始まる。

 毎度恒例の貴族達が王族の元へ祝いの言葉を述べるために集う。

 貴族達が王族の前から去ると、近くにいたドロテアとビビアナが席を立ち、王族達の前に来る。


「グレン殿下、ご成人おめでとうございます。また、立太子されましたこと、アルバ公国代表として心からお祝い申し上げます」


 ビビアナは笑みを浮かべると、グレンをジッと見ていた。


(うわぁー、狙われてるな)


 ヴィアは心の中でグレンにエールを送る。触らぬ神に祟りなし。





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