22.
鐘が鳴り新しい年が始まると首都は沢山の人が喜びの声をあげ、打ち上がる花火を見ながら盛り上がっていた。リュシエール王国では一年が終わりを迎え、新しい一年が始まる瞬間に王城から色とりどりの花火が打ち上がる。この花火は魔導師団員数人が火魔法で打ち上げる。ヴィアも自室から花火を見つめ、新しい年も穏やかに過ごせることを願いベッドへと入る。
翌朝、朝食を済ませるとヴィアはすぐさま自室へと戻るとクロエに服をひん剥かれ浴室へと連れて行かれる。昼から始まる祝賀会の準備に時間がかかるためのんびりしている暇はなかった。普段より念入りに全身を洗われ、マッサージも施されるがあまりにも気持ち良かったのでヴィアは寝てしまっていた。
「ヴィア様、起きてください」
クロエに体を揺すられながら起こされると、ヴィアは寝ぼけまなこのまま体をおこして台から降りると浴室から自室へと移動する。クロエが手伝いにきた侍女とドレスや装飾品の確認をしている間にヴィアは風魔法を使って自分の髪を乾かしておく。確認が終わった二人はドレスと装飾品を持ってヴィアの元に来ると準備を始める。
王族は祝賀会の時は白を基調とした衣装に身を包む。今までは白と金色のドレスが多かったが、今回のヴィアのドレスは金色ではなく藤色が使われていた。ドレスはウエストから白と藤色のチュールが段々と重ねられていた。ヴィアがドレスに身を包むとクロエ達はすぐにメイクやヘアセットに取りかかる。
「ヴィア様終わりましたので、確認をお願いします」
クロエに促されヴィアは鏡の前に立つとクルッと一回転してみる。チュールが風でフワッと舞って可愛く感じた。クロエ達も満足しているのか満面の笑みでヴィアを見ていた。
自室の扉前に控えていたルカを室内に入れて感想を聞くと、よくお似合いですと返してくれた。
ヴィアはルカを伴って祝賀会の会場へ向かう。
会場側の控室に誰かいるかなぁと思い覗いてみると、普段は王都の端にある離宮に住んでいる祖母が待機していた。
祖母のエマニュエルにヴィアは一年ぶりに会う。今代に譲位した後体調を崩して離宮で養生していたため以前は会う機会がほとんどなかったが、最近は体調が良くなったのか祝賀会のみ参加するようになったので、一年に一度会うことにはなっていた。
ヴィアはエマニュエルに挨拶をするため近付くと、エマニュエルもそれに気付いたのかヴィアの方を見やる。
「お久しぶりです、おばあ様。お元気そうでなによりです」
ヴィアはドレスを軽く持ち上げて礼を取りながら挨拶をする。
エマニュエルはヴィアの挨拶にあなたもねと、返して自身の横に座るよう指示する。ヴィアはそれに従いソファーに座ると、エマニュエルがヴィアの頬に手を当てるとジッと目を見つめる。ヴィアを見るエマニュエルの瞳には憂いているように思える。
「ヴィア、貴方の瞳の色を偽ることを指示した私を憎く思いますか」
ヴィアの瞳の色を金色と偽ることを今代国王とエマニュエルで決めたのはヴィアを守るためだと理解している。真実を知った際、最初は戸惑ったが自分を守るためにしてくれたことを憎く思うはずがない。ヴィアは頭を左右に振りエマニュエルに微笑む。
「私のことを思ってしてくれた事を憎く思ったりしません。戸惑いはありましたが、私を守ってくださってありがとうございます」
思っていたものとは違う返答だったのかエマニュエルは一瞬目を見張るが、静かに目を伏せた後、ヴィアへ微笑みかける。
暫く二人で話していると、控室の扉が開き執事のセバスが部屋に入ってくる。
「先代様、ヴィア様、もうすぐホールへ入場する時間となりますので、御準備の程よろしくお願い致します」
ヴィアとエマニュエルはソファーから立ち上がり控室から出ると、グレンとフィリップがホール入り口前で話しながら待機していた。
グレンとフィリップはエマニュエルの姿を視界に入れると挨拶をする。
その後やって来た国王とイルマもエマニュエルに気付き軽く挨拶をすると、セバスが入場の時間だと告げる。
扉が開き国王から順にホールへ入場して行く。
ホール内の貴族達は皆頭を下げていた。
王族達がホールの壇上にある席の前へ着くと、貴族達は頭を上げて言葉を待つ。
国王が新年を祝う言葉を述べると祝賀会は始まった。貴族達は新年の挨拶を述べるため、爵位順に並んで王族の元へ向かう。始めは宰相のマーウィン家、次いでレイン家が挨拶に来る。シルビアの姿が見えたヴィアは話しかけたい気持ちを抑えて、シルビアに笑みを向けるだけに止めた。
王族への挨拶を終えた貴族達は、各家で親交のある家と話し始めていた。
ヴィアは未だ終わらない貴族達の挨拶を聞きながら、シルビアと話せる時間をどうつくるか考えていた。
全ての貴族達の挨拶が終わり、ヴィアは席からシルビアを探していた。王族はホール内を自由に動き周れないのがネックだと感じる。
「ヴィア、シルビア嬢と話しがしたいだろ?」
「えっ⁉︎グレンお兄様、どうして分かったのですか?」
「食事もせずにずっと何かを探しているのを見てたら分かる」
グレンはクスクスと笑いながらヴィアの頭を撫でる。その仕草で完全に小バカにされているのをヴィアは理解する。
グレンが近くにいる執事に耳うちすると執事が頭を下げて離れて行く。
「パトリックとシルビア嬢をテラスに呼んだからヴィアも行くだろ」
グレンの問いかけにヴィアは満面の笑みで是非と返事をして席を立つと、グレンにエスコートされテラスへと向かう。
二人仲良くテラスへと移動して行く姿を微笑ましく思う者の中で、イルマだけはギリッと歯を食いしばり睨みつけていた。
シルビアとパトリックは随分お互いに好きあっているのだと思う。婚約者だからかもしれないが。
シルビアのドレスは鮮やかな黄色で、青い刺繍が入れられ、裾には濃い青のレースがあしらわれている。パトリックの方は濃い青色生地に金の刺繍が入っているが、タイは碧色をしていた。二人の服はお互いの髪と瞳の色を元に作られたのが分かる。
恋人の髪や瞳の色を自身の服装に取り入れるのはリュシエール王国ではよくあることだ。これは相手が自分の大切な人と周囲に知らせるためのもので、これを見たら二人の婚約を知らない者も一目で分かるだろう。
「パトリック様もそういう事するのですね」
ヴィアはさりげなく意外だという事を本人に告げる。
「意外でしょう。でも、これでバカな事をする者が減るのならいくらでもしますよ」
「あら?じゃあ、もしまたバカな事の時に立ちあったら、パトリック様の名前を出したほうがいいかしら?」
「えぇ、お願いします」
バカな事ー以前、シルビアが上級生の女子生徒に囲まれたことを指していた。
パトリックとしては、婚約者のシルビアが謂れのない内容で罵倒されたことが気に食わなかったのだろう。だからこそ、普段ならしないことを今回したという訳だ。
前回釘を刺したので次なんて無いと思うが、もしあれば彼の名を使わしてもらうことをパトリック本人の了承を得た事でヴィアはニコニコとしていた。