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21.



「兄さん、ここの問題なんですが…」


「あぁ、ここは…」


 フィリップがグレンに分からないところを聞き、問題を解いていく。それをヴィアは横目でチラリと見る。幼い頃からこの二人が会話することは限られていただけに、珍しい光景でもあった。

 どうしてこうなったかと言うと、話は数日前に戻る。




◇◇◇◇◇◇◇◇




 リュシエール王国の魔法学院は日本の学校と同じように三つの学期に分けられている。日本と違うのは学期終わりに一週間の休みがあるのみで夏休みなどの長期休み的なものはない。ただ、三年次は最後の学期に一ヶ月半の休みはある。これは四年次からのクラス別けがあるためである。

 学期末には定期テストがあり、そのテストの成績が廊下に貼り出される。

 ヴィアはシルビアと一緒にテストの成績を見に行く。廊下のある一箇所に多数の生徒が集まっており、喜んでいる者もいれば悔しがっている者もいた。ヴィアとシルビアの二人も周りの生徒同様に貼り紙の前でドキドキしながら結果を確認する。

 結果、ヴィアは一位でシルビアは六位だった。一年次に習う授業内容は王城で家庭教師から習った内容と同じであったため、ヴィアは一位を取れているが、二年次からは新たに習う内容もあるため今みたいに一位を取れるかは分からないので、しっかり勉強しないといけないと考えていると、後ろから声を掛けられる。


「ヴィアスゴイねー」


「フィリップお兄様⁉︎」


 急に声を掛けられたためヴィアは驚く。横にいたシルビアも一瞬驚いたが、すぐにフィリップに対して礼をとる。当のフィリップはシルビアに対して楽にするよう促して話を続ける。


「グレン兄さんも一位だったし…どんな風に勉強してるの?」


「うーん、復習等だけです…特別に何かしている訳ではないですね」


 ヴィアはフィリップの学年のテストの成績を確認する。フィリップは三位だった。三位でも十分凄いと思うが、本人的には納得していないのだろう。

 フィリップより上位の二人の名前を確認すると、乙女ゲームの攻略対象であるコンラッド・マーウィンとネイサン・バードの名前があった。コンラッドは宰相子息でゲームに付いていたキャラクター設定集にも真面目で優秀という単語があったので妥当な順位だと思うが、ネイサンは意外だった。設定集には優秀な兄と比べられるのが嫌でグレるとあったので、てっきり勉強はそれ程得意ではないと勝手に思っていたが、グレることと勉強の出来は関係なかったようだ。

 

「そこで固まってどうかしたのか?」


 グレンがヴィア達のところにやってくる。シルビアはグレンに対してフィリップ同様に礼をとるとグレンはシルビアに優しく挨拶を返す。


「グレン兄さん、今、ヴィアに勉強の仕方を聞いていたんだよ」


「なら今度王城に帰っている時に皆で勉強するか?」


「いいの?」


 グレンの提案にフィリップは本当に良いのかと再度尋ねる。今までそんなに交流が無かったグレンからの提案だったため、意外だったのかフィリップが戸惑っているように見えた。グレンはそれを察したのか、フィリップの肩をポンポンと叩く。


「あぁ、過去のテストが残っていたはずだから持っていく」


「図書室の部屋を借りてしませんか?」


 ヴィアがグレンとフィリップに提案をすると二人は頷き、合意する。ヴィアはシルビアにも一緒にどうかと尋ねるが、断られたので兄弟水入らずでの勉強会の開催が決定した。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 宣言?通りに勉強会は王城の図書室の一角で行われた。

 リュシエール王国では新年の前後一週間は学院だけでなく、商店なども休みとなる。飲食関係の店はむしろかき入れどきとして開けていたりもする。王城では新年に向けて祝賀会など、様々な準備が行われているため忙しなく働く人が廊下には多く見かけられていた。図書室は司書以外の人は居なかったので、三人共勉強が捗っていた。

 フィリップが過去問を中心として勉強するなかで、ヴィアは来年から授業内容に加わる薬学の本を横に積み必死に読んでいた。そんな二人とは違いグレンは公務をこなしていた。卒業間近のグレンに勉強はもう必要なく、以前言っていた卒業後から増える公務を既に引き継いでこなしていた。

 三人が黙々とこなしていると、急に図書室の周辺が騒がしくなってきた。三人が目を合わせ確認しに行くと、廊下に人だかりが出来ていた。あそこで何が行われているのかと不思議に思っていると、騒ぎの中心にいた人物が姿を現した。


「陛下、お待ち下さい‼︎今一度考え直してください‼︎」


「くどい。お前にいくら言われようが私の考えは変わらん」


「しかし…陛下‼︎」


 イルマの後ろにはイルマの兄であるソーンダイク公爵も追随していた。他にも複数の大臣や官僚がイルマ同様国王に意見を言おうとするが、国王はそれらを聞く気はないのかイルマ達を置いてその場を立ち去ろうと三人の方へ近付いてくる。国王を始めとした全員が図書室前で固まっている三人に気付くと気まずそうに視線を外していく。沈黙が訪れるかと思いきや、国王が口を開く。


「三人揃ってどうした?」


「二人の次のテストに向けて勉強をしていました」


 国王の問いにグレンが笑顔で答える。フィリップとヴィアはグレンの言葉を肯定するため頷く。

 国王はそうかと呟くとその場を立ち去る。何人かの大臣達は三人に会釈してから国王の後を追っていく。イルマとソーンダイク公爵の二人は国王の後を追わず、来た方へ何か話しながら引き返していく。イルマが立ち去っていく瞬間、視線を一度三人の方へ向けるが何も言わずに去っていった。フィリップは何かしら言われるかと思っていたのか、イルマが立ち去った後軽く息を吐いていた。ヴィアもフィリップ同様息を吐いていた。グレンはそんな二人の頭を軽く撫でると、笑顔を向ける。


「息抜きに散歩でもするか?」


 グレンの提案にフィリップとヴィアは頷き、三人は揃って散歩に向かう。

 国王とイルマが揉めていた内容は気になるが、三人で散歩に行くことがなかったのでそれ以上考えずにヴィアは二人の兄との散歩を楽しむことにした。

 



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