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20.



 今日の最後の授業が属性別授業のため、ヴィアは移動と授業の準備をしていたら、後ろから声をかけられた。


「あのー…王女様…」


 声が若干震えていたので、恐る恐る声をかけてきたであろう女生徒を萎縮させないよう、ヴィアは笑顔で返事をして振り向く。声を掛けてきたのは平民の女生徒二人だった。女生徒は躊躇いがちに言葉を続ける。


「王女様は今日の属性別授業はどちらに行かれるんですか?」


「今日は風属性の方に行きます」


 女生徒の問いにヴィアは答える。ただ、ヴィアには何故そんな質問をされるのか分からなかった。が、女生徒の次の言葉で質問の意図を理解する。


「では、ご一緒しても良いですか?」


 女生徒は体を前のめりにして力強く言い切る。ヴィアは女生徒の言葉が想定外だったので、少し反応が遅れてしまう。が、ヴィアは女生徒の誘いを快諾した。移動と授業中もヴィアは女生徒二人とたくさん話をした。話し始めても彼女達は王女であるヴィアに緊張してか堅苦しい会話しかしなかったが、ヴィアが身分をあまり気にしていないことを知ると、彼女達はだんだんと普段どおりの会話をし始め、ヴィアにもフラットに話しができるようになっていた。話をしていくうちに彼女達曰く、王女で紫の瞳を持つヴィアは平民からしたら近付き難い存在だと、しかしシルビアと一緒にいるヴィアは自分達とそう変わらないように見えたため、話してみたいと感じていたという。しかし、王女であるヴィアに平民である自分達が話しかけていいのか分からずいたため、時間がかかったのだという。それでも勇気を出して声をかけてくれたことにヴィアは素直に感謝する。

 授業が終わりヴィア達は教室へ戻る。既に教室に戻っていたシルビアにヴィアは二人を紹介する。四人で寮に戻ることにし、公爵家であるシルビアに二人は辿々しく話しをしていたが、シルビアがヴィア同様に身分を気にしていないことを知ると、寮に着いた時には打ち解けていた。二人はすぐに自分達の部屋に戻っていく。まだ話し足りないヴィアはシルビアと共有棟の談話室に向かうことにした。


「随分嬉しそうだな」


 不意に声を掛けられて、声のした方を振り向くとグレンとラウル、もう一人知らない人がたっていた。

 ヴィアは新しく友人が出来たためそう見えているとグレンに返しながら視線を少し横に向ける。グレンはヴィアの視線の意図に気付いて、ヴィアに紹介する。


「彼はパトリック・バード。この前話しただろう、シルビア嬢の婚約者だ」


 グレンの言葉でパトリックはヴィアにお辞儀をして、再度自分の名前を告げて挨拶したのでヴィアも挨拶を返すと、グレン達に談話室で一緒にお茶でもどうかと尋ねる。グレンはヴィアの誘いを受け入れ、五人で談話室へ向かう。部屋に入る前にグレンがどこからか出てきた執事に何か告げていた。ヴィアは執事に見覚えがあった。

 談話室に入ると既にお茶が用意されていたのにヴィアとシルビアは驚いた。しかし男性陣はそれが当然という風だった。不思議に思いながらヴィアはグレンに尋ねる。


「お兄様、先ほどの彼は専属の方ですよね?寮までお連れになったのですか?あと、このお茶は…」


「いや、寮まで連れて来るつもりは無かったんだが…アイツ、ノエだけは自分の意志で来てる。このお茶もノエが用意したんだろう」


 ヴィアはグレンの言葉に驚いた。専属は基本的に主の言葉が絶対だと思っていたが、主の言葉を聞かない者もいるのだと。頑固なだけでなく、ノエが随分優秀であることも理解した。グレンがヴィア達と談話室でお茶をする事を決めたのは、ほんの数分前であるのに、自分達が部屋に着いた時には既に準備してあるということは並の執事では出来ない。改めてグレンの下には優秀な者が集まっていることをヴィアは理解した。

 ヴィアはノエが用意したお茶に口を付けながら、横に座っているシルビアを見る。シルビアの左隣にはパトリックが座っており、二人が何やら話していた。パトリックと話すシルビアの表情はヴィアが見たことないものだった。頬を染めてパトリックと話すシルビアの顔を見れば、婚約者だからという理由だけではないとヴィアは感じた。以前言っていた通り、シルビアはグレンに対しては憧れしかなかったのだとヴィアは一人でに納得していた。

 周囲が何かしらの話題で盛り上がっているのに反して、ヴィアは一人でグレンの婚約者について考えていた。

 次期王として一番近いのは王位継承権第一位のグレンである。そんな彼の相手はそれなりの家格が求められる。ヴィアもそれを理解している。リュシエール王国は公爵は四家、侯爵は六家となっている。公爵家の一つがシルビアの家で王家の分家であるレイン公爵家。そして宰相を輩出するマーウィン公爵家。マーウィンは男子しかおらず、コンラッド・マーウィンは乙女ゲームの攻略対象である。残り二家は既に結婚していたはず。だからこそ、王家の分家であるレイン公爵家のシルビアを第一候補にと狙っていた。こうなると侯爵家から選ぶべきかと思うが、グレンの母であるマノンは伯爵家の出である。最終的にグレンが選んだ人なら問題はないのだが、今のままだとグレンに相手ができるのか不安だった。

 ヴィアはずっとグレンの婚約者について悩んでいたが、自分の名前が呼ばれた事に気付き顔をあげると目の前にグレンの顔があった。ヴィアは驚きで一瞬固まるが、何を考えていたか聞かれてしどろもどろに答える。


「いえ…パトリック様と話すシルビアがあまりにも幸せそうだったので…えっと、いつか私もそういう相手が見つかるといいなと…」


 グレンの婚約者についてと馬鹿正直には言わず、ヴィアは誤魔化すことにした。誤魔化してはいたが、シルビアの幸せな顔を見て羨ましく感じたのは確かだった。


「そういえば、殿下方はまだお相手がいらっしゃらないですが、好みの異性はおられますか?」


「容姿については特にないですが…私のことをちゃんと見てくださる方が良いです」


 ラウルの問いにヴィアは素直に答える。ふと、隣を見るとグレンは黙ったまま答えようとしなかった。この手の話題になると必ず黙るのだろうかラウルとパトリックはやれやれといった呆れ顔をしていた。ヴィアは気になっていたことを口にする。


「…お兄様、もしかして…女性よりも男性の方が…」


「それは違う‼︎」


「では、こういう女性は嫌だといったのはありますか?」


 好みの異性という話題ではなく、逆に嫌いな異性について聞いてみる事にした。グレンが嫌いなタイプを弾いていけば、候補にできる相手が見つかるかもしれない。

 グレンは少し考えてから口を開いた。


「…興味のない話を振ってきたり、人の話を聞かない人だ」


「それはお兄様を囲んでいる女生徒達のことですね。まぁ、彼女たちは私もどうかと思いますが」


 ヴィアはグレンの言葉を聞いて、いつぞや見た教室での光景を思い出す。何人もの女生徒達がグレンの言葉を聞かず、自分が話したいことを際限なく話して迷惑がられているのに気付かない滑稽な姿を。

 ラウルとパトリックも同様な光景を思い浮かべたのか、哀れといった表情でグレンを見ていた。


「そうなると、グレン殿下のお相手は国内で見つけるのは難しいのではないですか?社交界に出たらそういうタイプの女性はウジャウジャいますよ」


 パトリックが困った顔で告げる。グレンもそれが分かっているので否定はしない。


「ヴィア様やシルビア嬢の様な女性ならグレン殿下も考えてくださるということか…」


 ラウルが口元に手を添えてポツリと零す。ラウルの言葉にグレンが何か閃いたような表情をした後、ヴィアへ向き直る。ヴィアはグレンの意図が分からず首を傾ける。


「ヴィア、俺の婚約者にならないか」


「…は⁇」


 グレンの意味不明な言葉にヴィアは開いた口が塞がらなかった。他の三人も同様に口を開けて驚いていた。いち早く冷静になったヴィアはグレンに笑顔で嫌だと告げる。


「お兄様、私が以前した宣言を覚えていますか?」


「あぁ、ブラコンのやつか」


「はい。あれはフィリップお兄様だけでなく、グレンお兄様も対象なのです。ブラコンを卒業すると宣言した私がグレンお兄様の婚約者になるわけないでしょう。それにあまり血が近しい者で婚約するのは周囲から反感を買うと思います」


 グレンはヴィアの言葉を聞いて何か考え始めた。ヴィアは冷めてしまった紅茶を飲んで落ち着く事にした。他の三人も同様に紅茶を飲んでいる。なんとも言えない雰囲気だけが談話室を包んでいた。

 ヴィアは先程グレンに断る時に『周囲の反感』と口にしたが、これは王妃イルマを指していた。以前からフィリップを王位に就けたいイルマにとって、グレンが一番の障害である。ただでさえグレンの母親であるマノンを殺した疑いが当時イルマにはかけられていた。それなのにグレンの婚約者にヴィアがなりでもしたらイルマがどんな手を使うか分からない。それに、乙女ゲームの攻略対象にグレンはなっていないが、隠しキャラとしてグレンが攻略対象になっていたら、ライバルとなるのはヴィアが有力だろう。乙女ゲームのシナリオ通りに人生を歩みたくないヴィアにとってグレンとはフィリップ同様一定の距離は保っておきたい。自分の人生がかかっているからこそ、グレンの婚約者には絶対なりたくないとヴィアは心に決めた。




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