19.
何回目かの属性別授業を受け終え、自分の教室へ戻るヴィアは、前方にシルビアの姿を見つける。声を掛けようとしたが、シルビアは別の女生徒三人と一緒にいた。属性別授業で仲良くなったのかとも思ったが、シルビアを囲む三人の表情は仲良くなった者に向けるものではなかった。シルビアが女生徒三人と共にどこかへ移動していくので、ヴィアはこっそりあとを追いかける。人気の少ない所に移動した四人をヴィアは少し離れたところで様子を見る。会話の内容は全て聞き取れないが、シルビアを囲む三人は制服のスカーフの色や会話の内容から上級生であることが分かった。女生徒達はシルビアがグレンと一緒に昼食をとっている事やヴィアと親しくしてグレンを狙っている等と言って、いちゃもんをつけていた。シルビアは特に反論もせず、そのいちゃもんを聞き流していた。そんなシルビアの態度に苛立ったのか、女生徒の一人がシルビアを激しく罵倒して手を振り上げる。ヴィアはマズイと思った瞬間、走り出していた。
バシッという音が鳴り響く。シルビアは予想していた痛みがこなかったことに疑問に思って目を開けると、自身の代わりに平手を受けている人物に驚き声をあげる。
「ヴィア様⁉︎」
突然現れ、シルビアの代わりに平手を受けているヴィアに女生徒も驚いていた。
ヴィアは女生徒達をキッと睨みつける。
「シルビアは私の友人ですが、彼女は私の立場を利用してお兄様に近付いたことは一度もありません!私は大切な友人を傷付ける者を許さない!それに、ここは魔法学院で学び舎です。お相手を探したいならパーティーにでも行ったらどうですか?今回の事は学院だけでなく王城にも報告致します。貴方がたの家に王城と学院から今後の事も含めての処遇がいくでしょう」
ヴィアは声を荒げず、しかし、怒りを含んだ声色で女生徒達に告げる。ヴィアの言葉に女生徒達は青褪めて震えていた。そんな彼女達には目もくれず、ヴィアはシルビアの手を取るとその場から立ち去る。
「ヴィア様、ヴィア様、保健室へ行きましょう。頬をはやく冷やさないと…」
ヴィアに手を引かれて歩くシルビアは、女生徒達同様青褪めていたが、自分を庇って平手を受けたヴィアの頬の腫れを心配していた。ヴィアはシルビアの言葉を聞いてはいたが歩みを止めず、学院と国王へ今回の件について報告するための魔法を発動させていた。自分の言葉を無視して魔法を発動させながら歩くヴィアに痺れを切らし、シルビアはヴィアに引かれている手をグッと自分の方に引き寄せる。ヴィアは魔法に集中していたため、急に手を引かれ驚き歩みを止める。そっとシルビアの方を向くと今にも泣きそうな顔をしていた。ヴィアは発動させていた魔法を止めて、シルビアを心配させまいと微笑む。
「保健室にはちゃんと行くから、そんな顔しないで。ねぇ、シルビア……ゴメンね。私が何も考えずいたから…もし、また同じようなことがあれば、私の名前を出してでもいいからついて行ったりしないで。私は私の友人になってくれた貴方が大事なの‼︎」
ヴィアは自分のせいでシルビアが女生徒達にいちゃもんをつけられたのだと理解していた。グレンが女生徒達から言い寄られていると知りながら、シルビアを伴って会いに行くことで彼女に何が起こるかを全く考えていなかった。自分の浅はかな考えに嫌気がさすと同時に、シルビアに迷惑をかけてしまった事を悔やみヴィアは俯く。
シルビアは繋いでいた手の上にもう片方の手を乗せ、ヴィアに向かって微笑む。
「ヴィア様が謝られることではありません。なので、そのような顔をしないでください」
ヴィアは心配させてしまったなと思い顔を上げる。シルビアを真っ直ぐ見つめ、ありがとうと告げる。
話もひと段落したと思いヴィアは中断させていた魔法での報告を再開しようと魔法を発動させる。が、含みを持たせた笑顔のシルビアに手を引かれて保健室へ連れて行かれた。
ヴィアが学院と王城に報告出来たのは、保健室で丁重に手当てとシルビアからの自分を大切にしろという説教が終わった後だった。
数日後、ヴィアは寮の自室で準備をしていると、部屋のドアを叩く音がした。こんな朝から誰だと思いながらヴィアはドアを開くと、寮監の一人が手紙を持って立っていた。寮監はヴィアに手紙を渡すと、直ぐに仕事へ戻っていく。手紙は蓮の花の封蝋があることから送り主はグレンだと直ぐに分かった。内容は今日の昼食を一緒にと、だけあったが、ただ昼食を摂るだけではなくこの前のことについての話もあるだろうとヴィアは推測する。グレンに非はないのにと思いながら、ヴィアは準備を再開させた。
授業が終わり、同じくグレンに呼ばれたシルビアと共に食堂へ向かうと、テラス席にグレンとラウルの姿があった。ヴィアとシルビアは二人に挨拶をして席に座る。話の前に先に昼食を済ませ、一息付いたところでグレンが本題に入る。
「父上と学院から連絡がきたよ。シルビア嬢、迷惑をかけてすまなかった。彼女達の家に僕からも釘を刺しておいた、次は無いと」
グレンはシルビアに向かって頭を下げる。王族であるグレンが自分に頭をさげたので、頭を上げてくださいとシルビアは慌てていた。そして、グレンに感謝の言葉を告げる。
「どうせなら、お兄様とシルビアが付き合っていることにしたらどうですか?」
ヴィアはそれとなく解決策として提案してみるが、それは出来ないと、グレンに一蹴される。
「ヴィア様、黙っておりましたが、私には婚約者がおりますので…」
シルビアは申し訳なさそうにしながら婚約者がいる事を告げる。ヴィアはそこまで考えていなかったので驚いたが、すぐに軽率な発言をしたことをシルビアに謝罪する。
シルビアの婚約者が気になって聞いたところ、パトリック・バードと告げられた。彼は乙女ゲームのヒロインであるミモザの異母兄で、攻略対象であるネイサン・バードの兄である。そして、グレンと同じ学年だった。こんなところでも乙女ゲームが関わっていることを知り、ヴィアはなるべく気を抜かないように決意した。