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17.



 翌日、国王は言葉通り国民に向けて触れを出した。国民は突然の触れに驚いていたが、ヴィアが三代国王以降初の紫の瞳を持つと知って歓喜に沸く者もいた。

 


「私は珍獣かっ‼︎」


 誕生日から少し経った日、ヴィアはルカを伴ってエヴラールの元に来ていた。

 誕生日の翌日から、王城で働く者達のヴィアを物珍しそうに見る視線が増えていた。それだけではなく、ヴィアとすれ違った後に小声で何か話したりする者もいた。そして、ご機嫌取りに来る貴族もいるが、それらは全てイルマによって追い払われていた。

 イルマは宴で国王がヴィアの出自等を明かした際、一瞬の驚きを見せた後はずっとヴィアを睨んでいた。ヴィアは国王の子でないにしろ、ヘーゼルダイン王家の分家であるレイン公爵家の令嬢を母に持つ。そして、フィリップには無い王家特有の黒髪と紫の瞳。イルマにとってグレンだけがフィリップを王位に就かせるための障害であったが、それにヴィアも加わったため以前にも増してヴィアへの当たりが強くなっていた。それはヴィアに取り入ろうとする貴族達にも同様だった。ヴィアはそれを利用して、貴族達を退けていた。が、我慢の限界を迎えていたため、こうしてエヴラールの所で愚痴を零していた。

 ヴィアの出自、瞳の色関係なく以前のように接してくれるのが、事前に知っていたクロエとルカを除けば、エヴラールと騎士団の人達だけだった。ヴィアにはそれがありがたかった。なので、こうして愚痴を零している。


「こういうのは時間の問題ですからね」


「学院に入ってからも同じこと起こると思うんだけど…」


 エヴラールは慰める言葉をかけるが、ヴィアは更なる問題を提示する。

 ヴィアは四月から魔法学院に入学する。学院に入学したら、今のような状況になっても愚痴を零す場所もない。寮の部屋で一人発散するしかないことを考えて、ヴィアはため息をつく。


「お友達をつくったらいいんじゃないですか」


「友達ってそんな簡単につくれるもんなの?」


 エヴラールの提案にヴィアは質問で返す。エヴラールはそれ以降何も言わなくなった。ルカもかける言葉が無いのかずっと無言だった。三人はしばらく無言のまま過ごしていた。




◇◇◇◇◇◇◇




 不安は拭えないまま、ヴィアは魔法学院入学の日を迎えた。

 入学式の間中、ヴィアにはずっと様々な人から視線が向けられていた。横にいる貴族の子も、学長が話しているのにチラチラとヴィアを見ていた。ヴィアはやはり先行き不安だと、軽くため息をついた。

 入学式が終わると、各クラス毎に別れた後、教師に連れられ入学生達は教室へ向かう。教室に着くと席は決められていた。ヴィアの席は右の一番後ろだった。前や真ん中ではなかったのでヴィアはホッとする。

 クラスメイトを把握するために、まずは自己紹介をすることになった。前から順番に自己紹介していき、自分の番がきたヴィアは無難に挨拶をする。全員の自己紹介が終わった後、教師は学舎内を案内してくれた。案内の時、既に何人かはグループができ始めていたが、ヴィアは一人だった。


(うーん…ぼっち確定かなぁ…)


 そんなことを考えていると、横に誰か来て声をかけられた。


「王女殿下、私はシルビア・レインと申します。ご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」


 シルビアと名乗った彼女はヴィアの顔色を伺っていた。ヴィアは自分の元に誰か来るとは思わなかったので、一瞬間を開けてしまったが、すぐに了承の返事をした。ヴィアの返事にシルビアは顔を綻ばせた。ふと、ヴィアはシルビアの名前を再度頭の中で反芻させる。彼女はシルビア・レインと名乗った。レイン公爵家のご令嬢で、ヴィアの母親であるミシェルの姪。つまりヴィアとは従姉妹にあたる。これは何が何でも仲良くならなくては、とヴィアは心の中で意気込む。


「シルビア嬢、私のことはヴィアと呼んでください。これから仲良くしていただけると嬉しいです」


「光栄です、ヴィア様。どうか私のことはシルビアと、敬称等は不用です」


「じゃあ、シルビア。よろしくね」


 ヴィアは満面の笑みをシルビアに向ける。シルビアも笑顔で応える。ヴィアは友達を作れたことに心の中でガッツポーズをした。それからヴィアはシルビアと一緒にいることが多くなった。



 学院に入学して数日後、授業の終わりを告げる鐘がなり、ヴィアは教材を片付けていた。


「ヴィア様、食堂に行きましょう」


 シルビアがヴィアの元へやって来る。未だシルビア以外の友達はできていないが、焦らなくてもいいかとヴィアは思っていた。シルビアと共に食堂へ向かうために教室を出ると、廊下にグレンが立っていた。


「お兄様⁉︎どうしたんですか?」


「ヴィアの様子を見にきただけだ」


 グレンはヴィアが独りぼっちで学院生活を送っていないか心配していた。しかし、ヴィアの横にシルビアが居るので、自分の心配が杞憂だったと察した。

 ヴィアはグレンが自分を心配してくれたのが、嬉しかったので、一緒に食堂に行かないかとグレンを誘った。グレンは可愛い妹の頼みならと返し、食堂に三人で向かう。食堂に向かっている間、シルビアが異様に緊張していたのをヴィアは見逃していた。


「お兄様は学院生活が今年一杯じゃないですか、今後はどうされるんですか?」


「卒業したら公務一色の生活になりそうだな。父上から既に幾つかの公務を引き継がれてはいるが、更に増えるだろうな。騎士団には息抜きに行くくらいしかできないだろう…」


 今後のことを考えてグレンは遠い目をした。騎士団で一緒に訓練をした時の生き生きとした表情は今は消えていた。


「ヴィアは卒業後のことを考えているのか?」


「入学したばかりなので、全く考えていません。ですが、参考になればと思っています。シルビアはどう?」


「…私もまだ考えてはおりません」


 ヴィアから話を振られ、シルビアは一瞬の間ののち答える。シルビアの様子が普段と違うことにヴィアはようやく気づき、どうかしたのかと尋ねる。


「…態度がおかしくて申し訳ありません。実は、幼い頃に父に連れられ王城に来た際、迷子になってしまいまして、その時グレン殿下に助けて頂きました。泣きじゃくる私に殿下が優しく接してくださったとのことで、その時のお礼をちゃんと言えていなかったのでいつ言おうかと…」


 シルビアは少し俯き、照れながら幼い頃の話をする。グレンは覚えていなかったが、その時からシルビアにとってグレンは憧れの対象となっていた。憧れの人であるグレンと一緒に食事をする今の状況に喜びと緊張で胸が一杯だった。なので様子がおかしかったという。シルビアは改めてグレンにお礼を言うと、スッキリした顔になっていた。

 ヴィアは意外なとこで人は繋がっていたのだと思う。シルビアは憧れというが、これが恋であればヴィアは応援するつもりだった。しかし、勝手なことをするのは良くないと思い、今は二人の様子を見ることに決めた。




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