14.
今日は魔導師団と騎士団の合同訓練の初日。ヴィアは魔導師団の訓練場に来ていた。
ヴィア達が魔導師団団長と副団長に話をした後、二人はすぐに騎士団へ赴き合同訓練について話をした。騎士団側もすぐに了承し、訓練の開催日と定期的な訓練とすることが決まった。合同訓練については国王と宰相にも話がいき、初日の今日は国王も観に来ていた。
ヴィアは魔導師団側で参加させてもらうことになった。ヴィアが訓練に参加することを魔導師団側は渋っていたが、騎士団側とエヴラールが魔導師団側に掛け合ってくれたので、参加できることになった。
「こんなに早く話が進むと思わなかったな」
ヴィアがポツリとこぼすと、横にいたルカも同じことを思っていたのか頷いていた。
「『魔導師団は魔導師団で、騎士団は騎士団で訓練をする。』それが今までの常識でしたので…他を頼るなんて、自分達のプライドが邪魔して出来なかったんじゃないですかね〜」
ヴィアの呟きが聞こえていたのか、エヴラールがヴィアとルカに近付きながら言う。ヴィアはプライドって面倒臭いなと心の中で思った。
「ヴィア様は今日の訓練内容をご存知ですか?」
「騎士団員達に魔法を慣れさせるしか聞いてないけど?」
エヴラールの質問にヴィアは首を傾けながら返す。ヴィアはルカに視線を向ける。ルカもヴィアと同じ内容しか聞いていないのか頷いていた。
「騎士団の方には悪いですが…まず、魔法を学ぶ際の初歩から始めていきます。私がヴィア様にした手のひらから魔力を流すことからですね。それから魔法を発動させ、慣れていってもらいます。各自の属性魔法が最低限できるか見させてもらいます。これをマンツーマンで行いますので、属性によってペアを振り分けていくのです。ルカ殿は風属性をお持ちなので、ヴィア様とペアになってもらいます」
「私で大丈夫かなぁ…」
「大丈夫です。ヴィア様は他の魔導師団員に比べたら飲み込みが早く、魔法もきちんと制御出来ています。私は全体の補佐を任されてますが、ヴィア様の側におりますので何かあれば助けます」
心配そうにするヴィアにエヴラールは笑顔を向ける。ルカはよろしくお願いします、とヴィアに頭を下げていた。
合同訓練を始めるにあたって、国王からお言葉を頂戴し、魔導師団団長と副団長のデモンストレーションが行われた。このデモンストレーションは騎士団員達の士気向上を目的としていた。魔導師団団長と副団長が使う魔法は属性魔法の基礎のもののみで、魔力のコントロールさえ慣れればすぐに二人の様に魔法が使えることになる。騎士団員達はワクワクしながらデモンストレーションを観ていた。
デモンストレーション後、ペアに分かれて訓練が開始された。
ヴィアもルカとペアになり訓練を始める。
「じゃあ、魔力流していくね」
ヴィアはルカの手を取ると自身の魔力を流していく。ルカにもヴィアの方へと魔力を流してもらうが、ルカの魔力が途切れ途切れに流れてくる。
「ルカ、どうかした?」
「…いえ、ヴィア様に魔力を流すことに緊張して」
ルカは少し気まずそうに答える。ヴィアは気にせずに流すよう言うが、変わらなかった。
「じゃあ、ヴィア様は私と代わってください」
エヴラールがルカの手を取り、素早く魔力を流す。エヴラールの魔力がルカの体内に流れると、ルカの顔色がどんどん悪くなっていく。ヴィアもエヴラールの蛇のような魔力を経験したのでルカの気持ちが理解できた。
「……もう魔力流さなくていい…」
ルカはポツリとこぼすが、エヴラールは魔力を流すのをやめない。ルカの反応を見て楽しがっているようだった。ヴィアが注意すると仕方なく魔力を流すのをやめる。
「では、逆に私の方に魔力を流してください」
ルカはエヴラールへと魔力を流す。ルカの魔力にエヴラールは驚いていた。その様子にヴィアはエヴラールにどうかしたのか、と尋ねる。
「魔力は安定していますし、流れてくる量も魔導師団員と変わらないので…ちょっと驚いてしまいました」
「魔力量があってもコントロール出来なければ意味は無い」
ルカの言葉をにエヴラールは頷いて納得する。
ルカの魔力は安定しているということで、次は風属性の魔法を発動できるか確認するが、これも問題なく発動させる。
「うーん…ルカも他の騎士団員達も普通に魔法を発動させてるのよね」
「そうですね…戦いながらだと制御出来ないという話ですので、実際にそれを見ないといけないですね」
ヴィアとエヴラールは困っていた。いや、二人だけでなく魔導師団全員が困っていた。そこで、騎士団には順番に普段通りの訓練をしてもらうことになった。魔法使用有りで。
結果、全員が魔法を制御出来なかった。あらぬ方向に飛ばしたり、発動しても不安定だったりした。
魔導師団側で話し合い、至った結論は『魔法に慣れろ』だった。魔導師団員達は日常でも魔法を使用するが、騎士団員達は一切使っていない。基本は学院で習ったからできるが、応用力が付いていないのであればそれを付けるしかない。
「うん、皆には魔法に慣れてもらおう!日常生活で魔法を使うようにもしよう」
魔導師団員達が日常でどの様にして魔法を使っているのか教えていく。火属性の者は指先に微かに火を灯らせる、風属性の者は風で物を片付けるなどと、属性によって違うので、またペアになって訓練していく。
「じゃあ、ルカにはエヴラールの髪を結ってもらいます!」
「「は?」」
ヴィアの言葉にルカとエヴラールは声を揃える。
ヴィアは説明するよりも見てもらったほうが早いと思い、自身の髪を結っていた髪紐を外し、魔法を使って髪を結っていく。その様子にルカとエヴラールは見入っていた。
「ヴィア様は普段からご自身で髪を結われているのですか?」
「ううん、クロエがやってくれるよ。でも、クロエが忙しそうな時だけ練習がてら自分でしてるの」
ヴィアがおどけて言う。あまり自分でやるとクロエが怒ることは黙っておいた。
ヴィアはルカにポイントだけ説明すると、早速実践してもらう。
エヴラールの肩まである髪を微かな風で纏め、ヴィアから借りた髪紐で結っていくが、途中で魔力を入れ過ぎたのかエヴラールの髪を纏めていた風が霧散した。
「あー…惜しい!でも最初でここまで出来るのは凄いよ!」
ヴィアは素直にルカを褒める。ルカは悔しそうにしていたが、またすぐにエヴラールの髪を結い始める。エヴラールはもうマネキンと化していた。
「ヴィア様、ヴィア様。私はこのままじゃないとダメですか?」
「うん!ルカのために今は動かないでね」
ヴィアが笑顔で言い切るとエヴラールは顔を引き攣らせていたが、諦めたのかもう何も言わなかった。
今日の合同訓練が終わる頃、ルカはエヴラールの髪を結えるようになっていた。他の騎士達も教えて貰ったことを何とか出来るようになっていたので、次回の合同訓練に今日の訓練内容を確認することにした。