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13.




 ヴィアがグレンと騎士団員達から護身術と称して剣を学んで一カ月程経った。

 体力、筋力共に着実に鍛えられ、一カ月前は剣を振ることが出来なかったヴィアも、今では軽く打ち合えるほどになっていた。


「だいぶ成長したね、ヴィア。最初はすぐ辞めると思ってたけど、ちゃんと自分の力にしているね」


 グレンはヴィアの頭を撫でながら、ヴィアの成長に感心していた。ヴィアとしては言葉の中にトゲがあったのを見逃さなかった。


「すぐ辞めると思っていたのですか?」


 ヴィアは頬を膨らましてグレンを見る。グレンはヴィアの様子に苦笑しながら答える。


「今までのヴィアなら辞めていたはずだよ。事故から多少変わったとはいえね」


 グレンは未だヴィアの頭を撫でていた。

 ヴィアとしては、グレンの言葉はある意味正しいのでそれ以上は何も言えず、グレンに頭を撫でられるままでいた。

 暫くしてからグレンはヴィアの頭を撫でるのをやめた。


「俺は明日から学院に入学する。もし、ヴィアがまだ剣を学ぶつもりなら騎士団長達には話を通しておくからいつでも来たらいい」


 グレンの言葉にヴィアは悩む。グレンが学院に入学するという事は、エヴラールが出張を終えて王城に戻ってくる。そうなると今みたいに毎日騎士団の元へ来ることは出来なくなる。せっかく学んだ剣も疎かにしたくはないが、魔法も学ばないといけない。ヴィアはうーんと唸りながら悩み続ける。


「別に今みたいに毎日じゃなくていい。ヴィアにも予定があるから、騎士団に行くときだけ事前に伝えておけば問題ない」


 ヴィアが悩んでいるのを見てグレンが助言をする。


「では日にちを決めて騎士団に行くようにします」


 ヴィアはグレンの助言に従って結論を出す。ヴィアの言葉にグレンはまたヴィアの頭を撫で始めた。


「お兄様、なぜ頭を撫でるのですか?」


「嫌か?」


 質問を質問で返された。

 ヴィアが嫌ではないと返すとグレンは微笑む。騎士団の元で剣を学んでから、グレンは意外と表情が豊かだと気付いた。今までヴィアはフィリップにしか感心がなく、グレンと接してこなかったため、グレンのことをよく知らなかった。前世の記憶が戻ってからも、グレンは感情が見えない人物だと思っていたが、実際には親しい人にしか見せないだけだと分かった。ヴィアもその中に入ったことになる。


「明日から寮に入る。しばらく妹を可愛がれないから今しているだけだ。気にするな」


 グレンはなんの気も無く言った。だが、言われたヴィアとしては、その言葉に心臓を撃ち抜かれた。

 ブラコン卒業宣言をしたが、惑わせるようなグレンの言葉にヴィアは意志が折れそうだった。が、乙女ゲームの舞台である以上、ブラコンでいたらシナリオ回避できない可能性があるため、ヴィアは心を強く持つことにした。


 





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「ヴィアさーまー、お久しぶりです。私、やっと王城に戻ってこれましたー」


 グレンが学院に入学して三日後の今日、魔導師団訓練場に着いたヴィアの元へエヴラールが勢いよく駆け寄って来た。が、ルカに羽交い締めにされていた。


「エヴラールお帰り。急に連絡きたから驚いたよ」


 今朝、起きてすぐにエヴラールの使いがヴィアの自室へやってきたため、ヴィアはこうして魔導師団訓練場に来ていた。


「申し訳ありません…三日前に戻って来ていたのですが、報告書の作成に手間取りまして……」


 エヴラールは最後まで言わなかったが、ヴィアとルカはエヴラールは報告書に三日かかるほどの場所に赴いていたのだと理解した。


「エヴラール、魔法の授業の前にお願いがあるのだけど、いい?」


「出張と報告書作成以外でしたら、何なりと」


 エヴラールが冗談を口にすると、彼の頭にルカのゲンコツが落ちた。


「冗談も大概にしろ!」


 ルカが口調を強めて注意する。


「魔導師団と騎士団で合同訓練できないか、団長に掛け合ってほしいの」


 エヴラールは想像していない内容だったため、ヴィアの言葉を復唱していた。

 ルカがエヴラールに分かるよう騎士団員達の魔法についての現状を説明し、再度、合同訓練を提案する。

 エヴラールはルカの話を聞くと、何個か質問をして考え込んでいた。

 ヴィアとルカはエヴラールの返事を静かに待っていた。エヴラールは考えるのをやめて、二人に笑顔を向ける。


「じゃあ、今から団長の所に行きましょうか!」


 エヴラールはそう言うと、二人を置いて訓練場から出て行った。ヴィアとルカは出て行くエヴラールを呆然としながら見ていたが、すぐに我に帰るとエヴラールの後を追い、訓練場をあとにした。




「団長ー、面白い話持って来ましたよー」


 エヴラールは魔導師団団長の執務室のドアをノックも無しに思い切り開けて入って行く。が、入った瞬間、部屋の中から投げられた本がエヴラールの顔にヒットする。


「貴様はノックをすることもできんのか?」


 低く唸るような声が部屋の中から聞こえる。エヴラールの後ろにいたヴィアとルカはその声に少し怯む。


「まぁ、それは置いといて。今日はお客様もいますよ」


 エヴラールは全然悪びれる様子もなく部屋の中に入っていく。そして、勝手に応接机の上を片付けていく。エヴラールの様子に団長が未だ怒り冷めやらぬ様子ではあった。エヴラールはそんな団長を無視して、部屋の外に佇むヴィアとルカを中へ入れると、椅子に座るよう誘導する。

 王女であるヴィアが部屋に入ってきたので、さすがに団長も驚いていた。


「王女殿下…お見苦しい所をお見せし申し訳ありません…」


「…いえ、急に来てしまったこっちが悪いので…気にしないでください」


 団長がヴィアに謝罪するが、ヴィアは逆に自分が悪いと言うしかなかった。

 一番悪いことをしているエヴラールは、何食わぬ顔で副団長を団長の部屋に呼んでいた。


「…で、エヴラール。王女殿下まで連れて急にどうした?」


 団長が冷静にエヴラールへ尋ねる。


「さっきも言ったじゃないですか、面白い話があると」


エヴラールはニコニコ笑いながら団長に返す。副団長はエヴラールに面白い話とは何か聞いていた。


「魔導師団と騎士団で合同訓練をしてみませんか」


 エヴラールはさらりと告げる。

 団長と副団長は表情こそ変えていないが、突然の提案に驚いていた。


「私も先程提案されたのですが、騎士団員達は実戦での魔法の使用が不得手のようで、それを補うために魔導師団に指導してほしいと。それに我が魔導師団員も魔法は使えても実戦経験は少なく体力面に不安があるので、いざというときの戦力としては遥かに劣ります。そこを騎士団員に指導してもらうことも必要ではないでしょうか。魔導師団と騎士団、お互いに不足しているとこを補うための合同訓練、こんなに面白い…良い話はないと思いますが?」


 エヴラールは急に丁寧に話し始める。団長と副団長の顔を見ると、エヴラールの話の内容について真剣に考えているのが分かる。


「ちなみに発案者はヴィア様です」


 エヴラールがヴィアを示しながら言う。突然話題の中に放り込まれたヴィアはエヴラールを睨む。


「…何も知らない王女のバカな提案と思ってもらっていいです。でも、魔導師団と騎士団がお互いに助け合いながら高め合っていければ、我が国の未来は安泰だと思います。それにせっかくの才能が発揮されないままなのは勿体無いです」


 ヴィアはエヴラールから団長と副団長の方へ顔を向け、二人を真剣な眼差しで見つめて告げる。それに呼応するようにルカも頭を下げて、騎士団員として二人にお願いする。

 団長と副団長はお互いに顔を見合わせると頷き合う。


「話は分かりました。騎士団の方へ私達からも話をして、合同訓練が開催できるよう働きかけてみます」


 団長はそう言うとヴィアへと頭を下げる。それに副団長も倣う。


「殿下、この度は我々のためにありがとうございます。国を守る立場の者として、その立場に見合った働きができるよう精進して参ります」


 団長の言葉にヴィアはどう返していいか分からず戸惑っていたが、期待していますとだけ何とか口にする。団長と副団長はヴィアの言葉に微笑んでいた。

 ヴィアとしては魔法と剣を学ぶのもいいが、王女としての作法ももっと学ぶべきかと頭を悩ませていた。

 




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