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11.




「えっ⁉︎エヴラール、明日から居ないの⁉︎」


 エヴラールから魔法を学び始めて一週間経った。最初の内は王女が食堂で昼食を食べていたことに周りはザワついていたが、一週間経てば全員がそれを当たり前と思うようになったのか、静かになっていた。今日もエヴラールとルカの三人で昼食を食べていると、エヴラールが明日から出張で王都を離れると話し始めた。


「はい、ヴィア様。四月から学院に入学する者達の魔力測定が未だ終わっていない地域があるらしく、それに駆り出されることになりました」


「四月から…あと、一カ月しかないのに間に合うのか」


 ルカは話の内容を聞くと少し呆れていた。エヴラールもルカの言葉に投げやりに答える。


「間に合わせるしかないですよ〜そのために私が駆り出されるんですから……」


 心底嫌なのか、エヴラールはアゴを食堂の机の上に乗せて唸っていた。それをルカが行儀悪いと注意する。性格的に合わないと思った二人だが、なんだかんだで仲良くなったことをヴィアは喜んだ。


「エヴラール以外に行く人はいるの?」


「風属性が使える者はあらかた駆り出されます。本来なら馬車で向かう行程を、風の魔法を使って各地に行くようになりましたので…なので、ポーションが大量に必要なるため、今朝から薬室が泣いてますよ〜」


「薬室の者達も可哀想に…」


 エヴラールの言葉にルカが相槌を打つ。これが日常化していたが、エヴラールが出張となれば暫くはこの日常も無くなる。その事にヴィアは少し寂しさを感じていた。その気持ちをヴィアは素直に口にする。


「エヴラールが居なくなると寂しいね…」


「ヴィア様……私も寂しいです。折角、ヴィア様と楽しく魔法を学んでいたのに。団長達に恨みを募らせながら仕事することになりそうですよ〜」


「そこは真面目にしろ‼︎」


 ルカがツッコむと、エヴラールは口を尖らせるとアゴを机の上にまた乗せる。ルカがエヴラールを睨むもエヴラールはやめる気配はなかった。


「ヴィア様、私が居ない間は魔法を使わないでくださいね。何かあった場合対処できませんので」


 エヴラールの言葉にヴィアは頷くと、エヴラールの頭にゲンコツが落ちた。体勢を戻さずに真面目な話をするエヴラールにルカもキレたみたいだった。あまりの痛さに涙ぐみながらルカに抗議するエヴラールと、それを意もしないルカのやり取りは五分ほど続いた所でヴィアが止めに入った。


 未だ終わっていない昼食を終わらせて、午後もエヴラールから魔法を学んだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 翌日、エヴラールが出張のためヴィアは予定が一切なかった。

 自室でゴロゴロしようかと思っていたが、クロエに散歩に誘われたので、クロエとルカの三人で王城の庭園を散歩することにした。

 以前行った東の庭園ではなく、西の庭園を散歩する。西の庭園は大きな池と小さな噴水が二つあり、それらを繋ぐ通路の脇には木々がシンメトリーに配置されていた。


「西の庭園は幾何学的な庭園なのね。東とは違った趣でいいね」


 西の庭園は前世のテレビで見た有名な宮殿の庭園にどこか似ていた。


「西の庭園は木々の列植を寸分の狂いもなく行っていますし、奥にある池も定期的に清掃していると聞きます。なんでも、二代国王のご要望でこの様な庭園を造られたとか」


 クロエが庭園について説明する。


「二代目ってほぼ建国当初からこの形を保っているの?」


「そうなりますね」


 ヴィアはあらためて庭園を見回すが、庭園の木々や噴水などの設備は千年の時を全く感じさせなかった。池も清掃のおかげか濁っておらず、透明度が高く底が見えていた。

 高度な技術を持って造られた庭園は静かで散歩するにはうってつけの場所だった。ヴィアは他にどんな風景があるのかと、ワクワクしながら庭園の奥へ進んでいく。奥にはさっきまでは無かった花壇があり、その奥から何か音が聞こえてくる。


「ヴィア様、この先は騎士団の訓練場となります」


 ルカがヴィアへと説明する。花壇は庭園の終わりを意味していた。そして、この先は危険だとルカが伝えるが、ヴィアは気にしていなかった。


「騎士団の訓練場って随分奥にあるのね」


「魔導師団と違い、騎士団の訓練場はドーム型ではないので、周囲に危険が及ばないように王城からは離して建てられたと聞いています」


 ルカの説明に納得したヴィアは訓練場へと向かう。ルカとクロエは危険だと言い、ヴィアを止めに入る。


「ほんの少し見るだけでいいから‼︎それに危なくなるような訓練でもしてるの?」


「私のような騎士に取っては危なくないですが…ヴィア様とクロエはそういったのに慣れておりませんので、何かあった場合を考えると…」


 エヴラールと居る時以外冷静なルカが焦っているのが分かる。だけどヴィアも譲る気はなかった。


「自分を守ってくれる騎士が、普段どんな訓練しているかみたいの。少しでいいからお願い、ルカ」


 ヴィアは真剣な表情でルカを見つめる。ルカはすぐに諦めたようにため息をつく。


「遠い場所からでの見学と、私の指示にちゃんと従ってくださることが条件です」


「はい、ルカありがとう‼︎」


 ヴィアはルカに満面の笑みを向けてお礼を言う。ルカはヴィアが喜んでいるので顔が綻びそうになるか、後ろにいるクロエが自分を睨んでいるのを察知したため、なんとも言えない表情をするしかなかった。



 ルカはヴィアとクロエを比較的安全な場所へ誘導する。ルカが誘導した通路は外に繋がっているので、何かあればすぐ避難することができる。また、念のため強化ガラスを降ろしていた。ここに連れて来る前にルカは騎士団の一人に何か告げていたので、ヴィアが見学に来ていることを訓練中の何人かは知っていると思われる。

 騎士達は一対一で訓練しているが、多対一の訓練もしていた。


「やっぱり騎士達は魔法を使わないんだね」


「いえ、使ってもいいのですが…コントロールが下手な者が多いので使わないというより、使えないと言ったほうがいいかもしれません」


 ヴィアの呟きにルカが答えるが、クロエがそれに反論する。


「魔法学院で学んだら最低限は使えるようになると思うのだけれど。私も土属性の基本的な魔法は使えるようになったし」


 クロエの言葉が正論すぎたのか、ルカは困り果てていた。


「…私も通常なら風属性の基本的な魔法は使えます。他の者たちも同じだと思います。しかし戦いながらだと普段通りに魔法を使っているはずなのに、魔法の規模が大きくなって制御できず事故になりかける事が多々あるんです…なので、私を含め騎士達は魔法を使わないようになっています」


 ルカの言葉にヴィアとクロエは何も言えなかった。騎士団が剣のみで頑張っている理由は結構深刻なものだった。


「じゃあ、魔導師団と合同訓練でもしたら?魔導師団の人達も訓練するのだから、その中でどんな風に魔法を使っているのか聞いたらいいと思う!エヴラールが帰ってきてから提案してみようよ」


 ヴィアは落ち込むルカを元気付けるために、少し大きな声で明るく話す。ルカはヴィアの話の後少し考えこんでいたが、今後の騎士団のことも考え了承してくれた。

 ヴィアは再度訓練に励む騎士達を見ると、ある一人の騎士が目に入った。


(あれ?あの人って…)


 長い黒髪を頭の後ろでお団子に纏めているまだ若い男の子。いつも朝必ず会う人にそっくりだった。てか、本人じゃないか⁉︎


「ねぇ、ルカ‼︎あそこにいるのって…」


 ヴィアは訓練場にいる人物をさしながらルカに尋ねる。ルカはグレン殿下ですと、さらりと答えた。ルカはグレンが騎士団に居ることに疑問を感じていなかった。つまり前からグレンは騎士団に出入りしていたということだ。

 ヴィアが訓練場のグレンをジッと見つめていると、グレンも視線に気付いたのかヴィアの方へと顔を向けてきた。グレンはヴィアの姿を見て一瞬驚いた表情をするが、すぐに表情を戻し手招きしていた。ヴィア越しにそれを見ていたルカが下に向かいましょうと、ヴィアとクロエに告げる。

 ヴィアは訓練場まで降りると、グレンがヴィアの元にやってきた。


「どうした?騎士団に来て」


「西の庭園を散歩していたら、訓練場の近くまで来てしまったので…ルカに頼んで見学させてもらっている所でした」


 ヴィアはなるべく丁寧な言葉遣いでグレンに話すが、グレンは気にしていなかった。


「お兄様はいつから騎士団に来ていたのですか?」


「五年前くらいかな」


「そんなに前からですか⁉︎」


 ヴィアはグレンが五年前から騎士団に来ていたことに驚いた。五年も通えば、騎士達の中で誰が優秀であるかを自分の目で判断できる。それに騎士がグレンを敬愛していることにも理解できた。騎士達にとって、自分達のことを理解してくれる王族なんて普通は居ない。だからこそグレンは騎士達には特別なのだと、ヴィアはグレンと騎士達の繋がりを感じた。


「お兄様、私に剣を教えてください」


「ーーは?」


 ヴィアの突拍子もない言葉にグレンはどうしたコイツとでもいうような表情をしていた。


「お前は王女だから剣を覚える必要はないだろう」


「王女だからこそ、もしもの時に備えて護身術程度でもいいので覚えておきたいのです」


「もしもの為に専属護衛がいるだろう」


「ルカを頼りにはしています。でも、彼だけに頼っていたくないのです」


 ヴィアの必死な訴えにグレンは未だ承諾していないが、あともう少しだとヴィアは思った。


「教えてもいいんじゃないですか、殿下。王女だからって言ってたら、殿下だって王子なのにってなりますよ」


 グレンの後ろから聞こえた声の主は副騎士団長だった。副団長の言葉にグレンはさすがに何も言えなかったのか、ヴィアが剣を覚えることを承諾した。

 ヴィアは副団長にお礼を言うと、グレンの方を見て笑顔でよろしくお願いしますと告げる。


 こうしてヴィアは明日から、グレンに剣を教えてもらうことになった。

 




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