10.
午後からは魔法の実技の授業を行う。庭園から少し歩いたところに魔導師団の訓練場があるので、そこに移動した。
「魔導師団にも訓練場があるのね」
「魔法は練習しないと上手く使えません。それに騎士団の訓練場は魔導師団からは遠いですし」
ヴィアの素朴な疑問にエヴラールは答える。
魔導師団の訓練場はドーム型になっていた。練習中の魔法があらぬ所へいかないようにとエヴラールは冗談ぽく言うが、冗談ではないのだろうとヴィアは感じた。
魔法学院で魔法を習ったとしても慣れない魔法を発動させた場合、どんな被害が出るか分からないためドーム型にしたのだろう。
エヴラールの訓練場に着くと直ぐに魔法を発動させた。
「今のは何の魔法?」
「この訓練場に近付いてきた者を知るための魔法です。この訓練場はドーム型なので、外から見ても中で行われていることは分かりませんが、流石に中に入って見られると困りますので、念のためです」
エヴラールはそういうとヴィアへと手を差し出す。ヴィアは何も分からずただその手を見ていた。
「殿下、もう一度魔力を流しますので手を出していただけますか」
「えっ⁉︎また、あれをやるの?」
ヴィアは魔力を流されるのが苦手となった。体の中を他人の魔力が流れていくのが好ましく思えなかったからだ。ヴィアの嫌そうな顔にエヴラールは苦笑していた。
「昨日、魔力を流した際どう思われました?」
「うーん…エヴラールの魔力が蛇みたいに体の中を巡ってて…」
ヴィアはそれ以降言葉を続けなかった。流石に気持ち良くないと言えばエヴラールが傷付くと思ったからだ。
「蛇ですか…それは初めて言われました!気持ち悪い、不快とはよく言われていたのですが!」
エヴラールは傷付くどころか笑っていた。エヴラールの魔力についてヴィアは言葉を選んだが、真っ直ぐ伝える人がいたようだ。
エヴラールは笑いを抑えると、ヴィアの手を自分の手に合わせる。ヴィアは戸惑うしかなかった。
「私からは流しませんので、殿下が魔力を私に流してください。体内の魔力を操れなければ魔法は上手く使えませんので」
エヴラールの言葉は説得力があるため、ヴィアは素直にエヴラールへと魔力を流した。エヴラールが時々、強くや弱く流すよう指示を出すので、ヴィアはそれに従い魔力を流していく。
エヴラールが止めるまで魔力を流していたためかヴィアは少し疲れた。
「殿下、お疲れ様です。本来ならギブアップしてもおかしくないはずなのですが、流石ですね」
悪気なく告げるエヴラールにヴィアは苛立ちを覚え、睨みつけた。
「殿下の魔力は月のようですね。静かに、でも強く光る様が。私の蛇とは大違いですね」
エヴラールはヴィアの魔力について語る。それは恍惚とした表情で。
エヴラールの表現にヴィアは照れ臭さを感じた。
「では、さっそく魔法を学んでいきましょう!殿下はどの属性から学びたいとかありますか?」
話と表情をサッと変え、エヴラールはヴィアに尋ねる。ヴィアは悩むが、簡単に答えは出ないのでエヴラールに尋ねる。
「エヴラールはどの属性が良いと思う?」
「私は氷属性が良いと思います」
エヴラールはキッパリと言い切った。
ヴィアはエヴラールの言葉にまた悩み出す。
「殿下は唯一氷属性をお持ちです。もしもの為に制御出来るよう学んでおいて損は無いと思います」
エヴラールの言う通り、氷属性はヴィアしか保持していないし、もしもの状況が気になる。ここで悩んでも解決はしないので、ヴィアはエヴラールの言葉に従うことに決めた。
「エヴラール、氷属性の魔法について教えて」
ヴィアがエヴラールの目を見て告げると、エヴラールは頭を下げた後、どこからともなく本を出した。
「では、先ずは氷を出してみましょう。それが出来たら形が均等の氷を三十個程形成してください」
「えっ、ちょっと待って⁉︎その本は何?てか、急にスパルタ?」
「この本は私が考えた氷属性の魔法を学ぶ方法を書いただけのものです」
手に持つ本が魔法の教材でも何でもないとエヴラールは笑顔で言い切った。ヴィアはその笑顔で選択を間違ったと悟る。落ち込むヴィアをよそに、エヴラールは早くやりましょうと、笑顔で息巻いていた。
夕方を報せる鐘が三回鳴り響く。
「おやぁ〜、もうこんな時間ですか。殿下、今日はこれくらいにしましょう!」
エヴラールは残念そうな声でヴィアへと告げるが、ヴィアはそれどころではなかった。均等の大きさの氷にしな垂れかかり、疲れきっていた。
「初日でここまでとは、流石ですね」
エヴラールは嬉々として言うが、ヴィアの耳には届いていない。
『ステータス』を出してヴィアは現在の魔力を確認する。
ヴィア・ヘーゼルダイン(第一王女、転生者)
体力:140/1,020
魔力:1,920/5,000
状態:疲労
魔法系スキル
水属性:Lv1
風属性:Lv1
氷属性:Lv2
「エヴラール……明日もこの量の氷を作るの?」
「はい、勿論です!これは基礎として考えてますので、最初の内は毎日していきます」
エヴラールの言葉にヴィアはさらに疲労が増していくのを感じた。これを毎日するために体力が自分には伴っていない、ならば並行して体力作りも必要であると。
ヴィアはエヴラールに体力が保たないと告げると、午前の座学を止めて体力作りを行うことになった。脳筋になりそうだとヴィアは感じる。
エヴラールに回復魔法をかけてもらい、ヴィアは何とか魔導師団訓練場から自室へと戻った。疲れ切った体で食事と入浴を済ませ、ヴィアはベッドへと転がり込んだ。すぐにでも寝そうだったが、大事なことを伝えていないと思い、目を必死に開けてクロエを呼ぶ。
「クロエ、明日から昼食は大食堂で食べるわ。料理長にも伝えといて。エヴラール達が普段食べている食事を食べてみたいの…だから……」
ヴィアは眠気に勝てず、最後まで言い終わる前に眠りについた。
クロエはヴィアに布団をしっかり被せると、ヴィアの言い伝えを料理長へ伝えるため部屋を後にした。