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漫才ネタ

バックグラウンドは差別

作者: 空見タイガ

【GETUP!GETLIVE!漫才・コント大賞】に応募できなかった漫才のネタです。

ツッコミ「伏線回収する作品っていいよな。素晴らしい物語はむだがひとつもないんだって思う!」


ボケ「え? 無駄が嫌いなんだ? よく生きているね、今」


ツッコミ「共感を求めただけなのにそこまで言うかあ、ふつう!?」


ボケ「きみの定義だと素晴らしい物語とはそれすなわちあらすじね」


ツッコミ「違うんだって! 一見はぜい肉に見えるものが、後になって意味があったとわかるみたいなあ」


ボケ「ダイエットに失敗したデブの妄言それすなわち防衛機制ね」


ツッコミ「本物のぜい肉が後になって意味をもつ例なんてないし! 脂肪が厚すぎて銃弾が跳ねかえって生還しましたみたいな時しかないし!」


ボケ「いったいどうして意味があることを求めるわけ? 突き詰めると、自分という趣味・嗜好をもつ個人が生きる意味なんてどこにもないんだから意味がなければだめなら死ぬしかないね」


ツッコミ「すぐに教唆してくる! そういう話じゃないんだって、作品、フィクションの話だよこれは!」


ボケ「おかしなやっこ」


ツッコミ「いや、俺の感覚のほうが多数派だからあ。チェーホフの銃って言葉もあるし!」


ボケ「チェーホフの作品、三つも挙げられなさそう」


ツッコミ「それぐらい知ってるよ! 桜の園・プロ―ポーズ・熊」


ボケ「光文社古典新訳文庫をチラ見したね」


ツッコミ「それに伏線が回収されると、ぐっと深みが増すって例もあるから!」


ボケ「作者が考えた伏線回収するために組み立てられただけの物語に奥深さなんてなくない? 完成形をバラして自由に思考させているふりをするそれすなわち平面パズルね」


ツッコミ「ああいえばこう……イヤ~な言動の人物がでてきたと思ったら! 後になってからその人の過去が明かされて、だからあの時あんなことを言ったんだって見方がころりと変わって価値観を揺さぶられるのもすっごく良いって思う!」


ボケ「え?」


ツッコミ「え?」


ボケ「どうして過去が明かされたら、それより後の言動に納得できるの?」


ツッコミ「えー、そこからか! ほら、バックグラウンドだよ、背景! こういう道を歩いてああいう経験をして、だからそう考えるようになったって背景がね、しっかりと練られている作品ほど納得できるもんだから」


ボケ「なんで?」


ツッコミ「なんでって、逆に何がそう引っかかるのかなあ?」


ボケ「親から虐待を受けて学校ではいじめられて近所の野良猫を虐殺していた過去があってもやさしい人だってきっといるし」


ツッコミ「ん?」


ボケ「愛されて恵まれて何不自由なく育ったのに気まぐれに人のサドルを盗むやつだっている」


ツッコミ「最初のたとえと比べてギャップよわくない?」


ボケ「しかしAの場合Bをしない人間はいないという前提でないと納得しうるバックグラウンドとやらは作れない。おそろしい、きみがナチュラルにそれを肯定したものだから、僕はおそろしい」


ツッコミ「なに言ってんのかまったくわかんなくて、こっちのほうがおそろしい!」


ボケ「こういう道を歩いてああいう経験をしたらそう考えるようになるって偏見を作り手と受け手で共有して楽しむ、それすなわち差別ね」


ツッコミ「もー! 記号やらアトリビュートやらデータベースや文脈を共有することで現実ほどの情報の量でなくてもAからBに伝達できる、これがフィクションだから! あるあるネタに偏見だねってツッコむようなものだあ!」


ボケ「あるあるネタ、それすなわち偏見ね」


ツッコミ「言った!」


ボケ「嘘をついてまで偏見を強化しあう人でなし」


ツッコミ「フィクションのことを嘘って言うなよお」


ボケ「なら本当なんだ。たしかに桃から子どもが出てくるのはリアルだと思った」


ツッコミ「それこそ嘘つけ!」


ボケ「断片的に語られたことが結びつくとき、それは強い偏見と結びついている。無駄のない物語の作者とその愛好者それすなわち差別の達人ね」


ツッコミ「てか現実の俺たちだってだいぶ物事を簡略化して、人のことをすぐキャラとして捉えて理解した気になって楽しようとするし! 物語の登場人物はその認識をさらに簡略化した記号であって、差別では断じてなあい!」


ボケ「で、紙を回転させて記号をひっくり返すことで、見方がころりと変わって価値観を揺さぶられてぐっと深みが増すわけね」


ツッコミ「え?」


ボケ「あっさー」


ツッコミ「ひどっ!?」


ボケ「理路整然と深いバックグラウンドを回収できていると思っている作者のみなさーん、己の浅薄さから生まれた偏見を全世界に公開しているだけだよー!」


ツッコミ「何の呼びかけだよ! やめてよお!」


ボケ「大衆とそれに迎合したクリエイターが中途半端にゾラをやる、それすなわち空々しい!」


ツッコミ「もうやだ!」

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