73話 『おねえさん』
6歳の男の子シュンは休日、母方祖父母宅に預けられていたが、母が迎えに来た。
「今日シュンくんとスーパーに行ったんだけどね」
祖母が娘――シュン母――に今日あったことを話す。
「スーパーの店員さんに、シュンくん、『おねえさん』って呼んで話しかけたのよ」
「ふーん……」
反応の薄い娘に、祖母はこの話の重要部分を告げる。
「私より年上っぽい、年配の店員さんに対してよ!
『おねえさん』って」
「えっ」さすがに驚いた表情の娘。
祖母より年上っぽいと言うことは……60代? の店員さん?
感心したようなしみじみした調子で祖母は続ける。
「すごいわぁ……
子どもに『おばさん』とか言われてももちろんその店員さんも嫌じゃないだろうけど。
『おねえさん』と呼ぶのはすごいわ!」
祖母は娘をいぶかしげに見た。
「あなたがそう言う教育したんじゃないの?
『女性の店員さんなどに話しかけるときは「おねえさん」と言おうね』みたいな感じで」
「いや、そんな教育してないよ!」
母は我が子を不思議そうに見た。
「どこで習ってきたのかしら?」
「良いことよ~」
祖母は実感を込めた調子で言った。
※
シュンは思っていた。
(俺より大分年下だからなあ。
つい『おねえさん』と呼んでしまったんだ)
『変だったか』
と思ったが、しかし祖母の反応を見ていると悪くないみたいなので、これからも『おねえさん』と言おうと思った。
(いや、『てんいんさん』の方が良いだろうか?)
とも思ったが、
『てんいんさん』、『おねえさん』
どちらが保育園児として似つかわしいか判断できなかった。
(まあ、保育園児として、さほど名前の知らない店員さんと話す機会があるわけではないし……)
シュンは判断を保留した。




