72.5話〈閑話〉 転生者
小学二年生の男の子マオは自宅で兄のタオとその友達サトシがゲームをするのを見ていた。
すると手を動かしながらサトシが言った。
「あの子、元気か? あの……タオのお下がり着てた子」
「?」
兄が首を傾げるのに、
「あ、シュンくんだね」
マオが説明する。
「この前〇〇(※ショッピングセンター名)でサトシくんと偶然会ったとき、シュンくんも一緒にいたんだけど。
そのとき、シュンくん、お兄ちゃんからもらった服を着ていたんだよ」
「あ。そーなんだ。
お母さん、シュンくんに俺が着てた服あげてるんだ」
「うん」
「ふーん……」
「〇〇レンジャーの服着てた」とサトシが言うと、
「え、懐かしー。久々に名前聞いた」
「だろ?」
「でもシュンくん、流行遅れなんじゃないか?」
「まあ旬ではないね」
「ははは」
「……」
「……」
「……」
「シュンくんなら元気だよ」
とマオは言った。
「うん。元気だな。普通に」
とタオも同意した後、
「でもなんでシュンくんのこと聞くの?
一回ちょっと会っただけだろ?」
「ん~。なんか、印象に残ってるんだよな、あの子のこと……
だから今も思い出したんだろうな」
と言うサトシの言葉を聞いた瞬間、マオの中でサトシの株が今までより上がった。今までもサトシに対して好感を持ってはいたが……
「ふーん……」
とタオが言う。
「ま。わかるけど」
(お兄ちゃんもわかるんだ!)
マオは思った。
「なんか。……面白かった」
と、友人の従弟のことだからか、探り探り言葉を選んで言うサトシに、
「シュンくんはちょっと変わってるんだよなあ……」
と、直接的な『変わっている』と言う言葉を使うタオ。
「だよな」と頷くサトシ。
(あれ……悪口になる……?)
ドキドキするマオ。
「シュンくんはさあ」
とタオは言った。
「なんか頭良さそうなんだよ……」
「あ~わかる、かも」
とサトシ。
「なんか頭良さそう、だよな。
実際良いの?」
「いや。普通っぽいよ」
「ふーん」
するとサトシは何かを思いついたような顔をした後、茶化すように言った。
「もしかしてシュンくんてあれかもな……『転生者』」
「ははは。人生二度目?
いや。雰囲気的にありえる」
「ありえるのかよ」
マオはそんな兄たちの会話をドキドキしながら聞いていたが、
(二人とも、なんだかんだシュンくんのこと、認めてるんだな)
と言う結論になった。
(二歳も下なのにシュンくんのことかなり気にしちゃうの、俺が変なのかな~と思うときたまにあったけど。
俺の感覚、あってるみたい)
ちょっとホッとした。
※
その後、タオ及びマオ宅で、シュンとサトシが再会するときがあったが。
シュンへの挨拶として
「よぉ、転生者」
とサトシが、タオとマオにだけ通じれば良いと思って冗談を言うのに、
「てんせいしゃ!?」
シュンが思わぬ食いつきをし、
「え、」
戸惑うサトシ。
「なに、てんせいしゃ、って……
ぼく、てんせいしゃ、……!?」
たたみかけるシュン。
「もしかして、サトシくんも、てんせいしゃ?」
目を輝かすシュンに、サトシは困ったように、
「いや、ごめん。冗談なんだよ……」
反省した様子で、保育園児にもわかりやすいように少し嘘混じりの弁解をする。
「転生者が出てくるアニメが流行っているから。
『おまえこの世界に転生してきたんじゃね?』みたいなことを冗談で言うのが学校で流行ってるんだ。
だからシュンくんにも言ってみたんだよ」
「そうなんだ……」
「ごめんな」
「だいじょうぶ」
と言いながらもちょっとガッカリした様子のシュンを見て、
(子どもをからかって、悪かったな。
まだ言っている意味がわからないと思ったんだよ……それでも意地悪だったな。俺が悪かった)
ともう一度反省し、
(それにしても、転生者と言う言葉を知っている風なのには驚いたけど――保育園児が知っているほど『転生もの』って流行っているのか?
やっぱり、子どもなんだな……
転生者と言われてあんなに喜ぶなんて……
そんな純粋な子どもをからかっちゃ駄目だった)
『悪かった』罪悪感を疼かせるサトシだった。
(シュンくん……)
マオも同情しつつ、
(俺も、シュンくんのこと『なんか頭良さそう』と思って接するの、もしかしてシュンくんには負担かけてるのかもな……
ほんとはシュンくんはもっとちゃんと無邪気な子どもらしいのかもしれない……)
自分でもちょっとよくわからない自省をするのだった。
※
その後シュンはマオに子ども向けの転生ものの漫画を借りることになったが――『シュンくんは転生ものが好き。興味がある』と思われたのだ。
(サトシくんが転生者じゃなかったのは残念だが――俺を転生者と見抜いたと言うことはサトシくんも転生者なのかと思ったのだが。
なかなか興味深いことを知ることができた。
今の時代では転生者の話が流行っているとはなかなか不思議なことではないか。
まあ、輪廻転生的な考え方は昔からあっただろうが……)
しかし結局漫画を読むのが面倒くさいと言う気持ちの方が勝ったので、両親だけが読んだ。
(転生について、もっと必死になっても良いだろうに。
呑気な性質だなあ俺は……
深刻さが足りないんだよ)
と思った。




