72話 お下がり
6歳の男の子シュンはショッピングセンターで母親と買い物中、同じく母親の買い物に付いてきていた従兄で小学二年生のマオに出会った。
母親同士がおしゃべりをする傍ら、シュンとマオも話をする。
すると
「あ、マオじゃん」
と言う声がした。
声をした方を見て、
「あ、サトシくん」
マオが軽くあいさつをすると、
「隣の子は?」
サトシはシュンに視線を向けて聞く。
「従弟のシュンくん」
「へえ。いくつ?」
サトシの質問にシュンは「6さい」と答えた。
「小一?」
「ほいくえん」
「そっか」
するとサトシはシュンを見ているうちに何かに気付いたようで、
「その服、なつかしー」
と言いつつシュンの着ている服を指さした。
「昔、俺、好きだった。ごっこ遊び? とかめっちゃしたし」
「そうなんだ」
とシュンは答えた。
「ぼくは、しらないんだ、このテレビ」
シュンは自分の服を引っ張り、絵柄――戦隊シリーズ『〇〇レンジャー』の絵が描いてある――を見た。
「俺が保育園の頃にやってたのだし。知らないか」
とサトシは笑った。
「俺も久々に思い出した。なつかしい」
「そうなんだ」
「でも知らないのに着てんの?」
「タオくんにもらったんだ」
「なるほど」
「うん」
「……」
「……」
「じゃあ、そろそろ親と合流しなきゃだから。またな」
サトシはマオとシュンに手を上げてあいさつをすると、去って行った。
マオはサトシの背中が小さくなった後、シュンに言った。
「あの子、お兄ちゃんの友達なんだ。
よく家に来るから、俺はまあ仲良いけど……」
ちょっと気にかけるような調子で
「シュンくん、嫌じゃなかった?」
タオは小学六年生で、サトシもタオの同級生だ。
小学六年生は体が大きいので、たまに会うマオはともかく初対面のシュンは怖かったかもとマオは思ったのだが……
シュンはケロリとした調子で、
「ぼくもサトシくんとおはなしできてよかったよ」
「そう?」
「うん。
ぼく、タオくんいがいで、あれぐらいのとしのことはなすこと、あんまりないから、めずらしかったから。
おもしろいよ」
(シュンくんやっぱりすごいな)
とマオは思った。
(俺は知らない高学年の子と話すのちょっとビビっちゃう)
それからマオは先ほどのサトシとの会話でもう一つ気になっていたことを聞いた。
「シュンくん、その服イヤじゃない?
お兄ちゃんが着てた服」
マオはシュンの、何年か前にテレビで放送していた『〇〇レンジャー』の服を指さしながら言った。
タオのお下がりはまずマオに回ってくる。
マオがタオのお下がりを着ると、二人に着られたことでたいていヨレヨレになるので、シュンのところまでタオのお下がりは回ってこずに、処分される。
なのでシュンのところへ来たタオのお下がりは『マオが嫌がって着なかったのでまだ綺麗な状態のもの』なのでシュンのところへ回ってきたと言える。
(タオが着た → マオが着る → ヨレヨレになる → 処分
タオが着た → マオ着ない → まだきれい →シュンのもとへ)
(俺、知らないライダーとかレンジャーの服着るの嫌だったから、全然着てないんだよな。
それよりそのときやってたやつの着たかったから買ってもらってた。
俺が着なかったからシュンくんが着ることになっちゃったんだ)
『シュンくんにちょっと悪かったかな』
と思いながら聞いたマオだったが、
「ぜんぜん、いやじゃないよ」
とシュンはニコニコ言った。
「このふくのおかげで、サトシくんもぼくにはなしかけてくれたでしょ。
だからよかった」
「……」
マオは何故かよくわからないが心が震えた。
(シュンくんてほんとすごいよ)
※
(実際、この服は話のネタ――話のタネ――になるのだ)
とシュンは思っていた。
保育園の子が、今見ているテレビと
『なんかちがう……』
と言う不思議そうな顔でシュンの着ている服を見てきたり。
保育園の先生が、
「その服、懐かしいなあ。
ちょっと前のだよね。先生も見てた。
えっ6年前? 嘘……そんな前?」
と話かけてくれたり。
近所のお母さんが、
「そのテレビ、うちの子、熱心に見てたわ。
私も俳優さんググったりしたなあ……SNS見たりもした」
懐かしんだり。
(ミヨちゃんは
「それ、いまやってるテレビのふくじゃないね」
と聞いてきて、
「むかしのなんだ。いとこのおにいちゃんのふくをもらったんだ」
と俺が言うと、
「シュンくん、おさがりきて、えらいね」
と褒めてくれた)
保育園児が『お下がり』という言葉を知っている、とちょっときゅんとシュンはしたのだった。
※
ちなみにミヨは
(シュンくん、とても落ち着いた子だけど。
戦隊シリーズとかライダーシリーズとか子どもが好きなものがやっぱり好きなのね。
よく着てるもの。
見たことない何年か前のものまで着てる。
ローテーションしてる)
『可愛いな』と思っていた。




