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54話 実在した

 5歳の女の子ミヨは家のリビングのソファに座ってアニメを見ていたが。

 アニメの中の女の子がぷくっと頬を膨らませて怒るのを見て、最近あったことを思い出す。


 保育園。

 年長組と年中組は同じ場所――遊戯室――で過ごしていたが。

 ミヨより1つ年下の女の子アヤナとジュリが一緒に遊んでいたが、ケンカを始めた。

 ミヨは同い年の女の子と遊びつつ、2人の様子を見守っていたが。


「アヤナちゃんは悪くないもん!」


 とアヤナは言うと、ぷくっと頬を膨らませた。


 ミヨはそれを見て衝撃を受けた。


(『頬を膨らませる』って実在したの!?)


 『頬を膨らませる』――怒りの表現。

 『表現』としては知っていたし、ある程度の年齢の人間が頬を膨らませたとしても驚かないだろう。

 しかし『頬を膨らませる』と言う表現が存在するとはまだ知らないはずの保育園児が怒ったときに『頬を膨らませている』とは!


 つまりは『頬を膨らませる』は実在した!

 実在する怒りの表現をそのまま言葉にしたのだ! ――『頬を膨らませる』


 ミヨはアヤナの様子を見守った。


「全然アヤナちゃんは悪くない!

ジュリちゃんが貸してくれないんだもん!」


 ぷく、っとアヤナはまた頬を膨らませた。


(……可愛い)


 とミヨは思った。

 怒り心頭のアヤナにとっては不本意だろうが……。



※※※


 ……そんな保育園でのやりとりを、アニメを見つつ思い出したミヨだった。


(でも。

アヤナちゃんも『アニメで見た表現』の可能性もあるのかな……)


 幼児用アニメのキャラクターもよく頬を膨らませるから……。


 ミヨはアニメを見ながら頬を膨らませてみた。

 アヤナの真似であったが……


「はあ……」


 と言うため息が聞こえてきて、その方を見ると。

 父がキラキラした目でミヨを見ていた。


(……お父さん……?)


 父は母がリビングに来ると、妻に報告した。


「今さー。

ミヨちゃんがアニメ見ながら、頬を膨らませてた」


 父は自分で自分の頬をぷくっと膨らませて見せた。


「ちょうど敵が悪いことをしているところで。

ミヨちゃん、だから怒ったんでしょ?」


(怒っていない……)


「えへへ」


 とミヨは曖昧に笑った。


「いや、ほんとに怒りの表現として『頬を膨らませる』ってあるんだな、って俺、感動しちゃった」


「へえ~。

『文学的表現』じゃないのね!」


 と妻も楽しそうな顔をした。


「私も見たかったわ~」


「すげー可愛い!」


 と言う父の誉め言葉にミヨは照れた。


「あ。でもアニメで覚えた可能性もあるか」


 と父はアニメを指差した。

 アニメではまさに今、女の子が再び頬を膨らませていた……。


 それでその話は終わったが……


(こんなに喜んでもらえるなら。

もっと女の子らしい表情ができるように頑張ろうかな……)


 と思うミヨだった。


(でも、やっぱり。

あんまりわざとらしいことは自分で何だか恥ずかしくなって、できないけど……)

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