6話 ミヨの朝
5歳の女の子ミヨは、太陽の光をまぶたに感じ目を覚ました。
(まだ眠いわ。
布団から出たくない)
とミヨは思った。
(でもカーテンを閉めなくてはダメ。
日の光はお肌に悪いもの)
ミヨは布団から何とか起き上がり、カーテンを閉めた。
チラリと時計を見る――まだ5時半頃だ。
(カーテンを開けたまま寝たおかげで、お日様の光で早くに目を覚ますことができたわ)
ミヨは思う。
(保育園でお昼寝するから、朝早起きしないと夜に早く眠れないのよね)
本棚の上に置いてある鏡を見る。
(お肌には夜10時頃から2時頃までちゃんと寝るのが良いと聞くわ。
と言っても今はそんなことないと言う説もあるようだけど。
テレビで見た)
鏡の中の自分のプリプリの肌を観察する。
(小さい頃からお肌に気を使うのに越したことはないわ。
私は色白だけど、『色の白いは七難隠す』と言われる一方、シミが出来やすいとも聞くものね)
ため息を吐く。
(それに私は心がおばあちゃんだもの。
精神的に若くない。
精神的老いが見た目にも影響する可能性があるから、若く保つためにできることはすべきだわ)
ミヨには前世の記憶があった。90数歳まで生きた記憶が。
シュンと同じく唯一のエピソード記憶が『90数歳まで生きた』と言うことで、あとは意味記憶しか覚えていない――多分『日本』に住む『日本人』であったろうと言うことしか、わからない。
ミヨは自分の顔を確認すると鏡から目を離し、頭の中で音楽を流し始めた。
ラジオ体操の曲である。
(ラジオ体操を何回かしたら、1日の運動量を満たすと聞くわ)
ミヨは頭の中の音楽に合わせ、身体を動かす。
(夜眠れるよう、身体を動かさなきゃ)
ミヨがう~んと伸びの体操をしたところで、子ども部屋のドアが開き、ミヨの母が部屋を覗いた。
母親に気付き手を上に上げたまま硬直しているミヨを見て、母は一瞬驚いた顔をし、その後ふふと笑った。
「ミヨちゃん、早起きね」
「……うん!」
「もう起きたのならリビングへ行こうか」
「うん!」
ミヨは母と部屋を出た。
母は娘の少し後ろを歩きつつ、
(子どもも朝起きたとき、あんなに大きな伸びをするのね)
と可笑しそうな顔をしていた。
※※※
ミヨは朝食を大方食べ終わり、デザートを口に頬張った。
「おかあさん、イチゴおいしいね!」
とミヨは母に声を掛ける。
母は微笑み、
「もっと食べたかったら、お母さんの分あげるわ」
「えっ、いいよ!」
とミヨは断るが、母はミヨの皿に自分の皿からイチゴを3個移した。
(そんなつもりじゃなかったのに。
何だか悪いことを言ってしまったわ)
とミヨは思いつつ、イチゴにフォークを刺す。
(それにしても今のイチゴは本当に甘くて美味しいわ。
昔はもうちょっと酸っぱかったと思うのだけど)
イチゴを口に入れる。
(でも私、酸っぱいイチゴも好きよ。
と言うか酸っぱい方が、イチゴって感じがすると思う。
もちろん甘いのも好きだけど、酸っぱいのも好きだわ)
思い出す。
(前、酸っぱいイチゴを食べたとき、『酸っぱいね!』と私が言ったら、お母さん、もうその品種を買わなくなった。
でも私、酸っぱいイチゴがイヤで、そう言ったわけじゃなかったの)
その後母がその酸っぱいイチゴに練乳をかけたことを思い出し、
(私、イチゴに甘い物をかける感覚がわからないわ。
練乳やチョコをかけたら美味しいのはわかるけど、何だかせっかくのイチゴがもったいない気がするの)
と思った後、
(でもイチゴ大福は好きだわ。
変ね。
イチゴ大福も酸っぱいイチゴに甘いアンコを付けて食べるようなものなのにね)
などと考えた。
そしてイチゴを全て――母から貰った分も――平らげた。
ミヨが食べ終わるのを見て、
「お父さんのイチゴもあげようか?」
と父親が言った。
「えっいいよ!」
と断ったが、父親もミヨの皿にイチゴを3個乗せた。
ミヨは申し訳ないと思いつつ、イチゴを食べる。
(親って本当に有り難いものだわ。
こんなに良くしてくれるんだもの)
ミヨは少し暗い気持ちになる。
(私も前世で誰かの親だったのよね、多分……。
わからないけど)
少し首をかしげ、
(私の前世の子どもは今どうしているのかしら……?
家族は……?)
わからないと軽く首を振り、その後、
(でも前世の記憶が曖昧なのは。
天の情けなのかも知れない)
とミヨは『前世』のことを考えるたび行き着く考えにまた今日も辿り着いた。
(私は薄情なのかしら……。
でも……)
ミヨは暗い気持ちのまま
(私は90数歳まで生きたんだもの。
それから何年後に輪廻転生したかもわからないし。
子どももきっと良い年だわ……)
そこまで考えが行き着くとミヨはブルッと身体を震わせた。
その後、顔を上げ自分と同じテーブルに着く両親を見つめる。
(今を感謝して生きる。
私にはそれしかできない)
とミヨは『いつもの最終結論』に辿り着くと、涙ぐむ目から涙を消そうと目をパチパチさせた後、両親を見て言った。
「わたし、イチゴだいすき!」




