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47話 『普通の子ども』

 5歳の男の子シュンは母の運転する車に乗っていたが、ふと車の端に光るものを見つけ、(かが)んで拾って言う。


「おかあさん、おかねあった」


 シュンの手には100円玉が握られていた。


「ありがとうシュンくん、そこに置いてくれる?」


 と母は車の小物置き場を指す。


「うん」


 そのとき後部座席から


「シュンくん、えら~い!」


 と言う声がし、シュンは『なぬ……?』と思いつつ振り返った。

 カズシ母がニコニコしているのが目に入る。


 偶然カズシとカズシ母が歩道を歩いているところを通りかかったシュン母は、彼らを家まで車で送ってあげることにしたのだ。


(何が偉いのだ。

お金を拾って渡しただけだ……)


 と思うシュンの心を読んだわけではないだろうが、カズシ母は言った。


「カズシなら絶対、家でお金を拾ったら、そのまま自分の財布に入れるもん!

シュンくん、お母さんにお金ちゃんと渡して偉~い!」


 母の隣に座るカズシはむくれた。


「俺だってちゃんとお母さんに『お金あったよ』って言うし」


 その後、


「まあ、その(あと)、『そのお金、俺にちょうだい』とは言うかもしれないけど……」


 と『てへ』と言った調子で付け加えた。


「でしょ」


 とカズシ母は言う。


「でもシュンくんはそんな素振り、全然見せないもん。

偉い!」


 シュンは『むう』と思った。


(こう言う『思わぬことで褒められる』ことには慣れないものだなあ)


 と言うのも『子ども』としてどっちが良いか、わからないからだ……。


(『小銭』に興味津々で、こっそり自分の物にしてしまうくらいが、子どもとして似つかわしいのかもしれんな)


 子どもはある程度『悪ガキ』、『クソガキ』であった方が良いのではないか? とシュンは思うのだ。


(俺が小銭をお母さんに渡すのは、あんまり小銭に興味がないからなんだなあ……)


 今の生活で十分満足しているから、『小銭』の使い途がない。

 そして『前世の記憶』があるから、『小銭』に対してあんまり憧れがない……。


(しかし今度からもっと『悪ガキ』として、小銭をちょろまかすくらいした方が良いかもしれんな)


 と思ったが多分やらないな……と思った。

『小銭をちょろまかすことで感じるだろう良心の痛み』が面倒くさいと思った。

 小銭にそのような罪悪感を感じてまで得る価値があるとは思えない、と言うか。


(俺は変な『5歳児』だよ……)


 といつもの結論をシュンは今日も思うのだった。


 ちなみにシュンの母は


「この子ね~、ちょっとストイックなところあるのよ。

お金とか全然欲しがらないの」


 と明るくカズシ母に言っていた。


「スゴいわ~」


 と言うカズシ母に笑ってシュン母は、


「と言うか、ちょっと変なのよ」


(おいおい、お母さん。

俺が『普通の5歳児』だったら傷ついていたかもしれんぞ)


 しかしシュンは『普通の5歳児』ではないので泰然としていた。


(お母さんも俺が傷つかないと思って、言っているんだろうなあ……。

まあ、実際傷つかんが)



※※※


 5歳の女の子ミヨはスーパーで、立ち話をする母と近所のおばさんの話が終わるのを待っていたが。

 目の前でおばあさんが小銭を落としたのに気付くと、拾って渡してあげた。

 おばあさんはミヨと、ミヨの後ろにいる、ミヨと一緒にお金を拾ってくれたミヨ母にお礼をいっぱいして去っていった。

 

 その後、近所のおばさんがニコニコ、ミヨを褒めた。


「ミヨちゃんは、とっても良い子ね!」


「えへ……」


 とミヨは照れたが、その後おばさんがミヨ母に言うのを聞いて不思議になる。


「ミヨちゃんはホントに良い子ね~。

『善行が自然』だわ」


 『善行が自然?』ミヨは少し首を傾げながら耳を澄ませた。

 ミヨ母も、おばさんの言い方がおかしかったのか笑顔で、


「でも。

チサちゃんもきっと拾ってあげたでしょう?

ほとんどの子は拾ってあげるんじゃないかな」


 チサとはおばさんの孫である。

 ミヨより少し年上の女の子だ。


「そうね~。

でもね~、何だろう……。

チサだったらミヨちゃんくらいの年の頃、今のミヨちゃんみたいに『自然』な感じ?

『当たり前』な感じでは『善行』をしなかったんじゃないかなあ、って思うのよね」


「えっ」


 とミヨ母は首を傾げた。

 おばさん――チサ祖母――も少し自信なげな調子で、


「何かね、チサだったら、

『私、良いことしてるでしょ』

みたいな、ドヤ顔を隠せない様子で『良いこと』をしたと思うのよね。

ミヨちゃんくらいの年の頃にはね」


 と言うと、ミヨ母は目を丸くした後、納得したように頷いた。


「ああ……。何かわかります。

ちょっと『自意識』みたいな?

人目を気にした感じ?」


「そうなのよ~。

それが悪いとは全然思わない……と言うか、そういう所が子どもって可愛いんだけどね。

『ドヤ』みたいな、『チラッ』みたいなところが」


 ミヨ母が笑顔で頷く。

 おばさんは最後に言った。


「でもミヨちゃんは。

そんなところがないのよね~。保育園児の時点で。

『良いことしたでしょ!』みたいな、威張るところが……。

ミヨちゃんって、とっても良い子なんだなあ、っておばさん感動しちゃった」


 最後のところはミヨの顔を笑顔で覗き込みながらおばさんは言ったが、ミヨはごまかすように「えへへ」と言うしかなかった。


 おばさんの言うことはミヨにも何となくわかった。

 子どもとはちょっと『わざとらしい』ときがあるのだ。

 『自意識』の芽生えなのか……。


 ミヨも保育園の同じ組の子が、少し下の子に如何にも『わたし、おねえさんでしょ』みたいな態度で接しているのを何度も目撃している。

 そう言うところがまた、可愛いのだが……


 しかしミヨにはそれが、真似できない。

 きっと『演技』でそう言うことをするのが後ろめたいのだろう。


 ミヨはそっとため息を吐いた。


(『普通の子ども』って、とっても難しいな……)

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