44.5話〈閑話〉 おいしい方
5歳の女の子ミヨは保育園で同じ組の男の子シュンに質問された。
「ミヨちゃん、ぶどうのかわ、たべる?」
「たべないよ」
「ぼく、きのう、かわをたべたら、おかあさんにビックリされたんだ。
ミヨちゃんも、かわ、たべないほうがいいとおもう?」
ミヨは考えた。
ぶどうの皮、か……
(栄養的には皮まで食べた方が良いんだろうな。
でも今は農薬が心配ね。
けど、シュンくんのお母さんはきっとシュンくんが皮まで食べると知っているなら、十分洗ったり、有機栽培のものを買ったり、ちゃんと対策するんじゃないかな?
だから、農薬のことまでは心配しなくても良いかな……)
ミヨは簡単に言った。
「シュンくんがおいしいほうでたべればいいとおもう」
シュンが軽く首を傾げると、説明を長くした。
「シュンくんがかわつきのほうがおいしいなら、かわごとたべればいいし。
むいたほうがおいしいなら、むいてたべたらいいとおもう」
シュンは『なるほど~』と言った調子で深く頷いていたが……
「でも、ぼく、かわごとのほうがおいしいから、かわごとたべたんじゃないんだ。
かわをむくのがめんどうくさいから、かわもたべたんだ」
今度はミヨが『なるほど~』と深く頷く番だった。
(皮を剥くのが面倒……。
男の人には多いみたいね。
ウチのお父さんは皮を綺麗に剥いて食べるけど……。
シュンくんは面倒クサいのね……。
私はぶどうの皮、剥くの好きだけど――大きいぶどうの皮とか。
『おいしい、おいしくないは関係なく、ぶどうの皮を剥くのが面倒だから、皮を剥いて食べない』、か)
ミヨは考えた結果、
「シュンくんの『すき』にしたらいいとおもう。
かわをむいたほうがおいしいとおもうけど、かわをむくのがめんどうだから、かわをむかないでたべることが『すき』なら、そうすればいいとおもう」
シュンは感心したように頷いた。
「わかった」
笑顔で、
「ありがとう、ミヨちゃん!」
ミヨも嬉しくなったが、シュンと別れた後また考えた。
(消化のことを考えるのを忘れていたわ。
5歳児ならぶどうの皮を一房食べても大丈夫かしら?
それに『美味しい』『好き』で食べ物を選んで良いみたいなことを言ってしまったけど、限度と言うものがある。
食べ過ぎも良くないわ。
ちょっと無責任なことを言ってしまったかしら……)
考え過ぎるミヨは、結局先程思ったことを再び思った。
(でも大丈夫ね。
シュンくんのご両親がシュンくんのことをきっとちゃんと監督しているでしょうし……)
※※※
一方のシュンはミヨとの会話を思い出し、フッと笑みをこぼした。
(『おいしいほうでたべればいい』
『すきなほうでたべればいい』
みたいなことを言っていたな)
子どもとはシンプルで良いものだな、と思った。
(それに、ずいぶん真剣に考えてくれたなあ。
俺のある意味どうでも良い話を……)




