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44話 ぶどう

 5歳の男の子シュンの母親はスーパーで偶然、近所のママ友カズシの母に出会った。

 カズシはシュンの一個上である。


 世間話をしながらスーパーの商品棚を順番に見ていると、


「あ。

ぶどうが安いわよ」


 とカズシ母が言った。

 シュン母はカズシ母がレジカゴにぶどうを入れるのを見つつ、チラリと値段を確認した。

 確かに安い。

 しかし


「安いけど、ウチ、ぶどうを食べるの私だけなのよ」


「えっ。そうなの?

ダンナもシュンくんも、ぶどう嫌い?」


「と言うか」


 シュン母は笑いながら言った。


「うちの人もシュンも。

自分で皮を剥く必要がある果物って、バナナしか食べないの」


 カズシ母も笑った。


「わかる。

ウチもダンナはそうかも」


 「でも」と逆説の接続詞後、カズシ母は続けた。


「カズシは食べるわよ、ぶどうの皮を剥くの面倒じゃないみたい、『まだ』ね。

シュンくんホントに食べないの?」


 「う~ん」とシュン母は唸った。


「『ぶどうを食べなかった』と言うのが去年の記憶だからね。

今年は食べる可能性あったりして」


「あるよ~」


 とカズシ母は言った。


「子ども、ぶどう好きだもん!

きっとシュンくんも好きなんじゃない?」


 シュン母は考えてみた。


(確かに去年、シュンはぶどうを食べなかった。

『父親に似て――と言うか『男』って子どもでも――ぶどうの皮を剥くのが面倒なのかな』

と思いもしたけど……。

子どもの手は大人の手より不器用だものね。

今年は去年より簡単に剥けることで、食べるかもしれないわ)


 シュン母はぶどうをレジカゴへ入れた。



※※※


 家へ帰ってきたシュンに、夕食前の小腹を満たすためにとぶどうをテーブルに置いておいた。


「シュンくん、ぶどう食べてね」

 

 とも言った。

 シュンは元気に「うん!」と返したが……。


(果たして食べるかしら?)


 母は半信半疑だった。


 その後家事をし、ぶどうとシュンから目を離していた――シュンのことは時々確認はしていたが――

 ふとテーブル上を見ると

 

(あら?)


 ぶどうの入った皿が、こざっぱりしていた。


(シュン、ぶどう食べたわね)


 やはりカズシ母の言うとおり子どもはぶどうが好きなのだ、と母は思った。

 買って良かった……


(……?)


 しかし、何か違和感が……


(!?)


 皮が……ない!?


 ぶどうの皿には、ぶどうの『芯』しか残ってなかった。

 母は側で遊ぶ我が子に慌てて聞いた。


「シュンくん、ぶどうの皮食べたの!?」


 シュンは母の様子に驚いたのか目を丸くした後、


「ぼく、かわもたべた!」


 とどこか誇らしげに言った。


(何故誇らしげ?)


 母は考えた。

 ぶどう――『デラウェア』――の皮を食べる。


(栄養はあるかもしれない。

何でも皮の方が栄養があると言うもの。

でもその反面、残留農薬が心配だわ。

あと消化……子どもがぶどうの皮を食べても良いのかしら?)


 母はミカンの薄皮を食べ過ぎて消化不良を起こし病院へ行った赤ちゃんを知っていた――その子は『赤ちゃん』であるが。


 パソコンへ向かいググる――『ぶどうの皮 子ども』

 シュンは母の後ろに付き興味深げに母の様子を見守っていた。


(大丈夫のようね)

 

 と言うか、多くの人がデラウェアを皮ごと食べているようだ。


 しかし母には理解できない食べ方であった。

 普通に皮を剥いて食べた方が美味しいと思うのだ。


 パソコンに向かう自分の後ろに居る――パソコン画面をジッと見ている――シュンに聞いてみた。


「シュンくん、ぶどう美味しかった?」


「おいしかった!」


(う~ん……)


 どうなんだろう?

 『あまり皮ごと食べない方が良い』と言う方が良いのだろうか?

 しかし皮を剥いて食べるのは自分の習慣であって、皮ごと食べる人もたくさんいるのだ。


(皮ごと食べるな、と言ったら、ぶどう自体、食べなくなるかもしれないわ)


 母は「また買ってくるわね」とだけ笑顔で言った。


(皮も食べると言う前提で。

今度からはもっとぶどうを洗う時間を長くしよう)



※※※


 母の『ぶどうが美味しくて良かった。また買ってくる』と言う言葉に「うん!」と元気に返した後、シュンは考えた。


(おかあさんはどうやら俺がぶどうを皮ごと食べたので驚いたらしい)


 シュンはぶどうの皮を食べたことをむしろ褒められるかと思っていた。

 『残さず食べて偉いね!』と。


(これからは皮を剥いた方が良いだろうか?)


 母がググった結果を見ると、ぶどうの皮を食べることはさして珍しいことでもないようだ。

 食べても変ではない。

 しかし母は『食べない派』なのだ。

 『郷に入っては郷に従う』、ならば自分も皮を食べない方が良いだろうか。


 しかし


(ぶどうの皮を剥くなど、面倒で敵わん)


 『ぶどう食べてね!』と母に言われ、おなかが空いていたので食べたが――美味しかった――。

 皮を剥くならおそらく食べなかった……。

 『味』の問題ではない。


(俺は面倒くさがりだなあ)


 今更なことをいつもどおり思うシュンであった。 

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